医学部人気に陰りか?ITへ人材は向かう?

日本で医師という安全で有利な職業があることと、その反映としての、医学部の異常な人気について批判を繰り返し、『日本の政治「解体新書」:世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)でも新しい視点を加えて論じた。

そして、PRESIDENT Onlineでも『数学も英語もデキる優秀人材の無駄遣い…日本経済をダメにしている「高すぎる医学部人気」という大問題 最優秀の理系人材を医師にするのはもったいない』という記事を書いた。

今回は、それらのところでとりあげた論点を少し紹介したい。

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あいかわらずの医学部人気だが、さすがに最近では少し違う流れもあるといううれしいニュースもある。

最近の灘高校では、医学部でなくIT系をめざす動きもあるというのである。これまでは、東大理Ⅲにいって医師免許をゲットして食いはぐれのないようにして、そのあとマッキンゼーへというのが人気とか云う話があった。

医者はほかの職業より倍近くの収入があるが、何倍にはなかなかならない。それなら、最初から大儲けも期待できるIT系の世界に入らないのは回り道だというのである。

大手四予備校の来春の入試の予想偏差値(サンデー毎日2022年11月13・20日)を見ると、東京大学理Ⅲ(全員が医学部医学科へ進級)と京都大学医学部は図抜けているが、東京医科歯科大学、千葉大学、横浜市立大学、大阪大学など大都市周辺の医学部も、東京大学理Ⅰ・理Ⅱと同水準だし、54ある国公立医学部のだいたい半分が京都大学理学部・工学部と同水準ないしそれ以上だ。

京都大学工学部の人気がない学科は最下位クラスの国公立医学部と同水準だし、他の旧帝大の理工系学部は最低ランクの医学部より低い。

ここで注目して欲しいが、京都大学の理工系のなかで、情報工学だけが東大理1並みの偏差値でしかも全国から応募者が集まってきているのである。

というのは、東京大学の理系では、物理・数学系の理Ⅰ、生物・化学系の理Ⅱ、医系の理Ⅲという大ぐくりで選抜する。その後、IT系のような人気学科へ進むには、駒場でよほど良い成績が必要で、IT系は実質、理Ⅲ並みの学力がいるようになったのである。

その結果、確実にIT系に進める京都大学の情報工学がほかの学科よりかなり高い偏差値になっているらしい。

医学部に合格するためには、数学・英語で高い点数が求められるわけだが、医学部ではは他の理工系学部に比べて高度な数学や語学は不要だ。学問の性質からも経済やテクノロジー系に比べて、高度な英語や数学の知識を必要とする分野ではないが、医学部では、医局で即戦力として使いたい、医師国家試験の合格率を上げたいといった動機で低学年から専門教育を始め、リベラル・アーツ(一般教養)を学ばせるのに熱心でない。

これは、臨床医を「促成栽培」するにはいいが、データ解析などには不都合であることは、新型コロナのときも問題になった。

しかし、いずれにせよ、英語や数学がもっともよくできる人たちが、医学部に行こうとする限り、日本経済に未来はあるまい。