防衛費増、予算ありきか?:ミサイルの数ばかり議論しても意味がない

2023年度の国家予算の枠組みで防衛費大幅増額案について有識者会議が展開されています。これは9月末に初会議が開催され、来年2月ぐらいまで継続的に審議されるとみられています。有識者は10名で全員男性、しかもご年配の方ばかりです。有識者が年寄りの男性でなければならない理由はなく、本来であれば実務がわかる年齢層の識者もそこに入るべきだと思いますが、日本のヒエラルキーはこのようなバランス感覚を見ても不思議に見えます。

防衛省HPより

ここにきて北朝鮮の挑発、中国の台湾政策に対する強い意図や習近平氏体制の確立を受けて日本も対岸の火事ではないとようやく目覚め始めました。防衛費増についてのアンケートでも増額に理解を示す声が反対を明白に上回る状態になっており、一定の増額、そして5年程度でGDPの2%まで増額したいという自民党の思惑の方向に紆余曲折ながらも進んでいくのでしょう。

一方、社会全般を見ると防衛費についてしっかりした考えを持ち、意識をしている人は少ないのではないかという気がします。なんとなくきな臭い世界情勢はウクライナ問題を含め、多くの国民は感じていますが、それがすわ「ドンパチ」に展開し、自分たちがまきこまれるという意識はほぼないのではないでしょうか?

Jアラートが出ても「それでどうすりゃいいんだ!」という声が主流です。地下や頑強な建物、なければ物陰に身を隠すか、身を伏せるということですが、相手はミサイルです。地震は広い地域にほぼ均一に伝わる中で、自分が存在する場所によってリスク管理を行います。古い木造の家なのか、RCのマンションなのか、駅の構内か、オフィスビルの中なのか、といったように揺れによる倒壊や火災、パニックが主たる対策になります。が、ミサイルは比較的狭いエリアを一瞬にして深く傷つける武器だけに「当たるか、当たらないか」というリスク管理であり、地震とはやや異なるでしょう。ましてやほぼ誰も経験したことがない話をしていることが悩ましいのです。

防衛費増については様々な視点があります。まず財源です。そして少なくともこの有識者会議で見られる議論は「負担を将来世代に先送りするのは適当でない。国債依存があってはならない」「国民各層の負担能力や経済情勢への配慮は必要」とされます。端的に言うならば国民の皆さんが今、負担してください、ということです。

その手法として広く均等に手当てする消費税ならば2%増程度、さもなければ法人税増が具体的な方法論です。今、このインフレ、景気後退論が見え隠れする中、消費税増額案は99%不可能な手段であります。

ちょっと脱線しますが、英国のスナク首相が超緊縮財政を今日明日にも発表する予定ですが、英国ではデモが多くなっており、即時、政権交代を求める声が日増しに高まっています。この話を聞いて戦前の井上準之助と高橋是清の好対照な財政政策の話を思い出してしまうのです。トラス前首相がばらまき型で英国金融市場が大混乱に陥ったのに対し、スナク政権の短期間に真逆の政策で一気に締め上げる新案となれば英国国民も生きた心地がしないでしょう。仮に政権が崩壊すれば労働党ですから、再び緩めでばらまき型の予算になります。国民は政府の厳しい予算措置にはカラダを張ってでも反対するということなのです。

これを横目で見れば最後の決断をする岸田政権は法人税増税がやりやすいのでそちらに走るのは議論をする前から目に見えております。そうです。「法人税増税がやってくる」、ここは押さえておく必要があります。

次に防衛とは何か、であります。日本を守るのは自衛隊任せか、という話です。火事の時、消防士だけではなく、民間の消防団がバックアップすることがあります。警察だけでは手に負えないのでセキュリティ会社と契約したり、自衛団や見廻りをしている自治体や管理組合もあるでしょう。では戦争になったら自衛隊に全部お任せか、という議論が全く盛り上がらないのです。もちろん、一般人に何ができるか、と言われるでしょう。

私はまずは意識改革が必要だと感じています。平穏な戦後の安定期はどうやら終わりつつあり、地球上のどこで何時、何が起きてもおかしくない、そしてそれは日本も含まれるのだ、という気持ちです。その上で国民ができることは防衛に対して理解し、協力意識を育むことが必要でしょう。子供たちに「戦争になったらどうなるの?」と聞けば「自衛隊のお兄さんたちが戦ってくれるんでしょ」という他人意識ではダメだ、ということです。

想像しにくいのですが、かつての戦争のように陸戦が主力の時は多くの兵士が必要で徴兵が当たり前でした。今、日本でも中国でも韓国でも台湾でも「徴兵したい」と政府が言っても皆、逃げるだけです。ロシアが過去、訓練を受けた人たちを兵力として狩り出そうとして往生したのと比較にならないほど兵力など集まらないのです。例え狩り出しても多くがノイローゼになるのが関の山です。

つまり今、日本が言う防衛とは武器を山のように買い込み、「俺、こんなに持っているんだぜ」という話です。では侍が二刀流で拳銃まで持てば強いのでしょうか?個個人ベースでは凄い人もいるかもしれませんが、組織論だと全く機能しないとみています。

強い日本を作るには国民の防衛意識もありますが、更にあといくつか思い浮かびます。一つはサイバーアタックをより防御できる技術確立です。たとえば量子コンピューターが話題になりつつありますが、これができるとハッキングは極めて困難になるとされます。次にスパイ。まず、情報漏洩を許さず、スパイを見逃さないこと、そして日本でプロの諜報員は法律を変えてでも養成すべきと思います。そう、昔の陸軍中野学校の現代版です。三つ目に情報連携を強めること。情報は必ずしも近くの国が持つわけではないのです。世界の諜報機関はリンクしています。ここでギブアンドテイクできる能力を身に着けることです。

防衛費は湯水のごとく使えます。が上述の対策はそこまでではないはずです。またサイバーアタック対策はIT技術の進化の一部であり、当然ながら防衛はそれを転用すると考えれば防衛費とほかの研究開発費の線引きも不明瞭になるとも言えましょう。

日本が強い国になるにはミサイルの数ばかりを議論するのではなく、もっとしっかりとした防衛の基礎固めからではないかと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月17日の記事より転載させていただきました。