若者から「私達が生きづらい理由」を教えてもらった

黒坂岳央です。

筆者は仕事柄、人生に惑う10代後半、20代くらいの若者から求められてアドバイスをさせてもらう機会がある。時にはお互いに話が盛り上がってしまい、3時間くらいぶっ続けての話になることも。

そして先日、彼ら/彼女らと長時間話をする中で「生きづらさ」の正体について教わった。これは自分が若かった頃にはなかった特有の悩みであり、海外の事例とも照らすと合致するところも多く「これが若者を生きづらくしている本質の1つなのでは?」という仮説に至った。結論を先に言えば、「若い時期の人生選択肢があまりにも増えすぎたことが生きづらさの1つ」である。本稿ではその根拠を取り上げたい。

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▲ 海外の事例については過去記事を参考にどうぞ。

Alessandro Biascioli/Istock

若い時期に選択肢が多すぎる辛さ

今は選択肢があまりにも多すぎる時代である。筆者が20代の頃、人生でのビジネスにおける成功のロールモデルとは「一流企業の社員になり、キャリアアップに勤しむこと」という考えしかなかった。自分のキャリアを考える上で、頻繁に書店に足を運び、図書館でもたくさんの関連本を読んできたが、概ね同じような提案がなされていたと記憶している。

だが今は違う。起業して経営者になる、ビジネスキャリアアップを追求せよという従来の本に加えて、フリーランスや海外移住、会社員と副業の二足のわらじや、投資家でFIREするといったものもずらりと並ぶ。さらにその具体的な中身も細分化されており、「起業して大金を得る」「あえてしょぼく自由な起業」「女性のための起業」のように細かく道が分かれている。加えて、ブログやメディアニュース、YouTubeやセミナーまで色んなメディア媒体で色んな人が色んな意見をいっている。

先日話をした若い女性は「親は安定就職を望むが、自分は自由なワークスタイルを追求したい。海外移住も興味があるし、起業してバリバリビジネスも捨てがたい。でも親とは正面からぶつかりたくもないし、色々選択肢があって悩む。どうすればいい?」といった悩みを打ち明けてくれた。

自分なりの見解を伝えたが、親が子を思う気持ちも、女性の気持ちもよく分かる。それだけに難しい話だ。特に彼女の親世代は「自由なワークスタイル」とは「定職につかず、不安定な身分でぶらぶらする」といった負のイメージを抱いている可能性もある。そうなると両者の話は平行線になるだろう。

この選択肢が多さは若者には「豊かさ」の代わりに「生きづらさ」と感じさせるだろう。

体験しないと分からないこと

世の中には「情報を集めれば分かること」と「体験しないわからないこと」にわけられる。

前者について言えば、その仕事につくことで、年収はどのくらい想定できるか?その分野で起業するなら、どのくらいの目安期間を経て安定的な収益を生み出せるのか?といった大まかな情報は探せばすぐ出てくる。「情報を足で稼ぐ」という感覚で、あれこれリサーチを進めれば自ずと解消される悩みである。

しかし、問題は後者の場合だ。これは「適正」「価値観」といった話で体験しなければ分からない。仕事内容が市場ニーズの観点から魅力的であっても、自分には合わないということは頻繁に起こる。

たとえば自分は昔、比較的名の通った企業の会社員だった時期があった。友人に勤務先について問われれば、「大手はやっぱり羨ましい!」といった肯定的な反応が返ってきたが、自分は内心ではかなり苦しんでいた。同僚や上司が人間的に優れていたり、福利厚生が充実していたり、年収も平均より良かったが、仕事で思うようなパフォーマンスが出せない。周囲は温かい人に恵まれたが、会社で働く上で周囲に迷惑をかけることがあるたび、叱られるより期待されていないことがとても辛かった。

今考えれば、単に仕事内容やワークスタイルが自分の能力に適正がなかっただけなのだが当時はしんどいと感じた。このように「その仕事が自分にあっているか?」はやってみないと絶対に分からない。

これが可能性とバイタリティに溢れた若い時期だと余計にそうだろう。色んな話や意見が飛び交う様子を目の当たりにすれば、「たくさんある道のどれを選べばいい?」という惑いとなり、それが生きづらさに感じるというのは理解できるつもりだ。

「理想的な人生」なんて自分にしか分からない

人生を生きてわかったことがある。それは「理想的な人生」は本人にしか絶対に分からないということだ。だから1つずつじっくり試すしかない。

選択肢の多さは仕事に限らない。結婚か?独身か?子供を作るか?作らないか?作るなら何人か?どこに住むか?昔から人は人生の選択肢に思い悩んで来たが、今のようにSNSやネット情報がなかったので他人の動向をリサーチしてモデルケースのように見るということはできなかった。

しかし、今は違う。「人生全部見せ」に近いスタイルの発信者もおり、「この人と同じような選択肢を取れば、このモデルケースに近くなるのでは?」と追体験的な視点で見てしまう人も出てくる。そうした発信者が増えれば、余計に選択肢に悩む。

だが先に述べた通り、理想的な人生はやってみないと分からない。自分は起業してから「起業すると人脈が大事」「お金で解決できないことは何もない」「起業すると仕事が一番おもしろくて婚期を逃す」といった意見を何度も見聞きしてきたが、これら3つの意見は、自分自身にはすべて当てはまらなかった。

自分にとっては人脈を築いて仲間を増やすより一人で自由にのびのびと仕事をしたいし、現在の悩みはお金で解決できないものばかりだし、仕事より子供と一緒に過ごす時間が自分にとっては優先順位が一番高い。

起業する前はあまりにこれらの意見を聞きすぎていたので、自分もきっとそうなるものだと思っていた。実際に当てはまる人も多いはずだ。でも自分には当てはまらなかった。やってみないと分からない、でもやってみたい選択肢が多すぎるということである。だから試していくしかないのだ。

若者の生きづらさの一つは、人生選択肢の多さ。彼ら/彼女らと対話をしたことで見えた自分のなりの1つの仮説である。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。