コロナ禍での新事業、リモート社員も巻き込み進めるための「3つのE」とは? (板山 翔)

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コロナ禍で事業環境が変わり、新しい事業に取り組む会社が増えています。事業再構築補助金の交付などで、政府が新規事業への進出を後押しした影響もあるでしょう。

テレワークの発達により遠方のスタッフやビジネスパートナーとチームが組めるようになり、新しい体制を整えやすくなった反面、行動の監視やモチベーションの把握が難しくなり、メンバーに自主的に新事業に取り組んでもらえない難しさもあるようです。

ただでさえコミュニケーションが難しい遠方のスタッフやビジネスパートナーに、新しい事業に前向きに取り組んでもらうためには、いったいどのようにすればよいのでしょうか?

この問題は『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著)で提唱されている「公正なプロセスを支える3つのE」を守ることで解決できます。

この「3つのE」を守りながら新事業を進めていくことで、たとえテレワークや社外のビジネスパートナーなどメンバーの環境が異なるチームであっても、共通認識を持って前向きに取り組んでもらうことができるようになります。

「公正なプロセスを支える3つのE」とは? 具体的にどのように取り入れればよいのでしょうか?

オンライン専門の税理士事務所を経営し、経営戦略コンサルタントとしても活動している専門家の立場から考えてみたいと思います。

公正なプロセスを支える3つのEとは?

そもそも企業は経営トップだけで成り立っているわけでもなければ、中間管理者層だけが支えているものでもありません。新事業に限らず、組織の全員が戦略を理解して、自発的にその実行に取り組んでいくことは必須事項です。

それにもかかわらず、日本の企業では、事業戦略に関与しているのは一部の経営陣だけで、社員やパートタイマーには戦略は知らされず、与えられた仕事を黙々とこなしているケースも多いです。

たしかに、通常の業務であればそれでもある程度回っていくかもしれません。しかし、新事業となるとそう簡単にはいきません。決まった仕事が与えられるわけではなく、戦略も状況に応じてコロコロ変わっていきます。一部の経営陣だけで指示、統率ができるはずもなく、すぐに指示待ちの状況が生まれてしまいます。

同じフロアで仕事をしていればそれでも何とかなるかもしれませんが、テレワークのスタッフとなるとそうもいきません。全員が戦略を共有できていない、受動的に仕事をしている弱さが、新事業ではもろに表面化してしまうということです。

冒頭で紹介した「ブルー・オーシャン戦略」とは、競争が激しい既存の市場(レッド・オーシャン)から抜け出し、競争のない新しい市場(ブルー・オーシャン)を切り開こうとする戦略のことです。この中でも、新しい事業は大きな変革をともなうため、マネジメント・リスクが高くなると警鐘が鳴らされています。

その解決策として紹介されているのが「公正なプロセスを支える3つのE」です。

3つのEとは、「Engagement(関与)」「Explanation(説明)」「clarity of Expectation(明快な期待内容)」とされています。

これらは、新事業を開始する時点からスタッフ全員を巻き込み、実行を見据えた戦略を立てるために必要なプロセスを示しています。それぞれ具体的に考えていきます。

1.Engagement(関与)

スタッフに戦略会議に参加してもらったり、そこまではできなくても意見を求めたりして、戦略の実行に関与してもらうことです。

なるべく早い段階から、深く関与してもらうことで、他人事ではなく自分事として取り組んでもらえるようになります。

たしかに、

「新事業をどうやって展開していこうか?」
「あなたはどう思う?」
「他にアイデアは?」

といったことを話し合う戦略立案の場から事業に関わるとやりがいを感じますし、新事業に愛着も湧きますよね。発言力が弱いテレワークのパートタイマーだったとしても、その場にいるだけで新事業のことがよく理解できます。

一方で、

「こんな事業を始めるんだけど、あなたメンバーに決まったから、よろしくね」

といったぐあいにすべてが決まったあとから関わると、どうしてもやらされてる感が出てしまいます。

一部の経営陣だけで戦略が決まる企業文化は、見直していく必要がありそうです。

2.Explanation(説明)

戦略を決めるにいたった理由を関係者すべてに説明することです。

スタッフの意見も考慮した上で、会社の利益のために新しい取り組みを始めることを決めたことなどが説明されれば、その決定に信頼を寄せてもらえます。

例えば、これまで店頭販売しか行っていなかった会社が、何の説明もなく突然ネット販売事業を立ち上げたとしましょう。

すると、

「ネット販売が始まったせいで商品管理がややこしくなった。」
「どうしてネット販売の仕事もしないといけないの? そのせいで帰りが遅くなった。」
「ネット注文全然入ってないけど大丈夫? 広告費も結構かかってそうだけど…。」

