私の周りにいる飲食系の事業家はいわゆる多店舗展開が大好きです。日本でも同じなのですが、飲食事業者は自分の店が当たると2軒目、3軒目を急速に展開する傾向が多いようです。一つは飲食店の顧客は一定の商圏をベースにしています。例えば池袋でいくら流行っていても渋谷や銀座を根城にしている人はよほどでない限り来ないのです。その為にコピー店をあちらこちらに展開すれば同じ成果が期待しやすいわけです。
また、飲食店は売り上げ高も比較的大きいため、億円単位が当たり前になってくると多店舗展開することが事業の意義になりやすい傾向はあります。それで成功するところもあるし、そこで躓くところもあります。躓く原因はその店で提供するフードが今の時代に合わなくなった時、もう一つは多店舗になった時にその品質を守るスタッフが十分いない場合であります。その為に多くの多店舗型飲食店はセントラルキッチン方式を取り、品質を極力一定に保つようにします。
では寿司屋は多店舗展開はなぜ、難しいのでしょうか?職人技に頼る部分が大きいこと、マニュアルベースの寿司では日本人の肥えた口を満足させられないからだと考えています。総菜型の寿司ならチェーン展開できるけれどそれ以上の品質は難しい、これが私の感じるところです。
どんなビジネスでも拡大したいという経営者の願望に対して困難を伴うのは質の維持が難しいからだと考えています。例えば物販の多店舗化はしやすいです。なぜなら質は商品というハードにかかってくるからです。しかし、今の時代、ネットビジネスが王道になる中、物販店の多店舗展開はあまり現実的ではありません。サービス業の多店舗展開は質の違いが最も表れやすくなります。日本でサービスを受けると言葉遣いも馬鹿丁寧で気も使ってくれるますが、質が伴うかは別の問題です。たとえば美容室や床屋。あぁ、きれいになった、さっぱりしたと思う一方、ハサミ使いは上手なのかといえば妥協できる範囲だったりします。ここが見落とされているのです。
私が進めている工事をする建設会社のケースです。社長はゼネコンから独立した人で現時点で私どもの発注が最大の規模です。個人事業に毛が生えたような感じですが、能力もあり、人柄も良いことから、私は彼には小さい仕事を2つ紹介しました。また彼自身も営業活動しており、案件が片手では足りなくなるほどになっています。そうなると現場を若い人に任せっきりで内業が主体となり、現場のミスやフォローアップが出来なくなるのです。既に設計士や役所の監督官からいくつかの指摘を受けているのですが、追いつかなくなり、仕事の質が下がってきているのがよくわかるのです。
自分が社長になれば大きくしたいという夢を持つのはとても大事なことです。ですが、私はそうではなく、今、自分の手持ち仕事をしっかりこなすこと、これを最優先にしないとあぶはち取らずになると申し上げたいのです。以前、「利益は良い仕事をした後からついてくる」という趣旨のことを申し上げたと思います。金勘定は後でよいのです。今、目の前の仕事を一生懸命やること、これが全てなのです。
アメリカなどで雇用調整が進んでいます。メディアの世界でも増えているようでCNNもリストラを実施することになったようです。通常、雇用調整の場合、仕事ができない人を切ります。企業の中で出来ない人とは企業に甘えた人だと私は思っています。周りの雰囲気に踊らされて中途半端な仕事をした人が切られるわけです。雇用統計で平均賃金がどんどん上がっている点について、賃金が安い人を切って高い人を雇うから上がるのさ、という記事を読んだのですが、まんざら外れてもいないのでしょう。
今日のブログは決して事業家向けだけの話ではなく、被雇用者にも当然当てはまります。時給なり、給料なりをもらって安定安泰だと思った瞬間、成長を目指す上での最大のリスクなのです。就職時期になると安定性から公務員や大企業を選びました、という声が聞こえます。申し訳ないですが、役所と大企業は実にかわいそうだとしか言いようがないのです。おまけに日本は首を切れませんから能力が落ちた人でもどこかの部署で拾ってくれます。すると閑職でも給与貰えるからいいか、という悪い循環に入ります。当然、そういう従業員は仕事にしがみつくのではなく、給与と安定にしがみついているのです。ですが、ここは共産圏ではないのです。
事業の大きさを図るのによく売り上げを基準にします。大企業の売り上げが兆円単位が当たり前になってくるとそれが良い会社、悪い会社の判断になりやすくなります。しかし、私は売り上げを追わず、良い仕事をする会社でありたいと思います。名刺は同じ会社のロゴが入っているけれど、接点もなければ話したこともない従業員ばかりというのも寂しいなぁ、というのが零細企業の経営者のつぶやきであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月4日の記事より転載させていただきました。