ロシアは制裁から逃れる為にトルコを利用している

エルドアン大統領とプーチン大統領 クレムリン公式HPより

トルコはロシアへの制裁に参加していない

トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領に最も信頼されている外国のリーダーだ。イスタンブール市長を経験したあと公正発展党(AKP)を創設して、2002年から国政に参加。2003年にはトルコの首相に就任。当時のトルコはまだ国際舞台には登場していなかった。

また1960年から1997年まで4度の軍事クーデターを経験し軍事政権の根強い国であった。ところが、エルドアン氏が首相になって国家の舵を取り始めてから徐々に軍隊の国政への参加を抑え、嘗てのオスマン帝国の血を引くかのように国際舞台に登場して来るのである。

現在のトルコは中東、ヨーロッパ、アフリカとの接点に位置しエルドアン大統領は巧みな外交で存在感を示している。

トルコはEUからのロシアへの制裁に加わっていない。しかも、トルコは以下のような事情からロシアとの良好な関係を維持して行く必要に迫られている。と同時にEUもウクライナ紛争で対ロシアに関してプーチン大統領と良好な関係を持っているエルドアン大統領の外交手腕に頼らざるを得ない事情を抱えている。

トルコの現在の厳しい経済事情にロシアが協力

トルコの現在のインフレは80%。非公式にはその2倍の160%にまで到達しているとも言われている。ということから、トルコは十分な外貨を準備しておく必要がある。それに応えているのがロシアである。EUからの制裁下にあるロシアにとって物資を調達するのにトルコが唯一頼れる国となっているからである。

EUで歓迎されないロシア人の訪問先がトルコとなっている。年始から7カ月経過した時点で220万人のロシア人がトルコに入国。これは昨年比で41%の増加だという。

またウクライナ紛争が起きる前までに在住許可を取得しているロシア人は7万人弱であった。それが今年6月の時点で10万5000人まで急増。またトルコに25万ドル(今年5月からは40万ドル)を投資すれば市民権を取得できるということで、その投資額も増えている。

しかも、それによってトルコの国籍を取得して企業を設立すればEU内での取引も可能となる。1月から7月の間でロシア人がトルコで企業を創設した数は601社に上るそうだ。今年7月に、あるウクライナの外交筋からの情報によると、これら新しく創設された企業は民間並びに軍事使用が目的のテクニカル関係、機械そして産業部品をEUから調達してロシア向けに輸出しているということが明らかにされている。それがウクライナで懸念の材料になっているそうだ。(以上8月27日付「エル・パイス」から引用)。

ということから、EUがロシアに対し制裁を課したことに対しトルコはロシアの為にその穴埋めをやっている。実際、今年5月から7月の間でトルコからロシアへの輸出は20億ユーロということで、これは昨年同期比で37%の増加だそうだ。

イスタンブールにある海上輸送会社によると、ロシア向けの取引は80%増加しているそうだ。

トルコとロシアの助け合い

ロシアからの訪問客の増加と同国との取引の増大に伴ってロシアの決済システム「ミール(MIR)」をトルコは採用。というのも、スイフト(SWIFT)だと、ロシアからの入金の遅れが目立ち、しかも決済で多くの書類が要求されるからであった。ところが、米国からの制裁を警戒したトルコの銀行はミールでの決済を停止した銀行もある。

そうは言っても、ロシアとの関係に崩れはなく、ロスアトムはトルコで最初の原子力発電所の建設の為にそのパートナーの資本金の増額の目的で30億ドルが送金された。更に100億ユーロが投入が追加されることになっており、その一部はトルコの国債の購入に充てられとされている。(上述紙「エル・パイス」から引用)。

このような決定もプーチン大統領がトルコを自国の味方として確保しておきたいからである。またトルコにとっても、外貨の入金はトルコの通貨リラの下落を抑えるのに役立っている。

NATOに2か国を加えるのにトルコの賛成が必要

トルコがロシアとの関係を深くしていることにEUが不満を持っていても、トルコに圧力を掛けられない理由がある。その一つがフィンランドとスウェーデンのNATOへの加盟にトルコの賛成が必要だからである。

もう一点はトルコに企業を創設したロシア資本の企業がEUから物資を購入してロシアに送っているということから、EUがその物資を供給している企業を制裁すると、それが間接的にトルコにマイナス影響を与えることになり、トルコはNATOの動きにことごとく反対の姿勢を示す可能性もあるからである。しかも、それがトルコを更にロシア寄りに傾くのを避けるためでもある。

トルコがNATOに加盟できた理由というのは、当時の共産主義ソ連と国境を接し、トルコ以外の黒海に面した国はどこも旧ソ連の影響下にあったワルシャワ条約機構に加盟していたからである。

地政学的に重要なトルコはもともと西ヨーロッパに接近したいという希望をもっていたこともあり、NATOへの加盟を認めたのである。しかも、黒海の戦略的な重要性を無効にすることができるのもトルコであった。黒海を封鎖できるボスボラス海峡とダーダネルス海峡はトルコの領土内にあるからである。

トルコのエルドアン大統領はこのトルコの置かれている特異性を利用してロシアとEUそして米国との間でバランスを取ってしたたかな外交を展開している。