などよからぬ不満や不信感を持たれかねません。

しかし、次のような説明が事前にされていたらどうでしょう? 仕事に対するモチベーションが全然変わってくると思います。

「コロナ禍で売上が減少しているため、資金繰りが厳しくなってきている。キャッシュに余力がある内にネット販売事業を立ち上げて売上を安定させたい。」

「ECサイトの開設費や広告費をどうやって捻出するか、商品管理や配送などの業務フローをどのように整えるか、人事はどうするかなど、さまざまな問題が経理部や人事部、店舗スタッフから挙がったが、打ち合わせを重ねた結果、何とか解決できる目途が立った。」

「売上が減少している中、さらなる負担を強いることになってしまうが、ネット販売事業を軌道に乗せてお店もスタッフも守っていきたいので、一緒に頑張ってほしい。」

こういった説明をされると、社長が思いつきで始めたネット販売事業に振り回されているような感覚はなくなりますし、仮に自分の意見が通らなかったとしても、無下に扱われたような印象は持ちません。しばらく大変でも頑張ろうという気にもなりますよね。

このように、まったく同じことをしていても、説明があるのとないのとでは、スタッフのモチベーションに大きな差が出てしまいます。

3.clarity of Expectation(明快な期待内容)

戦略が決まった後で、経営陣がスタッフへの期待内容を明快に述べることです。

・目的を達成するために、目指すべき途中の目標は何なのか?
・どのような基準で評価がなされるのか?
・目標が達成できなかった場合、誰にどのようなペナルティがあるのか?

こういった目標、基準、責任の所在などを曖昧ではなく明快に示しておくことで、
かけひきやえこひいきが入る余地をなくし、戦略の実行に集中してもらうことができます。

例えば、目的が会社とスタッフを守ることだとして、そのために必要な1ヵ月の売上目標が2,000万円、1日の売上目標は100万円といった途中の目標をまず示します。

さらに、そのために製造部門は1日1,000個の製品を製造する必要があり、販売部門は1日500人のお客さんを集客する必要があるなど、各部門の数値目標も定めて、そのためにいつまでに何をすべきかといった、具体的な行動目標まで落とし込んでいきます。

加えて、目標の達成度合いだけでなく、仕事の質はどのような基準で評価していくのか(品質検査の結果、顧客アンケートの結果、熟練者の採点など)、ある目標が達成できなかった場合、どの部門の誰に責任があるのかなども事前に示すことができれば理想的です。

これらすべてを完ぺきにこなすのはハードルが高いですが、きちんと目標を示し、やるべきことや期限をチェックリストにまとめるといった工夫をすることで、リストを見れば仕事の達成度合いやミスが生じた原因などがわかるようになります。

日本の企業が陥りやすい失敗

特に日本の企業に多い失敗が、3つ目の「明快な期待内容」が欠けていることです。全体としての目標はあったとしても、仕事の役割分担や評価基準、責任の所在などが曖昧で、目標が達成できなくてもどこに原因があるのか特定できないような状態です。

このような状況では仕事のこだわりや評価基準も人によってバラバラになります。ある人はスピードを重視し、ある人は品質を重視し、仕事のお見合いや、問題が起きたときに責任のなすりつけ合いが起こりやすくなります。

サッカーに例えるなら、守備範囲が曖昧な状態で試合が始まれば、当然みんなバラバラな動きをしますし、失点しても誰が悪いのかわからないですよね。

また、こっそり手を抜いてもバレにくい仕組みになっていることもたしかですし、テレワークのスタッフであればなおさらです。

でもあらかじめやることが明快に示されていたら、テレワークであろうがやっていなかったら気付かれます。新事業であればやるべきことのチェックリストまでは作れないかもしれませんが、一応の到達目標や評価基準、責任の範囲程度は示せるはずです。

欧米のような、もともと決められた仕事しかしないような働き方は日本の文化には馴染まないかもしれませんが、日本でももう少し仕事の内容や責任の範囲を明確にした方がよいケースは多々あります。

まとめ

公正なプロセスとは、事業の戦略を決める段階からスタッフに関与してもらって、戦略を決めた理由をスタッフ全員に説明し、それぞれのスタッフに明快な期待内容を述べることです。

言われてみればあたりまえのことばかりかもしれませんが、言われないと忘れてしまいがちなことばかりです。

私自身、3つのEを意識するようになってから、在宅スタッフにもミーティングに参加してもらい、なるべく戦略の全体像や目標、進捗状況などを説明したり、意見を聞いたりするようにしました。それにより、チームとして前向きに仕事に取り組めるようになったと実感しています。

ぜひ3つのEを実践して、新事業を成功に導いてください。

板山 翔 税理士・経営戦略コンサルタント
オンライン専門の税理士事務所」として開業。自社の事業を税理士業ではなく、経営に必要な情報をオンラインで提供する事業と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動。従業員5名以下の小さな会社の経営者を中心に、小さな会社だからこそできる差別化戦略の立て方や、短期間で売上アップするためのマーケティング戦略、長期的に資産を形成していくための財務戦略などを伝えている。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年11月16日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。