今だからこそ熱い経営者:イーロン・マスク氏と日本製鉄の橋本英二社長

LGBTQの認知度や褒めて育てる指導方法といった発想や社会現象は今世紀に入って主流路線となっています。時代の流れとして受け入れるし、その意味合いも認めていますが、世の中、オセロゲームではないので昭和のやり方や昔の経営の仕方を全否定するものでもないと考えています。世の中、進化はするけれど、時として昔のスタイルが新し形で再び現れることもあります。

最近、強権経営の極みを行くのがイーロン・マスク氏。ツィッター社を個人で買い取り、従業員をバッタバッタ斬るのみか、熱い社員だけが欲しい、9時-5時の社員なんていらないという趣旨のスタンスを表明、ツィッター社のみにならず世の中を震撼させました。

彼は6兆数千億円の買収資金をどぶに捨てる覚悟で全く違う体質の会社を作り上げようとしているのでしょう。外部の圧力に屈するかどうか、これは今の時点ではまだわかりません。メディアの論調も真っ二つです。

私も今回はなかなか厳しい挑戦だと思っている理由はマスク氏の成功物語は過去、全部ゼロから自分で作り上げたビジネスだからです。今回は既存のプラットフォームを買収することでそれを改革するわけですから今までとはまるで違います。ただ、ここまでのやり方を見ると一旦最小限まで絞ってそこから構造改革と新しいプランを注入していくように見え、買収金額の6兆円の価値がゼロとは言わないまでも1-2兆円ぐらいまでいったん下がることも厭わず、そこから大きくV字回復を狙っているように見えます。熱い経営者の代表格そのものであります。

日本にも熱い方はたくさんいらっしゃいますが、日経ビジネスの特集を拝見してこれはすごい、と思ったのが日本製鉄の橋本英二社長。プロパーの方で2019年に社長になっています。が、この3年間の大改革の成果が表れ始め、22年3月決算では売上が前年比41%増、事業利益が8.5倍となるなど住金との合併以降最高を記録したとあります。

イーロンマスク氏(左) ウィキペディアより 橋本英二氏 日本製鉄HPより

この橋本改革ですが、私も含め多くの方に記憶があるかと思いますが、日鉄がトヨタに鋼材の値上げを申し入れたり、同社を中国鉄鋼大手の宝山鋼鉄と共に訴えたりしたのです。これはその世界にいる人なら驚愕だったと思うし、トヨタの豊田社長もさぞかし怒り心頭だったと思います。が、結果は日鉄の意図した方向に動くのです。

話は少しだけズレますが、個人的にトヨタの経営は最近、シャープさに欠けてきているとみています。それが経営陣の問題か、社風の問題か、ガリバーとして汗をかかなくなったのか、末端まで胡坐をかいているのか、この点はもっと詳しい方がいると思いますので譲ります。確かに決算上の数字は外ずらの体裁を保っていますが、砂上の楼閣となる公算があります。個人的には豊田社長の経営ポジションではここから先、改革できないように見えます。日野自動車のような問題は今後再び起きかねません。そろそろ社長交代の時期にあるように思います。

さて、日鉄の橋本社長ですが、3つの改革をかかげています。2年以内のV字回復、上からの改革、最後が論理と数字が全て、であります。私は同じ経営者としてこれに最大級の賞賛を送りたいと思います。

まず、2年でV字回復というのは時間軸を切ることで自分に甘えを許さない意味です。例えば私は今、NPOの会長をしていますが、2年だけのお役目と就任時から断言しています。1年目がもうすぐ終わるところですが、改革と再構築を断行しています。あと1年で完成できる目途は立っていますが、その為にずっと走っています。これからどこまで走るのかわからないのとゴールがわかっているのではその戦略は全然違うのです。2年の改革断行はさしずめ10キロマラソンでフルマラソン分の仕事をするということでしょうか。

次に上からの改革。日経ビジネスには「改革はすべて上からであり、問われるのはマネジメント力」という例えを使っています。これを言うと反発を食らうかもしれませんが、下から上を見るのと、上から下を見るのではまるで景色は違います。車を運転するのに車高の低いスポーツカーとSUVでは運転のしやすさが全然違うでしょう。バスはなぜあの狭い車線をはみ出さずうまく走行できるのかといえば車高が高いからなのです。つまり上からはより全体を把握することができるのです。

3番目の「論理と数字が全て」。これは私は違う意味で理解しました。それは自分は嫌われてもよい、ただその使命を果たすのみ、という強い人間性とくじけない精神力のバックボーンだという解釈です。日鉄ほどの規模ですと仮に社内外の反発があればひとたまりもありません。それでも怯みません。

JALを再建した稲盛和夫氏はどうでしょうか?航空産業の「こ」の字もわからない方が突如、経営改革に来るのです。ではその結果はどうでしたか?稲盛氏の強い気持ちが社内を変えたのです。

では反発する力にどう立ち向かったか、といえば橋本氏は「論理と数字」としたわけです。だからトヨタすら組み伏せたのです。稲盛氏は人としてのチカラでしょうか?実は私もかなり不人気な男でチヤホヤされることは100%ありません。しかし、私が役目を仰せつかっている以上、それを全うすることに責任があるのです。正しい形で成果を残すのが使命ですね。だから別に私に人がすり寄ってこなくてもよいし、悪口を言われようが、友達がいなくても関係なしです。相当煙たがられていると思いますが、そういう人は社会に必要だということです。

昭和の経営のイメージは恫喝。灰皿が飛び、机をたたき、大声で威圧しました。これは今のコンプライアンスではアウト。橋本氏は信念を貫くという意味での昭和型の経営者ですが同じ喧嘩を売るにしても売り方がヤクザ的ではなく、有能な弁護士が裁判に立ち向かうような鋭さです。この厳しさになれていない社員さんは大変だと思いますが、そこを突き抜ければまぶしい太陽が見えるとも言えそうですね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月28日の記事より転載させていただきました。