フジテレビ系列局の破綻で始まる電波のイノベーション(アーカイブ記事)

池田 信夫

フジテレビが崖っぷちだ。性加害事件そのものは刑事事件になる見通しはないが、問題は経営陣の初動の対応の失敗で局のイメージが失墜し、広告の打ち切りが続いていることだ。

その影響は系列局にも及んでいるが、こっちはもっと深刻だ。地方局はローカル広告だけでは経営が成り立たず、キー局からの電波料で赤字を補填しているからだ。今後フジの経営が行き詰まると、経営陣がまずやるのは電波料の大幅削減だろう。

この電波料は会計上はわからないが、スポンサーの払う広告料のほぼ半分を全国の系列局に分配している。地方民放は、番組を供給してもらって電波料までもらえる世界一おいしいビジネスだ。これが崩壊する日が近づいている。

プラチナバンドを地上波テレビに

これは2022年にホリエモンと話した対談だが、私があいているプラチナバンド(470~710MHz)を携帯電話に割り当てる話をしたのに対して、ホリエモンは「テレビに割り当ててはどうか」という。これは電波業界の常識ではありえない。これから地上波テレビのネットワークを全国につくることは不可能で、放送なら衛星のほうがはるかに効率がいいからだ。

しかし衛星はマイナーで、ほとんどのチャンネルが赤字である。テレビのリモコンでは地上波局も衛星も同格で、たとえば「265」と押せば265チャンネルの「BSよしもと」が無料で見られるが、地上波のほうが桁違いに高い視聴率を稼いでいる。

その理由は単なる「慣れ」である。視聴者は3桁の衛星チャンネルの中から番組を選ぶより、いつも見ているリモコンの1~12チャンネルの中から見るからだ。これは日本の特異な視聴習慣で、地上波局がながく独占を守ってきたため、約70年も地上波局の倒産も買収もなく、全国ネットが守られているのだ。

東京でも32チャンネルあいている

この現状を変えるのは簡単である。地上波テレビ局は全国で(物理チャンネルで)13~52の40チャンネルを割り当てられているが、たとえば東京スカイツリーは、次の表のように16チャンネルと21~27チャンネルの合計8チャンネルしか使っていないので、13~15チャンネルと28~52チャンネルの合計32チャンネルはあいている

マスプロアンテナ資料

これをSFNで区画整理して、すべての中継局をスカイツリーと同じチャンネルにすれば32チャンネル使えるが、今のままでも、たとえば50チャンネルは新島しか使っていないので、アベマに割り当て、スカイツリーから放送すればいい。それをリモコンの3チャンネルに割り当てれば、今のテレビで受信できる。10・11チャンネルもあいている。

このようにテレビのあいた帯域に新しいテレビ局を入れれば、関東1都6県の2500万人に放送できる。同じように各県で割り当てれば全国放送もできるが、圧倒的に収益率が高いのは首都圏なので、電波を使うのは関東だけで十分だ。他の地方は、今回のワールドカップのようにネット放送でいい。

H.265で200チャンネル放送できる

サイバーエージェント(アベマの親会社)にとって、地上波をもつメリットは大きい。ワールドカップのような大イベントなら、AWSやAkamaiのサーバを借りても採算がとれるが、1年中そうは行かない。一方的に流すマルチキャストには、電波が向いている。

受像機は今のテレビで映るが、4KやNetflixなどの使っているH.265という圧縮方式を使えば、1MHzでHDTV1チャンネルとれるので、あいている200MHzで200チャンネルとれる。H.265に対応したテレビも増えているので、高価な衛星を使っている業者も、丸ごと地上波に引っ越せる。

チャンネルの割り当ては、オークションでやればいい。用途を問わない帯域免許なら、難航している楽天の帯域もここで確保できる。価格は1MHzが100億円というのが相場である。たった100億円で、1年中スポーツ中継できるチャンネルが買えるなら、サイバーエージェントにとっても楽天にとっても安いものだろう。

最大の障害は、マスメディア集中排除原則で民放連が地上波局への新規参入を許さないことだ。しかしこれは系列局を制約して経営を悪化させているので、最近は緩和され、日本テレビホールディングスが系列4局を買収して今年4月に「読売中京FSホールディングス」という持株会社をつくる。

しかしフジテレビは本体の経営が危機的状況なので、逆に系列局を切り離すのではないか。これはホリエモンが買収するチャンスである。