マスコミが報じる日本の空き家問題の「本質」は何か?

空き家の増加が社会問題化し、昨今、さまざまなメディアが空き家問題を取り上げている。

外部不経済をもたらす空き家が問題なのは間違いないが、各メディアでの報じ方については、少し先鋭的になり過ぎている感も拭えない。

本稿では、既存メディアが報じる空き家問題の記事とは少し違った角度から空き家問題の「本質」について触れてみたいと思う。

decoplus.inc/iStock

849万戸ある空き家の「正体」とは

一般的に空き家問題というと、「ボロボロの廃屋」「マンションのスラム化」などをイメージする人も多いと思うが、そもそもこの「イメージ」が空き家問題の本質を歪ませる一因となっている。

まず、日本に約849万戸あるといわれる空き家に、人が住めないような「廃屋」は含まれていない。

各種報道で利用される空き家データは、国が5年ごとに行っている「住宅・土地統計調査(以下 住調)」を基にしたものだ。

この調査では、住宅の定義に「廃屋」を含んでいない。つまり、一般的にイメージされる「腐食が進んで人が住めない状態の空き家」はそもそも住宅としてカウントされていない。住宅としてカウントされないので、当然、空き家としてもカウントされない。

また、この調査では空き家を「棟ではなく戸」でカウントしている点にも注意しなければならない。

例えば、一戸建ても、アパートの1室も、ワンルームマンションの1室も、住んでいる人がいなければすべて「ひとつの空き家」としてカウントされる。

また、空き家としてカウントされる住宅は、入院や転勤など何らかの理由によって長期不在になっている住宅や、取り壊し予定の住宅(空き家の分類上は「その他の住宅」)だけではなく、新築・中古を問わず賃貸募集中で空き家になっている住宅や、新築・中古を問わず売却中のために空き家になっている住宅も含まれる。

つまり、借り手が決まる前、買い手が決まる前の「商品」としての住宅も空き家としてカウントされているのだ。

さらに、建築中の建物でも、「戸締まりができる程度」になっている場合は、内装が完了していなくても空き家としてカウントされる

空き家の内訳をみると、「賃貸用の住宅」が約433万戸で、「売却用の住宅」が約29万戸となっている。これらの住宅は売れ残らない(賃貸含む)限り、今後、空き家状態が解消される可能性があるといえる。

ここに別荘などの二次的住宅の約38万戸を加えると、約500万戸で、住調で定義される空き家全体の約6割を占める。つまり、利用目的が明確ではなく今後、空き家状態が解消される見込みのない空き家は、全体の約4割程度(約349万戸)という計算になる。

本来、空き家問題で焦点が当てられるべきなのは、この「約349万戸の空き家」と、住調では空き家としてカウントされない「人が住めない廃屋」なのである。

日本には築30年以上経過した住宅が約2,000万戸以上

国のデータによると、1980年以前(旧耐震基準)に建てられた住宅は現在、約1,160万戸ある。

さらに1981年~1990年に建てられた住宅は895万戸に上る。つまり、築30年以上経過した住宅が日本には2,000万戸以上あるのだ。

住宅の構造や仕様、これまでの修繕内容にもよるが、築年数が古い住宅は性能の低いものが多い。耐震性能はもちろん、省エネ性能、バリアフリー化、各設備の機能、間取の使い勝手など、新しい建物であればあるほど現在の生活ニーズにより近い性能を有している。

賃貸はもちろん、持ち家についても、性能が低く使い勝手の悪い古い住宅から、性能が高く使い勝手のいい新しい住宅へ住み替えたいと思うのは誰しも同じだろう。日本人は新築住宅が好きとよく言われるが、建築基準法が年々厳格化し、耐震性や省エネ性、断熱性、各設備の性能などが日々進化する日本の建築事情を鑑みれば、日本人がおのずと新築を選ぶのも当然といえる。

空き家が発生する原因を単に「人口が減少しているから」「住宅を造りすぎているから」と、世帯数と住宅ストック数の差だけで論じるのではなく、四季があり多湿で、地震が多い日本においては住宅の新陳代謝がある程度必要だという事をそろそろ認識すべきだろう。

性能が低い住宅から性能の高い住宅へと、住宅ストックの中身が置き換わる過程で一定の空き家が発生するのはある意味当然と言える。

空き家の本質的な問題

たしかに日本の空き家は増えているし、管理不全の空き家は、倒壊・崩壊・火災などの防災性低下や、犯罪誘発などの防犯性低下、ゴミの不法投棄、景観の悪化など、さまざまな問題(外部不経済)を引き起こす。

とくに今後は老朽化したマンションの管理不全を防止する仕組みづくりや、建替えの簡易化などついてさらなる法整備が不可欠だ。

国土交通省の調査によれば、築40年超のマンションは現在103万戸あり、10年後には約2.2倍の232万戸、20年後には約3.9倍の405万戸となる。老朽化や管理組合の担い手不足が顕著な高経年マンションが急増する見込みだ。

国は、昨年12月と今年4月に「マンション建替円滑化法の改正」を行い、老朽化マンションの建替え等を円滑化する取り組みを強化しているほか、現在では区分所有者全員の同意が必要な大規模改修の要件を、2024年度をめどに「5分の4以下」に引き下げる案を軸に検討している。

このように、マンションの建て替えや大規模改修のハードルを可能な限り下げることで、将来世代へ継承できる良質な住宅を供給(既存住宅の大規模改修含む)することは、住宅の新陳代謝の為には今後も一定程度必要になる。

これは戸建の除却・建替え・改修にも共通するが、性能が低い住宅をどうやって高性能の住宅に置き換えるかが空き家問題の本質なのではないだろうか。

人口減少と空き家の増加に相関関係はあるが、そもそも人口が増加傾向にあったとしても質の低い古い住宅は当然に市場から駆逐される。耐震性能が足りていない住宅なら尚更だ。

「日本は空き家が多い!」「少子高齢化でどんどん空き家が増える!」「住宅供給が多すぎる!」「住宅リストラが必要だ!」などと、センセーショナルな言葉で空き家の増加を嘆き、ただ危機感を煽っても全く無意味なのである。

【参考】