売り切れご免でもいい:ラーメン店が牛丼チェーンより健全経営の理由

2023年経済成長率の予想が欧米に比べると良いことに気が付いた方はいらっしゃいますか?OECDの予想ですとアメリカは0.5%成長、欧州が0.3%に対して日本は1.4%となっています。日欧米の成長率予想でトップを取るのはめったになく、立派じゃないか、と思われる方も多いでしょう。ただ、日本は万年1%台の成長率でずっとぶれないのが良い話か、さえない話かは議論の余地があるでしょう。

日本が欧米のみならず、韓国にも様々な指標で追いつかれたり、追い抜かれたりしている理由が少子高齢化とは言い切れません。なぜならその点は韓国はもっと厳しい状況だからです。日本の生産性の低さについては様々なデータが裏付けているわけですが、今回特に気になる参入障壁が低い飲食系に関する過当競争について考えてみたいと思います。

ユーチューブには飲食店紹介ものが無数にあります。これほどユーチューバーがターゲットにする業種もないと思います。そして多くは安いか、うまいか、店の雰囲気が良いかを争いますが、やはりユーチューブ受けしやすいのが安くて量が多いところと豪華に見える飲食店でしょう。更にはハッピーアワーなどでお得感を紹介するものもあります。

これらが意味するところは何か、といえば飲食店の過当競争を煽っているということです。彼らは無料で取材し、店のメニューや食レポを結構しっかりしてくれます。今や、テレビのレポーターによるやらされ感満載の業務上の食レポ番組より個人ユーチューバーの紹介番組の方がはるかにシリアスでよい情報が取れたりするのです。これは視聴者側には良い情報でありますが、店としては競合店に負けないサービスを施さねばならないためにより過当競争に突入する悪循環に入るのです。

飲食店も大手のチェーンより最近は個店が明らかに注目度が上がっています。一つは「孤独のグルメ」で街中の誰も注目しなかったようなポツンと一軒屋型の飲食店にスポットを当てたことが一部のグルメファンの探求心を煽ったとも言えます。これは良い面もありますが、激しい競争社会を生み出したとも言えます。当然ながら店主たちは長く働き、利益も薄くなるかもしれません。また優勝劣敗も進むでしょう。

もう一つは総菜の販売です。以前、このブログでスーパーマーケットの総菜の話を振りました。日本では当たり前すぎて話題にならないのですが、「総菜文化」は圧倒的に世界一でしょう。デパ地下、スーパー、弁当屋、コンビニなどあらゆるところで総菜が手に入ります。が、この総菜、日持ちがしないのです。よってその日に売れ残れば当然廃棄処分です。コンビニでも時間までに売れなければ黙ってゴミ袋に直行です。

その総菜は結構遅い時間に行っても案外、売り切れていることはありません。店側の言い分はお勤めの方が遅い時間に来店するので、というものです。遅い時間にどれぐらい売れるのかわかりませんが、廃棄ロスを増やすマイナス要素の方が大きい気もします。また当然、それは材料代と人件費もかかっているわけで経営的にも決して芳しい話ではありません。

当地のある大手スーパーでは中華総菜を取り扱っているのですが、価格は結構高く、かつ、遅い時間に行くとまず何も残っていません。遅いといっても6時半とか7時ぐらいです。厨房はきれいに片づけられて人っ子一人おらず、タイムセールのような割引シールもほとんど見かけません。要はしっかりした価格で売れ残りを出さないことを徹底しているのでしょう。とすれば総菜が欲しければ早い時間に行くしかないわけです。これは不便とも言えるし、合理的ともいうこともできます。

日本経済の話で必ず出るのが総需要が十分ではない、と。私はそうではなくて総供給が多すぎるのだ、と言っています。家電量販店しかり、住宅しかりなのですが、飲食関係が特に多すぎると思うのです。昔の飲食店経営者のポリシーには戦後直後の食糧難を経験した方も多いこともあり、安い値段でしっかり食べてもらいたいという方も多いのだと思います。が、いまはもう戦後ではないのです。

ところで牛丼チェーンが値上げすると報じられると多くの社会的反応が出ます。ところがラーメン店の値上げはほとんど話題にもなりません。今、ラーメンが一杯1000円を超えるのが普通になってきています。コンスタントに値上がりしていると思います。つまり、ラーメン店は経済の動向に沿って値上げできている健全経営だともいえるのです。しかもフードロスが出にくい業態です。

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ということは作り過ぎなければ顧客は値引きしなくても購入するわけです。先日、日本製鉄の話をしました。橋本社長が一番先に手を付けたのは高炉を減らすことでした。つまり、過剰な生産能力が会社を安売り競争に巻き込んだという訳です。これと飲食経営は同じだと思うのです。

売り切れご免でもいい、経営の質を上げ、利益を上げ、従業員の賃金を上げることです。今や安売り競争の時代ではないと思っています。総菜や夜遅くまでやっている飲食店がなくても人々が飢えることはありません。社会を変える、という一歩を踏み出すべきではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月13日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。