1. 日本の労働者は増えている?
前回までは、購買力平価と物価水準の関係について考えてみました。
ドル換算する際には、為替レート換算か購買力平価換算か、評価したい項目によって使い分けるのが良さそうです。
今回から、労働者の就業率や失業率についてご紹介していきたいと思います。
まずは労働者数や就業率の推移からです。
以前は民間給与実態統計調査のデータをご紹介しましたが、今回は労働力調査のデータとなります。公務員や個人事業主などを含めた労働者をカウントしているようです。
「労働力調査 用語の定義」によれば、「就業者」は次のように定義されています。
就業者 : 「従業者」と「休業者」を合わせたもの
従業者 : 調査週間中に賃金,給料,諸手当,内職収入などの収入を伴う仕事(以下「仕事」という。)を1時間以上した者。
なお,家族従業者は,無給であっても仕事をしたとする。
休業者 : 仕事を持ちながら,調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち,
- 雇用者で,給料・賃金(休業手当を含む。)の支払を受けている者又は受けることになっている者。
なお,職場の就業規則などで定められている育児(介護)休業期間中の者も,職場から給料・賃金をもらうことになっている場合は休業者となる。雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく育児休業基本給付金や介護休業給付金をもらうことになっている場合も休業者に含む。 - 自営業主で,自分の経営する事業を持ったままで,その仕事を休み始めてから30日にならない者
図1は日本の就業者数の推移です。
日本は2008年ころから人口減少局面に入っていますが、就業者数は横ばいが続き近年は増加傾向となっています。
日本 就業者数 単位:万人
合計 / 男性 / 女性
1970年 5,094 / 3,091 / 2,003
1980年 5,536 / 3,394 / 2,142
1990年 6,249 / 3,713 / 2,536
2000年 6,446 / 3,817 / 2,629
2010年 6,298 / 3,643 / 2,656
2020年 6,710 / 3,724 / 2,986
男性労働者は若干減少していますが、女性労働者が増えたているようです。
女性の労働参加率が向上しているようですね。
2. 減少しつつ高齢世代の増える男性労働者
続いて、男性労働者の年齢階級別の就業者数を見ていきましょう
図2は男性の就業者数です。
男性の場合は1997年をピークにしてやや減少傾向が続いています。65歳以上の就業者数が増えていることも特徴的ですね。
図3は年齢階級別の男性就業者数の推移です。
各世代を見ると、大きなピークが2山あり、年齢階級をまたいで10年ごとに移動している様子が確認できます。
35~44歳の年齢階級で見ると、1988年頃と2012年頃にピークが見られます。45~54歳の年齢階級では、1997年頃と2021年頃ですね。
ちょうど10年くらいスライドしていますので、この世代が特に人口構成の多い年齢階級に当たると思います。
いわゆる団塊の世代(1947~1949年生まれ)と団塊ジュニア(1971~1974年生まれ)の世代ですね。
全体としては少子高齢化が進みながらも、この団塊の世代、団塊ジュニアの世代が山を作りながら推移している様子が見て取れます。
2022年頃ではちょうど45~54歳の年齢階級が団塊ジュニアの世代にあたり、今後は55~64歳の世代に入っていくことになるわけですね。
その後はこの年齢階級の労働者数が減っていくことが推測されます。
逆に35~44歳の年齢階級では団塊ジュニアの世代は2013年をピークにして過ぎ去っていて、今後は一方的に減少していくことになりそうです。
このように、世代ごとに推移を追っていくことで、どのタイミングでどの世代の労働者が減っていくかが推測できそうです。
3. 増える女性労働者
続いて、女性労働者の推移を見てみましょう。
図4は女性就業者数の推移です。
男性と異なり、停滞気味の時期こそありますが、近年では増加傾向が続いています。
15~44歳までの就業者数でほぼ横ばい、それ以上の年齢層が増加していて合計として増加傾向となっています。
特に65歳以上の就業者数の増え方が大きいようです。
図5が年齢階級別の女性就業者数の推移です。
図3の男性のグラフと同じように、団塊の世代、団塊ジュニアの世代の山が見られますが、さらに全体として増加基調である事と、15~24歳の若年層の減少傾向が見て取れますね。
- 労働参加率向上
- 団塊の世代、団塊ジュニアの世代の移動
- 少子高齢化、進学率向上
この3つが同時に進んでいる印象です。
4. 意外な就業率の推移
次に、年齢階級別の就業率についてみてみましょう。
就業率は「労働力調査 用語の定義」で次のように定義されています。
就業率 : 15歳以上の人口に占める「就業者」の割合
図6が男性の年齢階級別就業率です。
15~24歳の就業率が低下し、近年やや上昇傾向です。これは男性の高学歴化なども影響しているかもしれませんね。
65歳以上も就業率としては減少傾向が続いていましたが、近年やや上昇しています。
特徴的なのは、25~54歳の世代です。この世代は就業率90%以上でほとんどの人が仕事を持っているわけですが、徐々に就業率が低下していますね。
全体として85%弱の水準で横ばいです。
日本 男性 就業率
1997年→2021年
46.1 → 45.6 15~24歳
94.0 → 91.2 25~34歳
95.9 → 93.9 35~44歳
95.5 → 93.1 45~54歳
80.9 → 87.2 55~64歳
36.1 → 34.1 65歳以上
82.4 → 83.9 15~64歳平均
25~54歳の世代で軒並み就業率が下がっているのはとても印象的です。
近年は株式投資などで金融資産を築き、賃金労働を辞めて配当金などの不労所得で生活するFIRE(Financial Independence, Retire Early)等が広まっていますが、その影響なども考えられますね。
図7が女性の就業率です。
男性と異なり、従来は低かった就業率が徐々に増加している傾向であることが読み取れますね。
2020年からはコロナ禍などで増加傾向が停止しているような状況です。
日本 女性 就業率
1997年→2021年
44.5 → 47.8 15~24歳
59.1 → 80.5 25~34歳
65.1 → 77.0 35~44歳
68.9 → 78.7 45~54歳
48.2 → 67.1 55~64歳
15.3 → 18.2 65歳以上
57.5 → 71.7 15~64歳平均
5. 日本の労働者数の特徴
今回は日本の労働者数の推移と就業率について眺めてみました。
- 男性労働者は減少傾向
- 女性労働者は増加傾向
- 高齢労働者が増えている
- 団塊の世代、団塊ジュニアの世代の推移が大きな影響を与えている
- 男性の現役世代の就業率が低下傾向
- 15~24歳の若年世代の労働者は大きく減少
- 今後は団塊ジュニア世代の過ぎた年齢階級から減少傾向が波及していく
今後はまず55~64歳の年齢階級が団塊ジュニアの世代になり、増加傾向になっていきそうですね。
その後65歳以上の年齢階級が増えていくことになりそうです。
その後は、全年齢階級で定常的に減少傾向が続いていくことになるのだと思います。
女性の就業率が上がってきていて、もう少し上昇の余地はありそうです。
人口減少による労働力不足が指摘される昨今ですが、女性が安心して働けるような仕組みの重要性が増すことも読み取れますね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。