FIFAワールドカップ(以下、W杯)に出場中の日本代表、いよいよ決勝トーナメント1回戦、クロアチア戦を迎えます。
師走というとんでもなく忙しい時期、なかなかゆっくり観ていられない方も多いのではないでしょうか。もちろん、私もその一人です。
歴史を作るか、因縁に沈むか?
ただ、今回のクロアチア戦は日本代表の最高成績、ベスト16を超えて歴史をつくることが期待されています。また、これだけでなく日本代表はクロアチア代表とは「因縁」とも言える歴史を抱えています。
次の1戦に勝利することは史上最高成績という歴史だけでなく、W杯の舞台で日本代表に立ちふさがっていた壁を超えるという意味でも新しい歴史となるといえるでしょう。しかも、ルカ・モドリッチという世界最高峰の選手を擁する難敵となって、立ちふさがるのです。
これはもう、日本代表が新しいドラマに私たちを連れて行ってくれることを願って応援するしかないですね。そこで、ご一緒にこのドラマに参加できるように、クロアチア代表戦の見どころを考えてみましょう。
長身だがドイツ代表とはだいぶ違う
まずは「孫子・謀攻編」の格言「彼を知り己を知れば百戦殆からず」の精神に倣って、まずはクロアチア代表について考えてみましょう。
クロアチア代表の平均身長は184cmを超え、ドイツ代表に近いサイズ感です。大男が揃っているわけですが、もう一人の監督と呼ばれる中心選手のルカ・モドリッチは172cmと小柄です。戦い方もドイツ代表とはだいぶ異なります。
民族的にもいわゆるゲルマン民族であるドイツとは違い、スラブ人と呼ばれる民族系統です。「スラブ」の語源は諸説ありますが、古代ギリシャでは「奴隷にできない、服従させられない人々」と呼ばれていたようです。当時のギリシャはいわゆる「ギリシャ時代」で武力による世界の覇権を握っていたのですが、そのギリシャにとっても手強い相手だったと言えるでしょう。
見事な足技とアジリティでいやらしく騙す
そのサッカーの特徴は、かつて「中欧のブラジル」と呼ばれた旧ユーゴスラビアの一角を担っていたとおり、足技が非常に巧みです。大柄な選手も見事な足技を披露します。また、体格からは信じられないようなアジリティも示すのです。
対戦相手としては嫌なことですが、個々に見ごたえと迫力のあるプレーができるのが持ち味です。
そして、その技術とアジリティの使い方がまた「いやらしい」のです。言葉にすると「サッカーとは敵を欺くスポーツである」、という本質を知り尽くしたとでも言えるようなサッカー能力の使い方をするのです。
たとえば、ボールを運ぶと見せかけて止める(キャンセル)、または体とボールを回転させる(ターン)、などの技術で敵を騙してマークを引き剥がします。しかも、ボールは足元に吸い付いているかのように足から離れません。
2人でマークしたとしても、かわされて置き去りにされそうです。
チームとしても巧く騙す
また、単に上手い選手が揃っているというわけではありません。ピッチ上のもう一人の監督、ルカ・モドリッチの指揮でチームとしても「巧く」相手チームを騙します。
たとえば、サイドを起点にゴールに向かってパスワークを展開する、またはサイドからゴールに向かってドリブルを仕掛ける…と見せておいて、サイドチェンジを仕掛けたりします。
敵選手はゴール前中央をケアせざるをえない状況を作っているので、サイドの選手は「どフリー」です。そこを起点に自由にチャンスを作られてしまいます。
ちょうど、ドイツ代表戦でPKを献上した直前のシーンと似たような展開に持ち込まれかねない「騙し」を展開します。
守備においては中盤ではプレスに来ない…と見せておいて、唐突にチームでプレスを仕掛けることもあります。ボールを持てると思い、攻めどころを探していた相手チームは慌てることになり、プレスの餌食になります。
日本代表はボールを持たされている時は要注意と言ってもいいでしょう。
日本代表はどう攻める?どう守る?
こんな手強い相手、どのようにしたら攻略できるのでしょうか?
日本代表は、まずは守備においてはキャンセルやターンでプレスを剥がされて数的優位を作られないように慎重にプレスに行く必要があります。
またサイドチェンジに騙されてドイツ戦のPK献上の再現をしてしまうようなことを避けるためにドイツ戦後半、スペイン戦後半のようにマークの分担を確認してフリーの選手を作らせないことが重要です。
さらにスペイン戦の失点シーン、ゴール前でディフェンスの人数は揃っている中で巧みにマークを外されてアルバロ・モラタにゴールを献上したわけですが、あのような得点パターンは長身選手が多いクロアチア代表も持っています。この再現もあり得るので、ゴール前のマークの確認も徹底する必要があるでしょう。
では、どう攻めれば良いのでしょうか?
クロアチア代表は今大会1失点しかしていません。世界3位、驚くべき攻撃力を誇るタレント軍団ベルギー代表を相手には無失点でした。大会屈指の堅守を誇るチームと言ってよいでしょう。
唯一の失点はカナダ代表戦でした。このシーン、ゴール前を固めるディフェンス陣のだれも後方から走り込むカナダ選手を見ていませんでした。カナダ代表選手は忍者のように飛び出してゴールを奪ったのです。
個の力に優れるクロアチア代表に対して、ゴール前でのデュエル(1対1)が増えるような戦い方は得策ではないと思われます。カナダ代表がゴールを奪ったシーンの再現を目指すのであれば、チャンスであっても無闇に人数をかけて攻め込みすぎず、ゴール前のスペースを空けておく必要があります。
果たしてこのような形に持ち込めるかどうか…。ドキドキしますね。
さあ、勝っても負けても、歴史に残る熱い戦いが繰り広げられることは間違いありません。私たちの日本代表は再び「ブラボー!」な歓喜につつまれることができるのでしょうか?熱い戦いが、歴史を作り、新しいドラマを生み出すことを願って、応援いたしましょう!!
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杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
「心理学でみんなを幸せに」を目指した心理学研究が専門。
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