反撃能力は合憲、自衛隊は軍隊

篠田 英朗

Devrimb/iStock

敵のミサイル発射基地などを攻撃する「反撃能力」の保有を盛り込んだ安保関連3文書を政府が今月中に閣議決定する見込みとなった。与党二党が合意したことを、自民党・小野寺安全保障調査会長と、公明党・濵地雅一外交安全保障調査会事務局長が発表した。

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その際、「時代が変わった」といった抽象的な言い方がなされたようだ。世論の動向が変わってきたのを見定めた、という姿勢の政治家の本音なのだろう。だが、変わったのは「時代」とか「世論」とか「空気」とかではない。より具体的な、他国の状況と行動が変わっている。

北朝鮮がミサイル実験を繰り返している。すでに中国のミサイル能力は西太平洋地域においてアメリカを凌駕している。ロシアが冒険主義的行動に出る危険性が上昇している。「冷戦時代のように安保タダ乗りで、アメリカに日本防衛を任せておけないのか」という態度を、日本が取り続けるわけにはいかないのは、自明である。

これに対して共産党は、「憲法違反だ」という主張をしている。SNSなどを見ても、同様の主張が垣間見られる。安全保障政策の話は拒絶し、「憲法違反だ」、の話に持ち込み、いわゆる「護憲派」の固定ファン層にのみ訴えることができればそれでいい、というお馴染みのスタイルである。

だが日本国憲法のどこにも「ミサイルを持ってはいけない」などとは書かれていない。「敵の基地を狙った反撃をしてはいけない」などとも書かれていない。そもそも「世の中には合憲の武器と違憲の武器がある」といった議論を可能にするような規定そのものが、日本国憲法には存在していない。

「憲法違反」を叫ぶ方々は、決して真面目な憲法論をしようとはしない。ただ、「国際政治学者は憲法を語るな!」と叫んで、憲法をめぐる議論を禁止したくて禁止したくてたまらないだけなのが、「護憲派」の方々である。

しかし、残念ながら、「憲法を語る国際政治学者は、禁固刑に処する」といったことを定めた法律は存在していない。大変に恐縮だが、「どんなに破綻した内容でも、憲法学者の語る憲法解釈だけが常に正しく、国際政治学者の憲法学者の憲法解釈はどんなに優れていても否定されなければならない」といったことが書かれた法律も存在していない。

国際法の領域では、特定の武器の使用が、いくつかの具体的な禁止条約で禁止されている。たとえば、化学兵器禁止条約に加入しているのであれば、化学兵器を保持してはいけない。当然である。

国際人道法は、兵器の特定の使用方法を禁止している。たとえば、非戦闘員である民間人の殺戮を狙った兵器の使用は、戦争犯罪である。旧式の小火器を使用した場合でも、違法である。言うまでもなく、これらの特定兵器の使用の禁止と、兵器の特定のやり方での使用の禁止は、今回の「反撃能力」をめぐる議論とは、全く関係がない。

そもそも日本国憲法には「自衛権」をめぐる条項がない。憲法9条は、第二次世界大戦時の違法な戦争行為を禁止し、違法な戦争を行うための潜在力(「戦力」)とドクトリン(「交戦権」)を禁止しているだけだ。日本は、それによって大日本帝国軍を解体し、大日本帝国憲法「統治権」「統帥権」の規定を廃止し、国連憲章4条と日本国憲法前文が定める「平和を愛する国」の一つとなった。

このポツダム宣言受諾に伴って導入された措置は、「自衛権の制約」などといった憲法学者の陰謀めいた空想論とは、全く関係がない。単に、「自衛権」の恣意的な濫用を禁止しているだけだ。新しいミサイルを保有すると、「自衛権」から逸脱するとか、憲法の何らかの規定から逸脱するとか、といった話は、根拠のないフィクションでしかない。

ところで、折しも、国民民主党が、連立政権に入るのではないか、というニュースが流れた。当事者は可能性を否定しており、どこまで信憑性があるのか、メディア側の政治的思惑で流れてきたニュースではないのか、よくわからない。

ただ、国民民主党は、野党の中で憲法改正に前向きな政党の一つである。連立云々の話とはかかわりなく、憲法改正に向けた動きの中で、国民民主党が一つの役割を持つことは確実である。そこは重要な点であろう。

国民民主党の玉木雄一郎代表は、自衛隊を「軍隊」として明確に位置付けることに意欲を持たれている。

自衛隊が憲法上の「戦力」ではなく、国際法上の「軍隊」であることは、すでに政府答弁でも述べられてきたことである。ところが、「憲法にはいろいろな解釈がある」といった幻惑的な憲法解釈論に持ち込んで、自衛隊が「軍隊」であることを否定しようとするのが、「憲法学通説」なるものの権威をよりどころにしているいわゆる「護憲派」の方々である。

残念ながら、「護憲派」が掲げる「憲法学通説」が、学校教育の教科書から、司法試験・公務員試験まで牛耳ってしまっているため、自衛隊が「軍隊」であることが、一般の国民の間にも浸透していない。そのため、今回の「反撃能力」をめぐる喧騒のように、憲法の条項に何ら根拠がないフィクションが「憲法違反」という漢字四文字で表現される悪弊が横行してしまう。

由々しき事態である。

国民民主党には、自衛隊は「軍隊」であることを明らかにする憲法の文言を確立する改正案で、是非むしろ自民党の背中をたたいて、主導的な立場をとっていただきたい。

そして、「憲法にはいろいろな解釈がある」ので、「憲法学者へのアンケート調査を通じた憲法学者の多数決投票で国政を運営していくべきだ」といったことを主張する方々のイデオロギー闘争術で、国政が停滞することがないように、頑張ってもらいたい。