安倍晋三元首相殺害事件以降、旧統一教会問題、国葬問題などで迷走を続けてきた岸田文雄内閣(岸田艦隊)、経済再生担当・コロナ担当大臣という、主要戦艦「山際」は、旧統一教会関連団体の国際イベント参加、秘書の信者疑惑などでマスコミ・野党から猛爆撃を受け炎上を繰り返しながら、「記憶にない」の常套句で何とか沈没を免れていたが、臨時国会の予算委員会終了直後、「韓鶴子総裁の隣で写った写真」が致命的打撃となり、「違法なことはしていない」との意味不明の言葉を残して撃沈。
旧統一教会問題の被害者対策の取り纏めの重責を担う法務大臣の主要戦艦「葉梨」は、「死刑執行指揮書のハンコ」という「自爆ネタ」で爆発炎上、「外交の岸田」の外交日程を遅らせるという艦隊の旗艦「岸田」への大打撃を生じさせたうえで、あえなく撃沈した。
そうした中で、妻への政治資金還流疑惑、後援会の会計責任者が死亡していた問題など文春砲の「艦砲射撃」を受け続け、徐々に船体が傾きつつあったのが、内閣の要の一つ総務大臣という主要戦艦「寺田」だった。
「寺田稔竹原後援会」の収支報告書の記載が事実と異なることや、会計責任者が故人で、代表者も97歳で代表の認識がなかったことなどが次々と文春で報じられたのに対して、寺田氏は
「自身が指示監督すべき団体ではなく “別団体”」
などと「言い逃れ」を重ねていたが、自身の昨年10月の衆院選の選挙運動費用が「竹原後援会」名義で支払われていたことが明らかになった。後援会が費用支払いを取り次いだなどと「窮余の言い訳」で防戦したが、それによって「寺田氏自身と後援会との緊密な関係」は否定できなくなり「言い訳」全体が崩壊寸前だった。
そこに、新たに出てきた疑惑が「運動買収」だった。
11月16日発売の週刊文春で、寺田氏が昨年10月19日の衆院選公示日に、選挙区の広島5区に在住する地方議員ら計6人に選挙ポスターを貼った報酬として計4万1700円を支払ったこと、6人はいずれも同じ日に別の選挙運動にも従事したことを報道した。
ビラや証紙貼り作業、個人演説会や街頭演説の設営・撤去作業などを行う「労務者」には、法定の限度内での報酬を支払うことができる。しかし、これらの「労務者」は、あくまで機械的労務だけを行う者だから報酬の支払が認められているのであり、「選挙運動者」に該当する場合には、原則として報酬を支払うことはできない。
公選法は、車上運動員・手話通訳者・要約筆記者・選挙事務員には報酬を支払うことができるが、その場合には、事前に選挙管理委員会への届け出が必要とされており、報酬の金額や支給可能な人数も制限されている。
寺田氏がポスター貼りの報酬を支払うことができるのは「労務者」に対してであり、別途「選挙運動」を行っている地方議員に対して報酬を支払った場合には、公選法221条1項の、「当選を得る目的で」「選挙運動者」に金銭を支払ったことになる。
報道されているところでは、議員らの一人は、選挙カーで応援演説まで行っているようであり、寺田氏の報酬支払が「買収」に該当することは否定できない。
選挙違反の中でも最も重大な犯罪である「買収」というのは、「票を金で買う行為」のように認識している人が多いのではないだろうか。今回の寺田氏の「買収」疑惑は、選挙運動者に対する報酬支払、つまり「運動買収」である。そこに、「買収」に対する一般的認識とのズレがある。
しかし、実際には、最近、摘発される「選挙買収」の大半は、有権者にお金を渡して投票を依頼する「投票買収」ではなく、「選挙運動の報酬」を支払う「運動買収」だ。
元法務大臣の現職衆院議員河井克行氏も、多額の現金を、直接、多数人に配布した選挙買収事件で逮捕されたが、この河井氏の事件も、その大半は「運動買収」だった。
この事件での現金供与は、
(1)県議会議員・市町議会議員・首長ら44名に対して合計2140万円
(2)後援会のメンバー50名に対して合計385万円
(3)選挙事務所のスタッフに対して合計約377万円
だった。このうち(2)(3)は、自分の支持者、支援者に対して、選挙運動の報酬を支払ったもので、投票を依頼する趣旨はほとんどない。(1)も、本人に投票を依頼することより、その影響力によって、多数の有権者に投票を働きかけてほしいという趣旨だった。だからこそ、その金額が、一人に対して数十万円、中には、100万円を超える金額に上っていた。
つまり、河井氏の多額現金買収も、殆どが「選挙運動の報酬」の支払であり、「票を金で買う行為」と単純化できるような行為ではない。
買収摘発の対象が、かつては、「投票買収」が中心だったのが「運動買収」に変わっていったのには、選挙制度をめぐる歴史的背景がある。
衆議院が中選挙区制であった頃は、選挙における同一政党の候補者同士、とりわけ保守系候補同士の争いが熾烈だった。その中で唯一、定数1の選挙区で、保守系候補同士の争いが展開された奄美群島区などでは、衆院選挙の度に猛烈な「買収合戦」が行われた。有権者に金銭を渡して投票を依頼する行為が、当選を得るために最も効果的なやり方だったのである。
しかし、1990年代に入って選挙制度が変わり、衆議院が小選挙区比例代表並立制になったことで、様相は大きく変わった。有権者の選択が政党中心になると、有権者に直接金銭を渡して投票を依頼しても、効果はあまりない。逆に、警察に通報される危険もある。90年代半ば以降は、「投票買収」の摘発は極端に少なくなっていった。
