Twitterのリストラとネットバブル:自社製品に興味がなかった人たち

谷本 真由美

TwitterやFacebookのリストラ劇を見ていて、ネットバブルの頃にそっくりだなと感じた。

必要なのはシステムを作って回して直すエンジニアと、営業や人事、宣伝などのコストセンターの人間は少ししかいらないのに、いつの間にかエンジニア以外の人が増え、不要な部署が拡大し、会社の金の横領、めちゃくちゃな経費の使い方などが横行して、結局利益なんか出ず破綻した会社だらけだった。

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前回のネットバブルの頃、自分はアメリカの情報管理の大学院にいて、ニューヨーク、ワシントン、カリフォルニアでバブル真っ只中のスタートアップを目にし、同級生の多くが就職していった。

赤字垂れ流しで投資家の金で豪華な福利厚生、陽キャラなパーティーやイベント。出張に行った先でランボルギーニやフェラーリをレンタルして事故を起こす人間、次々に知り合いを連れてきて高い給料を要求する、インチキなプロダクトへ投資を求める起業家、横領して海外へ高飛びする人なんかが本当にいた。

スタートアップの中の従業員もめちゃくちゃで、自分と同年代の20代半ばから後半が多く、利益が出てないのにいい気になって高級品を買い漁り、旅行や高級な食事が当たり前、いずれストックオプションで金持ちになるからと横柄だった。

すでにストックオプションで金持ちになった人がいて、皆たまたま運が良かっただけで、会社にへばりついて何千万円ものお金を手に入れていた。

彼らは学歴も技術も知能も大したことはなかった。会社にへばりついておこぼれをもらっただけに過ぎなかった。意味不明な仕事を作って、利益に貢献しないことをやっている人が大勢いた。エンジニア達はすごく怒っていた。

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会社の儲けの源泉であるシステムの仕組みもわかっていないし、PCを自分で組み上げられない人、プリンタすら繋げられないような人が、投資銀行や広告代理店や出版社や大学から次々にやってきた。彼らはエンジニアをオタクとかキモいとかバカにしまくっていた。

誰も自社の製品もサービスにも興味がなかった。SFもTCP/IPもアニメもコミックもスターウオーズも大嫌いだったので、エンジニアとは気が合わなかった。

彼らに重要なのはストックオプションと派手なパーティーと今話題のスタートアップで働いているという肩書だった。

創業者は後から来た人達を制御できなくなっていた。次々に仲間を連れてくるので派閥になってしまったからだ。スタートアップの創業者達は技術系で、コミュニケーションや政治や経営が得意ではない場合が多かった。

Twitterを解雇になった人らのTwitterの投稿を眺めていたが、彼らはログがすべてシステムに記録されるのに、Twitterで愚痴や新社長のイーロン・マスク氏に文句を送りつけていた。

なぜかどの国の人も解雇直後に元同僚とお互いを褒め合うつぶやきだらけで、自分達が以下に素晴らしいかという自画自賛だらけだった。

ユーザーや、実装できなかった機能、会社の大赤字のことをつぶやいていた人は殆どいなかった。

とにかく自分のことばかり考えていて、表層的でユーザーのことは全く考えていないのが呟きからよくわかり、がっかりした。中の人は「ツールとしてのTwitter」が大好きだと思っていたからだ。

思考や人なりはちょっとしたつぶやきからよく分かる。誰が自分のつぶやきを読んでいて、読んだ人はどう思うか、考えていない感じだった。

顧客第一なら解雇された人はお客さんであるユーザーに感謝の呟きをするだろう。

Twitterが大きくなり生き延びてきたのはユーザーの雑多な投稿があったからだ。ユーザーがいなければ空っぽのシステムに過ぎない。Twitterの顧客は広告代理店や食品企業ではない。

顧客第一で誠実なら、Twitterのタイムラインがなぜか異様に偏っていたこと、一部のユーザーが意味不明な理由で凍結されていたこと、収益に関係のない豪華なイベントは不要だったこと、認証マークの不透明さなどについて触れるはずだ。

在籍時に要求された倫理的に許されない無理な開発を拒否したと告白するエンジニアの人もいたが、それは本当にごく一部だった。Twitterをクビになった人々は、自社の製品を全く愛してないのがよくわかった。

広報やマーケティングなどTwitterの良さを伝えるはずの専門家、キュレーションなどコンテンツを扱う専門家のフォロワーが、165人とか400人、多い人でやっと1600人だった。しかもTwitterの登録時期をみたら10年前や8年前になっている。そしてハッシュタグの使い方や他のユーザーからの反応への返信も初心者丸出しだった。

彼らは社員同士で飲み会の予約のやり取りや、社内パーティー、会社の経費で食べたものの写真の投稿に熱心だった。熟練したユーザー達の会話に飛び込んできたら「半年ROMってろ」と言われるノリだ。

Twitterはオープン型のSNSで拡散することが特徴で、文字数も少ないので、見ず知らずの人に返信する時は短文で、気の利いたレスをするのが基本だ。Unix時代のメーリングリストに近い。

自分が12年近く使っていて13万人フォロワーがいるので、使い慣れた人の投稿はたった一つで分る。

多くは中年以上で、SFや無線機や吉野家にピザ、スターウオーズやサバゲー、戦車や歴史的偉人の美少女化が好きなユーザーからしたら、クルーザーやBBQやおそろいのTシャツでのマラソン大会の写真の投稿は不愉快なだけだ。

このコミュニケーション分野での専門家のはずの人達が、自社サービスを使いこなしておらず、そして特に思い入れもないらしく、InstagramやFacebook的な使い方をし、コアなユーザーが最も不快になる投稿を繰り返していた。

ユーザーはかつてクラスで孤立していた大人達だ。彼らはかつて自分が学校の修学旅行のグループ作りで自分だけ取り残されてしまったこと、運動会でお揃いのTシャツを着た集団にいじめられたことを思い出しただろう。

自分の居場所のはずのTwitterが、あの地獄の体験を思い出させる場所になってしまった。

だからクビになった人々に同情しないのだ。

クビになった人達は、ユーザーが誰かも知らないし気にしてもいなかった。だからなぜ今になって自分に同情が集まらないのか、困惑しているのだろう。

自社の製品を愛してない人間は、顧客に良い製品、良いサービスは提供できない。嫌いなものは良くしようとも売ろうとも思えないからだ。

これは自動車、本、ゲーム、映画、食品、農業、どこの業界も同じだ。

ロード・オブ・ザ・リングが面白いのは、作っている人達がトールキンの作品が大好きで凄まじい情熱があるからだ。

日本のアニメが物凄く面白いのは中の人達がアニメが大好きだからだ。

ガンプラがあんなに精巧なのはかつてのガンプラ好きが中にいるからだ。

優秀な寿司屋や漬物屋は自分がうまいと思うものをお客さんに勧める。

優秀な営業マンは自社の製品やサービスが大好きだ。

ビジネスを成功させるのは熱狂と情熱と興奮だ。

Twitterがユーザーが嫌がる改変を繰り返し、広告収入が微妙で、ユーザーが大好きな同人誌販売店や絵師のアカウントが不可解な理由で凍結されたりシャドウバンで見えにくくなっていた理由の答えがやっとわかったのではないだろうか。

フォロワーが13万人の私のTwitterアカウントは、買収後になぜか多くの人の目に触れるようになり、一つの投稿に対する「いいね!」やリツイートはかつての50倍ぐらいになり、やっと見かけるようになりましたというフォロワーの声が届いている。私はツイートの頻度も投稿時間も全く変えていないのだ。

理由はそのうち明らかになるだろう。