イラン検察が4日、風紀警察を廃止する意向を表明した。このニュースはイラン聖職者体制が2カ月半に及ぶ国民の抗議デモに対して譲歩を示したものと歓迎する声が聞かれる一方、同国内務省が正式に発表するまで喜ぶのは時期尚早と警告する意見と共に、「風紀警察を解体するより、女性のヒジャプ着用義務の廃止を決めるべきだ」という声が出ている。
イランのクルド系女性マーサー・アミニさん(22歳)が9月13日、テヘランでスカーフをイスラムの服装規定に基づいて着用していなかったとして、風紀警察によって拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去したことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求する抗議デモが広がってきた。それに対し、治安部隊が動員され、強権でデモ参加者を鎮圧。オスロ拠点の非政府組織「イラン・ヒューマン・ライツ」が先月29日公表したところによると、全国的な抗議デモの参加者のうち、少なくとも448人が治安部隊によって殺された」と発表した。また、ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官は先週、抗議デモで子供を含む1万4000人が逮捕されたと述べた。
イラン当局は抗議デモの拡大を「米国、イスラエル、海外居住反体制派イラン人たちの画策」と反発し、強権で抗議デモを抑えてきた。しかし、抗議デモ参加者は増加し、女性の権利回復だけではなく、イスラム聖職者体制の打倒、ハメネイ師の辞任を要求してきている。欧州議会はイランの人権弾圧を批判する非難決議を採択するなど、国際社会のイラン批判は高まってきている。
イラン検察が風紀警察の解体の意向を表明することで、抗議デモ参加者の要求を受け入れる形で譲歩したわけだが、内務省は5日現在、何も発表していない。そのうえ、最高指導者ハメネイ師はイラン検察の意向に関して何もコメントを発表していないことから、抗議デモ参加者も「正式に発表されるまで抗議デモを継続する」意向を明らかにしている。
事例の動向を時間の経過と共にまとめてみる。
モンタセリ検事総長は2日、「議会と司法が、女性にスカーフの着用を義務付ける法律を見直すために調査委員会を設置する」と語った。同検事総長によると、「1、2週間で調査委員会の結果が発表されるだろう」というが、法律の何が変わるかについては説明しなかった。風紀警察は内務省の管轄だが、内務省は解体に関してこれまで何も発表していない。
モンタセリ検事総長の発表について、抗議デモ参加者は、「問題は風紀警察ではなく、スカーフの着用義務だ。女性はスカーフなしでどこにでも行けるようになるべきだ」と主張し、「風紀警察の解体は最初の一歩にすぎない」と述べている。
ちなみに、風紀警察は2006年、超保守派のマフムード・アフマディネジャド大統領の下で設置された。曰く、「品位とヒジャブの文化を広めることを目的」としてきた。風紀警察はイラン社会では常に物議を醸すテーマだった。イランの女性は1983年以来、スカーフを着用しなければならない。
ライシ大統領は3日夜、国会議長のモハメッド・バガー・ガリバフ国会議長とゴラム・フセイン・モフセニ・エドシェヒ法相らと緊急会議を開いている。協議の内容は公開されていない。ライシ大統領は3日、テレビで演説し、「私たちの憲法は、強力で不変の価値と原則を有している。しかし、その内容を柔軟に実施する方法はある」と述べ、女性への服装規定について柔軟に解釈する可能性を示唆している。
なお、アフマド・ワヒディ内相は4日、抗議デモに関する調査委員会の設置について、「デモ参加者も制度批判者も他の政党も同委員会に参加することはできない。調査委員会は抗議の根源を探るためのものであり、関連当局と独立した法律専門家のみが委員会での議論に参加できる」と説明した。抗議デモ参加者たちからは、「抗議運動の指導者や野党政治家の参加なしに抗議活動を調査しても建設的な結果は得られない」と指摘し、調査委員会の設置案を「ばかげている」と一蹴している。
抗議デモ参加者は5日から全国でデモとストライキを計画している。ストライキは3日間続くという。ライシ大統領は7日、イランの「学生の日」にテヘラン大学を訪問する予定だが、抗議デモはその日に最高潮に達する。イラン各地でデモ参加者と治安部隊の衝突が懸念されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。