バルミューダはよみがえるか

関谷 信之

高級デザイン家電のバルミューダ(バルミューダ株式会社)が不調らしい。11月8日の決算説明会によると、純利益が「2百万円」と、前期から99.8%減少するのだそう。

あぁ。バルミューダフォンのせいでこんなことに・・・。

BALMUDA Phone
バルミューダ株式会社 プレスリリースより

と思っていたら、違った。バルミューダフォンは、端末をソフトバンクが一括買い上げしているため影響はほとんど無し。減益の要因は「円安」によるコスト増とのこと。

これは少し意外かもしれない。バルミューダ製品は国産、と考えている人は少なくない。数年前、広告で大々的に「『日本の扇風機』 日本開発、日本生産」と謳っていたからだ。

公式サイトによると、国産は扇風機と照明とスマホのみ。他(11製品中8品種)の生産は、国外に依存していることがわかる。円安のダメージは大きいことだろう。

市場価値の低下(陳腐化)にあわせ、帳簿上の価値を減少させる、いわゆる「評価損」の計上も発表された。

今回、注目すべきはこの「評価損」だ。

低評価の掃除機とスマートフォン

評価損の対象は、掃除機(BALMUDA The Cleaner C01A)とのこと。公式サイトの価格は59,400円。ネットショップ等では2~3万数千円で販売されている。バルミューダの原価率60%(2021年実績)を乗ずると、原価は3万5千円程度。完全に原価割れだ。評価損は止むを得ない、と言える。

BALMUDA The Cleaner C01A
バルミューダ株式会社 プレスリリースより

この掃除機。利用者の評判も芳しくない。以下がバルミューダの掃除機(C01)のコンセプトだ。

「吸引力や『軽量化』という掃除機の当たり前の評価軸とは異なり、『かけやすさ』を重視(する)」

「軽量化」を軽んじたことが仇となったか。ネットショップのレビューには「重い」という批判が数多く投稿された。

この重さが「かけやすさ」を妨げる。床は、独自アイデア「ホバーテクノロジー」で浮いたようにヘッドが動くため「かけやすい」。だが、掃除機をかけるのは床だけではない。網戸や窓の桟(さん)、家具の上、階段。掃除機を持ち上げるシーンは意外と多い。ハンディタイプに切り替えても重さはさほど変わらず、かなりつらい。

低評価の影響か。C01は発売後1年に5,000円のキャッシュバックキャンペーンを実施。さらに半年後に「重さ」を改良した新機種(C02)を発売している。新機種と平行して販売継続するため、評価損を計上し在庫を適正化するのは良いことだと思う。

また、今回の評価損の対象ではないが、掃除機以上に低評価なのが「バルミューダフォン」だ。1年前の製品発表会直後から、性能面のコストパフォーマンスの低さを、多くのジャーナリストやレビュアーが指摘。同社株価は大幅に下落している。

高シェアのトースターや扇風機

とはいえ、評価が低いのは一部の製品のみ。トースターや扇風機などは一定の評価を得ている。シェアは、トースターは5.3%、扇風機は1.3%(※)。同社の製品価格が市場平均の2~10倍であることを考えると、このシェアは驚異的と言える。

なぜ、こうも評価が異なるのか。「トースターや扇風機」と「掃除機やスマートフォン」との違いは何か。

BALMUDA The Toaster
筆者撮影

それは製品の成熟度だ。トースターや扇風機は、いわば「枯れた技術」だ。トースターは1910年に、扇風機は1893年に、どちらもエジソンによって発明されている。製品の成熟度は極めて高い。パンを焼く。風を送る。そういった中核的な機能に差がないため、数値では測れない「味」「心地よさ」が評価される。デザインやアイデアといったバルミューダの強みを活かしやすい。

一方、掃除機はロボット掃除機の台頭、スマートフォンはOSの頻繁な更新やCPUの高性能化など、いまだ進化中だ。製品としての成熟度は高くない。だから、性能面で「良い・悪い」がはっきりしてしまう。

製品の成熟度について、バルミューダ社長の寺尾玄氏自身は、以下のように言及している。

電化製品の開発には段階がある。困ったことを解決するのが第一の段階だが、多くの「困ったが解決された」先進国ではもはやこうしたものづくりは成り立たない。次の段階で目指すべきなのは、ユーザに「気持ちいいと感じてもらえる」ような製品作りだ。

(バルミューダ奇跡のデザイン経営|日経デザイン)

氏の言葉を借りて表現すると、トースターや扇風機では、既に「困ったことは解決されている」が、掃除機やスマートフォンでは、まだ「困ったことが解決されていない」。この段階で、「気持ちいいと感じてもらえる」アイデアを投入しても評価されない。バルミューダの強みは活かしづらいのだ。

バルミューダの成長戦略式

バルミューダの決算説明会資料には、成長戦略として、以下の売上高の式が掲載されている。

売上高=客単価×客数
客単価=テクノロジーアートブランド
客数=エリア×ターゲット人数×商品ジャンル
(2021年12月期 第3四半期決算説明会資料)

これを、バルミューダフォンの教訓を踏まえたうえで、翻訳すると、

  • 枯れた技術の製品市場に(=商品ジャンル)
  • 優れたデザインと(=アート)
  • 独自のアイデアを活かした製品を投入し(=テクノロジー)
  • アイデアの有効性をストーリーで訴求する(=ブランド)

となろうか。

説明会によると、今後は、円安を活かせる海外に注力するとのこと。だが、中長期的には、成熟した製品市場にジャンルを絞り込んだほうが良いだろう。

在庫増の懸念

今回の決算発表会で不安視されたのは純利益だった。だが、在庫残(棚卸資産残高)にも懸念がある。

バルミューダは年々、在庫が増加している。

2018年度決算時の在庫は、9億円弱。これが昨年度末(2021年12月期)には25億円に。直近(2022年12月期 第3四半期)では34億円弱と、2018年度の3倍以上に膨れ上がっている。バルミューダは、

販売機会損失を極小化するため。

と、説明している。コロナのリスク回避や、円安の影響もあるのだろう。だが、もし陳腐化した製品が含まれていたら、今後の減益要因だ。売上増加をはるかに超える在庫増であるため、資金繰りも厳しくなる。

今回、掃除機で計上した「評価損」98百万円を「在庫調整」とみる向きもあるが、この程度では「焼け石に水」だ。在庫を精査し、ブランドを毀損しない範囲で処分を進めるべきだろう。

バルミューダはよみがえるか

同社のトースターは、韓国では「死んだパンをよみがえらせるトースター」と呼ばれているのだそう。

得意とするデザインとアイデアで、「満身創痍のバルミューダをよみがえらせる」ことはできるだろうか。

BALMUDA The Store Aoyama
筆者撮影

【参考・注釈】
※ 2021年12月期 第3四半期決算説明会資料より
在庫(棚卸資産)は商品・製品のみにて算出