音楽教室の演奏から著作権使用料を取る粗雑な議論

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実態を踏まえず新たな標的に

私は音楽教室に通い、週一回(30分)のピアノのレッスンを受けています。年間50回ほどで、月謝は1万円強です。都内、近郊に40教室を持ち、ヤマハピアノとも提携している中堅の教室です。もう数年になります。

数年前から、「音楽教室の練習も作曲家の著作権使用の対象になる。収益(売上)の2.5%を徴収する」と、日本音楽著作権協会(JASRAC)が要求し、音楽教室側(事業者数は全国で約250)が猛反対し、民事訴訟を起していました。東京地裁、知財高裁、最高裁まで巻き込んだ問題に発展しました。

ピアノ受講生の私は「著作権問題がここまで及んできたのか。カラオケから使用料をとるのと同じ論理か」と驚くとともに、「音楽教室の実態を踏まえず、法理論ばかりが先行した紛争だ」と思ってきました。

JASRACは作曲家、作詞家らから委託され、楽曲などの使用料を利用者から集めて、権利者に配分する組織です。委託契約者数は約2万、7770万曲を管理し、21年度の徴収額は1100億円ですから音楽文化に直結しています。

先月の最高裁の判決で最終決着し、今後は、JASRACと音楽教室側が使用料をいくらにするかの交渉を始めます。最高裁の判決の結果「講師分の徴収はできる。生徒の演奏からは徴収できない」ことになりました。

報道では「教室側が実質勝訴」と受け止め方をされています。音楽教室を体験している私にとっては、「受講生からの徴収も論外、講師の演奏からの徴収も実態を踏まえていない」と考えます。

JASRACの当初案にあった「生徒分を含めて2.5%の使用料」は乱暴な要求でした。「著作権法は、公衆に聞かせる目的で楽曲を演奏する演奏権は作曲者らが占有する」と規定しています。生徒は個人対個人でレッスンを受けるのであり、公衆に聞かせるために弾いているのではない。

「生徒分」は最高裁による決着で阻止されたからいいようなものの、JSRACが文化の振興を標榜するなら、猛省を促したい。

「生徒分」は除外されたものの、悪い影響がでています。年に一度、練習の成果を披露する発表会が企画され、私も4回ほど参加しました。「公衆に聞かせる」という懸念を排除するのと、コロナ対策が重なり、先日の発表会では認められ聴衆は生徒1人につき僅か2、3人でした。

多数の聴衆の前で生徒が演奏するのは「公衆に聞かせる」ためではなく、「聴衆がいても緊張しないで落ち着いて練習の成果を披露する」ためです。JASRACが著作権法を拡大解釈するものですから、「緊張感がある中で演奏する」という機会が失わています。

発表会は数回に分けて企画され、希望者は都合のいい日取りを選びます。私が「勉強のために他の発表会を聞かせてください」とお願いすると、教室側に拒否されました。「せめてプログラムだけでも見せてください」にも、「お渡しできません」という用心深さです。

さらに通常の受講料のほかに、「施設利用料(教室、楽器など)」という名目が作られるようなりました。JASRACが要求している楽曲使用料にカウントされないように、別途の収入源を持つためでしょう。

講師の演奏についても、どこまで実態を踏まえているのか疑問です。私はピアノのクラッシックを教わっています。モーツアルト、ベートーベン、ショパンなど200年以上前の作曲家で、著作権が切れています。

ここの教室では、ピアノ、エレクトーン、ヴァイオリン、チェロ、ギター、オカリナなど50コースがあります。著作権が消滅していない曲を練習しているのは、主にエレクトーン、ギターなどで、ピアノでもジャズのコースでは、著作権法の対象になるものがあるでしょう。

講師が模範演奏し、それが著作権料の対象になり、使用料を徴収するとしたら、それらに限るべきです。つまりレッスンのコース別に使用料の金額を決めなければおかしい。

JASRACへの支払いに迫られた教室運営組織は、受講生に転嫁し、受講料を値上げするでしょう。その場合は一律の値上げではなく、実態に合わせてコース別に設定するとか、どの程度の値上げにするかなど、きめ細かな対応が必要です。

講師の模範演奏といっても、私の場合は口頭による指導が多く、講師が手本が手本を示してくれるとしたら、ごく短いフレーズ、小節に限られています。全曲をすべて弾き切るということは皆無です。

他のコースでも似たような状態と想像します。使用料の当初案の2.5%は、講師分に限ると半分になるし、講師が実際に手本を示す時間に合わせた使用料を考えると、1%よりずっと少ないはずです。

JASRACは職員を生徒として教室に潜入させ、実態を調べたとか。恐らく、部分的な調査しかできていないでしょう。最高裁も知財高裁の判決は、実態を知らないまま、法理論優位で結論を出したと想像します。「講師からも生徒からも」を認めた東京地裁判決は不勉強にほどがあります。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年11月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。