最近になって、新型コロナが弱毒化したため「季節性インフルエンザより危険ではない」という主張をよく目にします。その急先鋒となっているのは、政府の分科会委員でもある大阪大学の大竹文雄特任教授です。
現在の新型コロナは、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき、緊急事態宣言や行動制限などの特別措置が可能となっています。そして、この特措法の趣旨に基づき、医療費も原則無料(公費負担)となっているのです。
大竹氏も指摘しているように、特措法が適用されるのは「新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度」を超える場合だとされています(同法第15条)。
このため、病状の程度が「おおむね同程度以下」であることが明らかになった場合、政府の対策本部は廃止することとされています(同法第21条)。
もし、新型コロナの危険性が季節性インフルエンザより低くなれば、当然ながらこれらの特別措置も対策本部もすべて廃止されることになります。
氏の見解は次のとおりです。
大竹文雄氏の見解
彼は、政府の基本的対処方針の変更案について、P4は以前のデータが改訂されていないため、新型コロナは「60歳代以上では致死率が相当程度高い」という文章は不適切だと指摘します。
令和4年3月から4月までに診断された人においては、重症化する人の割合は50歳代以下で0.03%、60歳代以上で1.50%、死亡する人の割合は、50歳代以下で0.01%、60歳代以上で1.13%となっている。なお、季節性インフルエンザの国内における致死率は50歳代以下で0.01%、60歳代以上で0.55%と報告されており、新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60歳代以上では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。ただし、オミクロン株が流行の主体であり、重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している。
最近のデータは、たとえば11月7日の財政制度分科会の資料(P7)に示されています。
確かに、政府の基本的対処方針とは逆で、第7波の重症化率と致死率は季節性インフルエンザを下回っているようです。
このことから、大竹氏は「第7波の新型コロナウイルス感染症は、重症化率でも致死率でも季節性インフルエンザよりも低いか同程度になっている。」と主張します。
もはや、第7波は特措法の条件を満たしていないので、政府対策本部も緊急事態宣言や行動制限などの特別措置、そして医療費の無料化も止めるべきだというのです。
では、政府はどう判断しているのでしょうか。
政府の見解
現時点での政府の公式見解は、11月30日に開催された第108回アドバイザリーボードの資料1「直近の感染状況の評価等(P5)」にあります。
【重症度等】オミクロン株による感染はデルタ株に比べて相対的に入院のリスク、重症化のリスクが低いことが示されているが、現時点で分析されたオミクロン株による感染の致命率(致死率)は、季節性インフルエンザの致命率(致死率)よりも高いと考えられる。
つまり、「現時点で分析されたオミクロン株による感染の致死率は、季節性インフルエンザの致死率よりも高い」と考えられるのだから、新型コロナは特措法の条件を満たしているということです。
この11月30日の資料3-7には、根拠となる大阪府の詳細なデータが公開されていますが、なぜか70歳以上の数値しか示されていません(P19)。そこで、P20~P21のデータから、死亡者が特に多い第5波以後の60歳以上のみを抽出し、季節性インフルエンザの危険度と比較してみたのが下のグラフです。
なるほど、オミクロン株による感染の致死率は0.67%~0.75%となり、季節性インフルエンザの0.55%よりまだ高いようです。
60歳以上の死亡者は“軽症”が大部分なのか
しかし、このグラフを見ると奇妙なことに気付きます。第6波から主流になったオミクロン株では、重症化率より致死率がずっと高い「逆転現象」が起きているのです。このことは、60歳以上の死亡者には、“軽症”だったはず人が重症の人より何倍も多いことを意味します。
少々奇妙に思えるこの現象は、第6波から主流になったオミクロン株だけで見られ、第5波以前と季節性インフルエンザでは見られません。どう考えればいいのでしょうか?
ここで、一時は相当な話題になった『「コロナ肺炎」単独の死因はゼロ 愛知県内、第7波で』という中日新聞の記事を思い出す人もいるかもしれません。同記事によると、
新型コロナウイルス感染の流行「第7波」で[8月]15日までに公表された愛知県内の「コロナ死者」について、死因で第4波や第5波などでは顕著だった「コロナ肺炎」単独のケースは確認されていないことが、県への取材で分かった。
とあります。
読売新聞も『第6波の「コロナ死者」、3割の死因がコロナ以外…高齢者の持病悪化や老衰目立つ』と伝えています。同記事によると、第6波では、3割から5割がコロナ以外の疾患で死亡しているそうです。
確かに、こう考えれば「重症化率より致死率の方がずっと高い」ことが説明できます。また、前出の「第7波では約3割の人がコロナ以外で亡くなっている」(財政制度分科会資料)こととも整合的です。しかし、まだ情報が乏しいので、事実と断定するのには時期尚早でしょう。
第8波では、本当に新型コロナが原因で死亡しているのか
そうしたら、たまたま最近になって、感染者数(PCR陽性者数)と死亡者数がほぼ同時に増加しているという情報を目にしました。
経験的に、感染→死亡には1月ぐらいのタイムラグが生じます。確かに第7波まではそうでした。ところが、現在の「第8波」では、感染→死亡のタイムラグはほぼ「ゼロ」です。これは、死亡日とPCR検査の陽性判明日がほぼ同日であることを強く示唆しています。
死亡日と陽性判明日が同日なら、死亡時には新型コロナの症状が出ていなかった(気付かなかった)、と考えるしかありません。念のため、死亡時(あるいは別件で入院時)にPCR検査をしたら、たまたま陽性だったのでしょう。この場合、直接の死因が新型コロナではないことは明らかです。
よって、現在の第8波で、感染者数と死亡者数がほぼ同時に増加しているということは、陽性判明日と死亡日がほぼ同日→直接の死因は新型コロナではない、という可能性が極めて高いと推測できます。
上のグラフを注意深く見ると、第7波でも感染→死亡のタイムラグが従来の1月よりは短く、2週間程度になっていることが分かります。言い換えれば、第7波でも直接の死因が新型コロナでないケースが相当あった可能性が高いようです。繰り返しになりますが、これは前出の「第7波では約3割の人がコロナ以外で亡くなっている」(財政制度分科会資料)こととも整合的です。
もっとも、以上は公開された統計データに基づく推論に過ぎません。
不思議なことに、ここ3か月ほどは、政府で中心的な役割を果たすはずの、新型コロナウイルス感染症対策本部や分科会は「持ち回り開催」となっています。
国民である私は、メンバー同士で正々堂々と議論を行い、科学的で正確な結論を出していただきたいと強く願っているところです。