紙離れを自ら招く新聞経営の暴走
30日(水曜日)の日経新聞が分厚く、どっしりと48頁もありました。ページをめくっていくと、「ひどい。なんだこれで新聞といえるのか」と絶句に次ぐ絶句です。企業から広告費、協賛金、参加費、会費などを集めて作った企業広告、イベント広告、シンポジウム広告で膨れ上がっています。
この種の企業広告の乱用、乱発には、私の周辺にいる日経読者の多くが怒っています。30日付の48頁のうち、約半分地近くが企業広告関連なのです。コロナ危機で3年ほど前から急増しています。
さらに5頁相当が株価などの相場表で、一般的な読者は読んでもせいぜい数行でしょう。こんなものはネットで簡単に検索できます。相場紙面を含めると、日経は読みたい頁は半分にもなりません。他の全国紙は、こんなにひどくありません。日経が並はずれて異常です。
「その部分は読まずに捨てる」「新聞用紙の浪費だ」「最も購読料が高い日経(月額4900円)は値下げしろ」と悪評が噴出です。
30日の紙面で、まず目についたのが「日経統合報告書アワード(日経賞)」で10頁もあります。延々と、387企業・団体の報告書の表紙がカラー印刷で10頁にわたり掲載されているのです。報告書の表紙だけを並べているのです。すべて全面広告と表示されています。
「国際的なESG(環境・社会・企業統治)投資への高まりから、法的な開示が義務付けられている財務情報に加え、社会的パーパス(存在意義)やミッションなどを盛り込み、すべてを統合した報告書です。気候関連、脱炭素への取り組みなどが開示されています」との説明文があります。
こうした情報を開示することには意義があります。愕然とするのが、「報告書の表紙だけをカラー写真で387社も掲載すること」にどんな意味があるかという点です。掲載された社から掲載費(広告費)をもらうというために10頁も浪費している。あきれる。読者はたまったものではない。
企業名だけを記載し、ホームページにリンクできるようにしておけばよい。三菱グループは12社、三井住友グループは7社、ほかの電力、建設、商社、銀行、薬品、住宅、鉄道などが名を連ねています。
東京五輪で汚職、談合の主役となった「電通グループ」も載っています。「ESG」でいう「企業統治(G)」に背いた企業です。最大の収益をあげているトヨタを探してみても見当たりません。日経紙面に溢れる「ESG教」に沿う電気自動車(EV)がトヨタに不都合なのでしょうか。
先週の24日(木曜日)も絶句しました。「日経Well-beingシンポジウム」の全面広告です。幸福度や暮らしやすさの実現をテーマにしています。「施策の検証・開示が重要」「多面的な指標を作り活用」「市民目線で幸福感を追求」の見出しです。3頁にわたります。
続いてこれもまるごと一面を使った「日経脱酸素プロジェクト/エネルギー分科会」の特集で「安定供給と両立を論点に」の見出しです。さらに「中小企業と未来を拓こう」の2頁広告特集で、中小企業基盤整備機構主催で「中小企業の経営力は生産性向上がカギ」の見出しです。
まだ終わりません。中部経済特集2頁、「日経バーチャル・グローバルフォーラム」の特集1頁、続いて「日経エデュケーションチャレンジfor SDGs」特集2頁です。もういい加減にしてくれないか。
ざっと数えて32頁中なんと15頁がこの類の紙面です。相場表も除くと一般記事は半分にも満たない。広告特集、編集特集が次々と並び、どういう基準で区別しているのか紛らわしい。大半の読者は読まない。そんな日の新聞は半値にしてほしい。月間では3割引きして当然です。
新聞広告が急減しているところに、コロナ危機の追い打ちで、「ESG」とか「SDG」とか「脱炭素」とか「デジタル化」とかで、企業を釣り上げた広告、企業絡みの編集企画を乱打している。載せられる企業もどうかしている。内部留保がかなりあるのでしょうか。
私はこれまでにも2回のブログで、日経の広告について苦言を呈してきました。「企業広告の乱用にすがる前代未聞の日経新聞」(20年12月18日)、「日経の『SDGs教』企業広告は新聞用紙の浪費」(22年1月14日)です。その後も改まるどころか、全く変っていません。
新聞社は経営は非公開ですし、株式はほぼ全員、現在の役員、社員、持株会の所有ですから、外部からのチェックが全く効きません。つまり不祥事を起こさない限り会長、社長の身分は安泰です。
日経の内部では、こうした広告営業のやり方に批判的な人も多いでしょう。新聞社の中核は編集記者ですから、「まず読まれない広告、会議、イベント特集」「行き過ぎたSDG教への疑問」「企業資金に依存しすぎた広告集め」「紙新聞離れの一因」という批判があるはずです。
私は日経をもう何十年も定期購読しています。新聞界では、特に政治記事は親権力、反権力に分断され、中立性、客観性に欠けることが多い。その点、日経は自由な立場から記事を書いていて、信頼が置ける。
それだけに経営主導と思われるこうした広告営業を続けていると、産業、企業に対する批判精神が衰弱し、日経の屋台骨である経済、産業記事が劣化いていくのを懸念しています。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年11月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。