ロールズの「正義論」を考える:「無知のベール」という考え方

米国の政治哲学者、ジョン・ロールズが1971年に刊行した「正義論」は大きな反響を呼んだ。

ロールズの正義論の中で有名なのは「格差原理」だ。

すべての人々にチャンスや機会は開かれるべきであり、「最も不遇な人々の利益が最大になる」よう資源配分が行われたければならないと説いた。

ジョン・ロールズ ハーバード大学HPより RawlsBruceStanfield/istock

平等に権利やチャンスが与えられても、自由競争に敗れる人たちは必ず存在する。

そのような不遇な人たちの利益を確保するような制度をつくるべきだと説く。

ロールズがどこまで想定していたかは不明だが、生活保護のようなセーフティネットを想像すれば当たらずとも遠からずだろう。

その理論的根拠が、以下の「無知のベール」という考え方だ。

ベールを被ると自分がどういう立場にいるのかが完全にわからなくなると想定する。

男性なのか女性なのか、若者なのか高齢者なのか、どのような人種なのか、富裕層なのか貧困層なのか・・・等々。

そのような状態で人々が集まって制度をつくるとしたら、無知のベールを脱いだ時に自分が最低最悪の状況の立場であっても何とか生活できるような合意を結ぶべきだとロールズは説く。

無知のベールを被っている時は、自分の立場がさっぱりわからない。

功利主義が説くように、5人を助けるために犠牲になる1人かもしれない。

リバタリアニズムの説く自由競争に敗れて「寄付」のみに期待する立場かもしれない。

このようなリスクを回避するために、無知のベールを被った人たちはセーフティネットが完備された社会制度をつくるはずだと。

しかし、世の中にはリスクテーカーも一定割合でいるはずだ。

貧困層に陥るよりも遙かに少ない確率であったとしても、大富豪になるためのリスクを好む人間もいるだろう。

リスクテーカーが一定割合存在するとしたら、無知のベールを被っていても「セーフティネットなどいらない」と主張する人間も出てくるかもしれない。

無知のベールという考え方には、このような批判がある。

世界中には1日2ドル未満の絶対的貧困生活をしている人たちが、総人口の1割近くいる。

無知のベールを脱いだ時、自分が絶対的貧困の生活をしていると想像してみよう。


編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2022年11月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。