21世紀に食糧危機がやって来た:増田悦佐『人類9割削減計画』

増田悦佐氏は『人類9割削減計画』(ビジネス社)の中で、世界の現状をわれわれの恐怖心を膨らませようとするバブルの状態だと述べています。

恐怖心を煽ることはビジネスの種でもありますが、そのためにに21世紀の食糧危機が起きているというと、驚かれる方も多いと思います。

増田氏は近年の食糧生産において以下のような改善・改良がおこなわれおり、本来食糧危機が起きることなどなかったはずだと言います。

  1. 品種改良が進んで、日照りや水害にも強い品種がどんどん開発されている。
  2. ディーゼルエンジンを使う農機が大型・小型ともに改良が進み、農地さえ十分に確保できれば、少ない労働力で大勢の人間の食糧を確保できる収穫があがる。
  3. バルクケミカル(量産化学物質)の中でも、化学肥料はとくに生産高が潤沢で万年不況と言えるほど価格が低迷している。

けれども、ロシア軍によるウクライナ侵攻よりはるかに前から、この楽観論への3つの根拠が崩れるような事態が進んでいました。

われわれが食べている農作物には、さまざまな化学肥料が使われています。これらは長年にわたる経験で安全性も確認されていますし、同じ面積の農地に同じ労働量を投入したときより多くの収穫が得られることも実証されています。

変なのは、代表的な肥料の価格が下げ止まり、上昇に転じたタイミングだ。塩化カリウムは底ばい期間が長引いたが、尿素とリン酸二アンモニウムという、ともに窒素系肥料の代表的な品目が2019年末から2020年春にかけて値上がりに転じている。

この点でご注意いただきたいのは、これは決して2022年2月末にロシア軍がウクライナに侵攻したために起こった供給制約のせいではないという事実だ。ロシアとその友邦、ベラルーシが肥料分野では大きな供給源になっている。

ところが、化学肥料がいっせいに動意づいたのは、ロシアによるウクライナ侵攻のはるかに前の2020年春頃のことだったと言います。

窒素ばかりか、リン酸、カリもふくめて化学肥料の3大要素を全部廃絶して、下肥、堆肥、魚かす、灰、腐食した植物などの有機肥料だけで農業を維持するべきだと唱える人たちもいる。だが、そもそも地球上の人口が大激増に転じたのは化学肥料を量産できるようになってからのことだ。

化学肥料を全廃し、有機肥料だけに頼るとどんなに悲惨な社会になるかは、スリランカの例が実証している。輸出の大黒柱である紅茶用の茶葉輸出額が激減し、農作物一般が凶作に陥って飢餓暴動が起きたのだ。

農作物の不作による経済危機に陥ったスリランカは、観光業と紅茶用に栽培した茶葉の輸出が外貨獲得の2本柱になっていた国です。そんな国で、茶葉の輸出による収入が激減し、GDPの5%強がなくなってしまいました。これは政府による無理な有機農業への転換政策によるものです。

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今後はスリランカのようにさまざまなところで、人為的な食糧不足が起きる可能性が出てくるかもしれません。増田悦佐氏は、『人類9割削減計画』の中で、さまざまな分野でこのような経済行動の本質を逸脱したような行為が見られると言い、その痕跡を明らかにしていきます。