国政選挙ともなると、都道府県警察には選挙違反取締本部が設けられて摘発が行われる。そこには、一定のノルマがある。そこで、「投票買収」に代わって、買収罪による摘発の対象になったのが、自派の運動員に違法に日当を支払った、という「運動買収」であった。
河井克行氏の事件の例で言えば、選挙事務所で選挙運動に従事する者に対して報酬を支払った(3)が、「運動買収」だ。河井夫妻の一連の事件の摘発の契機となった、河井案里氏の秘書が逮捕された事件も、車上運動員(ウグイス嬢)への法定の限度を超えた報酬の支払だった。
公選法上認められた選挙運動者への報酬支払以外は、選挙運動は、ボランティアで行わなければならず、報酬を支払ってはいけないというのが「ボランティア選挙の原則」だ。実際の選挙では、選挙運動に機械的労務も含めて、相当な労力がかかり、それを行うボランティアを確保することは容易ではないというのが実情だ。
そこで、選挙運動員に対しても、なにがしかの報酬支払が行われるのが、むしろ通例だった。それが、買収摘発の対象にされてきたのが1990年代後半からだった。そのため、支援者や事務所関係者等に「選挙運動の報酬」を支払えば買収で摘発されるリスクが大きいということになる。
しかし、「ボランティア選挙の原則」どおりに、全くの無報酬で選挙運動を手伝ってくれる人を確保することは容易ではない。そこで、実際の選挙では、ある程度、違法を承知で「運動員買収」を行うことにならざるを得ないが、そこで、合法に、或いは、合法と主張することが可能な方法で選挙運動者を確保できるのであれば、それは候補者側にとって貴重であった。
そこで、「合法そのもの」の方法となるのが、宗教団体の信者による選挙活動だ。宗教団体が特定の政党や候補者を推薦支援し、信者が選挙運動を行う場合は、選挙運動は、宗教活動そのものということになるので、信者の信仰が厚ければ、報酬などなくても、まさに寝食を忘れて選挙運動に取り組む。候補者にとってこれだけ有難い存在はない。まさに「合法なボランティア選挙運動」そのものだ。
安倍元首相銃撃事件の犯行動機に関連して、国政選挙での応援など旧統一教会と自民党議員との関係が問題となった。これに関して、「旧統一教会の信者数は全国で8万人程度であり、国政選挙で大きな力にはならない」という見方があったが、それは、信者数を「票」として数えた場合である。信者の選挙運動への貢献度は、他の選挙運動者とは比較にならないものであったと考えられる。
そして、もう一つ、合法と主張することが可能なやり方として使われたのが、国政選挙での選挙活動の中心となり、まさに、票のとりまとめに貢献してくれる首長・議員などの「地方政治家」に「政治資金」としてお金を渡す方法だった。
それが、河井克行氏が行った選挙買収の(1)の、地方政治家への金銭供与だ。
地方の首長・議員には、その地域でまとまった数の支持者、支援者がいる。国政選挙でもかなりの票を取りまとめることができる。しかも、そういう政治家に、特定の候補のための活動を依頼してお金を渡しても、「選挙運動の報酬」ではなく、「政治活動のための費用の支払」であり、「政治資金を渡した」と説明することが可能だ。
実際に、河井氏も、上記(1)について、公判では一貫して、「党勢拡大」「地盤培養」のための政治資金だったとの主張を続けた。最終段階で、それまでの無罪主張を変更し、起訴事実について有罪を認めたが、その後の被告人質問でも、「政治資金として渡した」との供述を続けた。
国政選挙の度に、このような地方政治家や有力者への金銭の供与が恒常的に行われてきたことについて、河井氏が公判で述べただけでなく、同様の実態が、その後、自民党京都府連をめぐる「選挙マネロン疑惑」、新潟の星野伊佐夫県議の裏金要求疑惑など、国政選挙での買収疑惑が発覚し、刑事告発されている。
このような政治家間の金銭の供与は、「政治活動のための寄附」と弁解された場合、「選挙運動」の報酬であることの立証は容易ではない。そのため、従来は殆ど警察の選挙違反の摘発の対象にはされて来なかった。
ただし、このような選挙に関連する地方政治家等への金銭の支払に、「政治活動のための寄附」との説明が可能なのは、公示日より前の場合である。選挙期間中に候補者の応援をする行為は、「政治活動」による合法化の言い訳は全く通用しない。
寺田氏は、17日の衆院総務委員会でこの問題を質問され、
「公示日当日は、選挙カーでの演説はすべて自分が行ったので、労務者報酬を支払った人達は、公示日は選挙運動をしていない」
と答弁しているが、公示日当日、選挙カーで応援演説を行わなくても、寺田氏の陣営に加わって選挙の応援をしていた人達であれば、何らかの形で「選挙運動」に関わっていた可能性が高い。寺田氏の「言い訳」で、公選法上合法と言い切れるとは思えない。
選挙のための「地方政治家への金銭供与」を、「党勢拡大・地盤培養のための政治資金」との言い訳を用意して行うという巧妙なやり方で「ボランティア選挙の原則」をかいくぐってきたのが保守系政党の選挙のやり方だった。今回の寺田氏の地方議員への金銭支払は、少額とは言え、あまりにも、単純で初歩的な違反である。総務大臣が、このような「運動買収」を問題にされること自体、「選挙の公正」に対する職責の重さからしてあり得ない話である。
公職選挙法を所管する総務大臣という主要戦艦「寺田」に対して、この「買収」疑惑の文春砲は、トドメの一撃となる可能性が高い。主要戦艦の3隻目の撃沈で、岸田艦隊の命運も「風前の灯」と言えるだろう。