西側のウクライナ支援に限度はあるのか?

鎌田 慈央

ico_k-pax/iStock

2014年のクリミア併合を黙認した西側

2014年にロシアがクリミア半島を一方的に併合した際、アメリカとその同盟国はそれを厳しく批判し、制裁も限定的であるが課した。だが、その時の批判のトーン、制裁の威力は今年2月24日以後に見られたものと比べるととても比較できるものではない。

クリミアを併合した結果として、ロシアは今現在のように、外交的孤立に追い込まれた訳ではなく、西側を主体とする国際経済の枠組みから放逐された訳でも無かった。それよりも2014年以後、ロシアと西側の結びつきは進展を見せた面もある。

ドイツはロシアから天然ガスを供給するためパイプラインの建設を進め対ロ依存を深化させた。日本は北方領土の問題でロシアの妥協を引き出そうと、首脳会談を幾度と開催し、対ロ制裁にはあまり乗り気では無かった。アメリカに至っては公の場で自国の情報機関よりもプーチン大統領の支持を公言する始末である。

西側が今回のウクライナ侵攻の時と全く違う態度をクリミア併合時に取っていたのは、ウクライナがクリミア半島を取り返すためにロシアと一戦を交えることはつり合いが合わないと認識していたことが要因としてある。一方で、クリミア半島はロシアにとっての歴史的に重要な土地であるとの主張を暗に認めていたことも西側が2014年当時に行動に出なかった理由として考えられる。

どこまでウクライナを支援する覚悟があるのか?

だが、クリミア併合から8年経った現在、ロシアの大胆で、非道な軍事侵攻を受けて、西側は一転してウクライナ支援のため総力をあげている。特にアメリカは最も多い額の支援を行っており、それゆえウクライナは今世紀に入ってからアメリカが最も軍事的支援を施した国となっている。

そして、開戦からの西側のウクライナに対する基本的なスタンスは「ウクライナが目標を達成するまで、支援し続ける」というものであり、先月のG7の会合でその姿勢は再確認されている。

ウクライナの今回の戦争での目標は、もちろん2月24日以後にロシアに奪われた領土を全て取り返すことにあるだろうが、ゼレンスキー大統領はロシアの大規模侵攻以後に取られていたクリミア半島もこの際に取り返すことも示唆している。

そのため、西側のウクライナ支援の原則と照らし合わせたならば、西側はウクライナのクリミア奪取まで支援することが論理的な帰結として考えられる。

クリミア半島の帰属はいかに?

だが、クリミア半島がロシアにとって特別な意味合いを持つことを理解している西側にそこまでの覚悟があるのかは見えてこない。それよりも、クリミア半島をどうこれから扱っていくかという問題に明確な答えが未だに出せていないというのが実際のところだろう。

その実態を如実に表しているのが、アメリカ外交の権威である外交評議会に所属するチャールズ・クップチャン氏がニューヨーク・タイムズ紙に投稿したロシア・ウクライナ戦争の停戦を求める意見記事だ。

まず、クップチャン氏はウクライナの軍事的攻勢によってロシアが追い込まれることが西側諸国との戦争に発展する恐れがあり、戦争による反動によって西側諸国の経済並びに民主主義が弱体化される懸念を挙げる。それゆえ、米国とその同盟国はロシアとウクライナ間の停戦が果たされるために外交的に介入する必要性があると主張する。

そして、停戦の条件として、第一にウクライナがNATOに加盟せずに軍事的な中立を保つこと、第二に外交交渉を通じてロシア・ウクライナ間の領土紛争を解決することを提示している。しかし、仮に停戦が現実となるための鍵となるクリミア半島については2月24日以前にウクライナが実質的に支配していた領土が返還されてから最終的に帰属が協議されるべきだとしている。

ウクライナの戦争遂行の原動力となっているアメリカ外交のエスタブリッシュメントとも言えるシンクタンク所属の識者が停戦を促していること自体が戦争の趨勢に対する危機感が深刻に捉えられている証拠である。またプーチン氏の核使用のリスクが高まっているとされる現在それは妥当なものである。

だがクップチャン氏の記事においてクリミア半島の究極的な処分が明確に示されていないことは停戦を目指す上で大きな障害となるであろう。

どの着地点がベストか

もし西側がウクライナがクリミア半島を奪還するまで支援するのだとしたら、それはプーチン氏を窮地に立たせることになる。2014年にプーチン氏がクリミアを併合した際、ロシア国民は熱狂し、プーチン氏の支持率は大きく伸びた。その熱狂はクリミア半島はロシアのものであるべきだという確信が一般国民のレベルまで浸透していることを現わしていた。

それゆえ、そのようなロシアにとって重要な領土が奪われるということは、ロシア国民から大きな反発を呼び起こすことが予測される。そうなれば、プーチン氏は懸念されている核使用を含めたあらゆる非理性的な手段を用いることを試みるであろう。

西側はロシアによるクリミア併合を座視したつけを今になって払わされている。そして、今になっても明確にどう対処するかの答えが出されていない。しかし、それは懸念されるべき事態である。

対処を誤れば、ロシア・ウクライナ戦争が第三次世界大戦にまで発展する危険性があり、クリミア半島の帰属がどうなるかについて西側からの明確な答えが出されていない現状は無責任である。加え、それを良しとしているようにも見える現在の西側の姿勢はあまりにも無謀ではないのだろうか。