競馬場に向かう人たちが専門紙と赤鉛筆をもって必死に考えているシーンが私には非常に強い印象に残っています。専門紙には分析予想が出ていますが、馬券を買う人たちは様々な予見や条件を自分なりに考え、最後にこうだ、と判断して資金を投じます。
年末ジャンボ宝くじが発売になりました。報道を見ていると3日前から並んだという方もいらっしゃるようで売り場の前には長蛇の列となっています。街角インタビューでは「インフレで生活がきついから」「これが当たれば買いたかったものが買えるから」といった声が多かったように思えます。
さて投資家視線で見たら競馬で馬券を買う人と宝くじを買う人、どちらが正しいスタンスでしょうか?言うまでもありません。馬券を買う人ですね。馬券も宝くじも当落次第で掛け金が化けて戻ってくるか、紙くずになるか極端な結果となります。その点は同じなのですが、少なくとも馬券を買う人は現状を分析し、自分なりに考えているのです。この点は投資という観点では偉いのです。
ではここに100万円あります。これを投資信託に預けるか、個別銘柄を自分で探して株を買うか、定期預金に入れるか、何もしないで普通預金に放置するか、と言われたらどうでしょうか?案外、答えは割れると思いますが、答えと行動が一致しないケースも多く、わかっているけれど普通預金放置、という人も多いのではないでしょうか?なぜか、といえばやるのが面倒くさいのです。
お前はどうせ、個別銘柄を探せ、というのだろう、と言わるでしょう。ハイ、そうです。しかし、「俺は何を買ってよいかわからない」とおっしゃる方が多いのです。投資指南雑誌におすすめ銘柄が出ていた、証券会社で勧められた、最近ニュースで見てよいと思った…などほとんどが自分で考えていないのです。
ところで学生の就活。最近も現役生と話していて「どういうところに行きたいの?」と聞けば商社、広告代理店、放送、航空、有名食品メーカー…と私が就活した時代と全く変わっていません。就活の人気企業ランキングも昔からたいして変わっていません。なぜか、といえば学生が社会と接点を持つのはBtoCの企業がほとんどで、それも学生が普段利用する商品やサービス、コマーシャルで見た企業が主流なのです。つまり知らないだけ。日本には上場会社は3849社あります。うちプライムが1836社。なのに学生が知る企業などせいぜい100社とか200社ぐらいしかないので95%以上の会社は埋もれているということです。
投資も同じで、多くの個人投資家は名前を聞いたことがある企業に投資をする傾向が非常に強く、知らない会社は怖くて触れないのです。ところが自分の知っている企業の数などそもそも知れているわけでしかもその多くは成熟企業でしょう。そうなると株価はある程度のレンジの上下運動になりやすく、レンジバンドの下限で拾い、上限で売るという「売買活動」をしなくてはいけません。「お前はそれができるかもしれないが、俺にはできない!」。はい、そのご意見もごもっともです。
そこで銀行や証券会社が悪魔のささやきをするのです。「プロのファンドマネージャーがインベストメント ポートフォリオをしっかりマネージさせて頂きます」と。お前、何語をしゃべっているのだ、と言いたくなるほど横文字のオンパレードだけれど「はい、よろしくお願いします」と降臨してしまうのです。これであなたは宝くじと同じで投資を運に天に任せたようなものです。運用する側は売ったり買ったりして立派で詳細な報告書を送ってくれますが、なんのこっちゃ、ほとんど見ることもなくゴミ箱行きになっているはずです。
イーロン・マスク氏が昔、こんなことを言っています。「自分の財産を投じる覚悟がないなら、投資家に投資を求めてはならない。(中略)友人や投資家が損失を被るくらいなら、自分が損失を被るほうがましだ」(東洋経済)と。私はこの意味を他人任せにするな。投資信託で損をするぐらいなら自分で投資して損した方がましだ、という解釈をしています。
さわかみ投信の澤上篤人氏が日経のコラムにこんなことを記しています。「世のファイナンシャルプランナー(FP)たちが学んできた資産形成と管理の方法論にも、抜本的な見直しが迫られている。米国を中心に40年ぶりの金利上昇局面に遭遇している。そうした中、ほとんどのFPが未経験の領域に放り込まれて、対応が分からず右往左往しているのだ。(中略)これまでの常識が通用しなくなる時代、どのように資産形成・運用をすればよいのか。FPたちは一から勉強し直す必要があろう」。
今、投資については難しい時代にあります。かといって普通預金に預けていればあなたの財産は毎年数%ずつ減っていきます。銀行が手数料をかけているわけではなく、今の100万円は来年の98万円の価値しかないのです。せめてインフレ率と同等のリターンを得ないとあなたの資産はどんどん減っていくことになるのです。
私もマネーの話をよくしますが、コメントには長期投資一辺倒という方もいらっいます。一方、日経には時々、マネーの達人が紹介され、個人運用資産〇億円という方が日々パソコンの前で戦っている記事もよく目にします。東京やNY市場では日々、とてつもないボリュームの株式が売買されていますが、それらの多くは長期投資のマネーのポジションではありません。コンピューターの自動売買、アルゴリズムやテクニカル指標で運用するといった短期中期のポジションが大きいのです。あるいは年金基金などは運用目標設定があり、そこに達すると自動的に売却するようなところもあります。
投機と投資は何が違うか、といえばリターンを得る方法が違うだけです。投資は長期的に、会社の長期成長に期待するという名の放置プレーで配当などのリターンを得る一方、投機はせっかちに稼ぐことです。
このブログをお読みの方に釣りをされる方もいらっしゃるでしょう。釣りが上手な人と下手な人の違いは何でしょうか?上手な人は短気なので場所を変え、仕掛けを変え、餌を変えるのです。下手な人は太公望というぐらい気長に待ちます。
ではこれを投資に当てはめると「短気」は「短期」なんです。つまり投機で勝ち抜く人が爆発的なリターンを得ることもあるのです。但し、その継続的な成功率は極めて低いと申し上げておきます。1度や2度の投機で成功しても3度目にその10倍返しの損をすることはごく日常的なのです。但し、それが悪いとは私は思いません。なぜならそれは投資家が自分の頭で考えた結果だからです。つまり他人任せにしないこと、これは大事でここで多少なりとも授業料を払えばマネーについてもう少し理解度が深まるのです。結果として中長期投資にシフトするならそれはそれがその人の体得したスタイルなのです。
投資のスタイルに良し悪しをつける意味はありません。スタイルは個人の信条であって市場はもっとグローバルな参加者がうようよしています。また会社の栄枯盛衰は99%の企業で必ず起きています。永続的に成長するところは極めて少ないのです。株価が何十年とまっすぐ右肩上がりの会社はまずない、だからこそ、自分で考え、自分で判断する癖をつけること、これが財を成す第一歩だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月29日の記事より転載させていただきました。