原発推進を謳う(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

日本の第一次エネルギー供給構成の推移を見ると、これは明らかに亡国への道である。原子力発電の比率は2010年に29.2%だったものが21年には7.0%に落ちている。伸びたものは自然エネルギーで10年に3.2%だったものが21年には22.4%になっている。国のエネルギー構成の大工程として、原子力を狭め、太陽光や風力を広げようとしていることは明らかだ。

しかしウクライナ・ロシア戦争をきっかけに、エネルギー資源は国際政治を無視して世界から集めてくることが難しくなった。ドイツは使用する天然ガスの内、半分以上をロシアからの輸入に頼っていたが、いきなりこれがゼロになった。国際政治の激流の中、どの国も巧みな舵取りが求められている。

こういう国際環境の動揺の中で、日本が最も安定的に生きるには、原子力をエネルギー源の主力とするのが一番だ。小型の原発を数多く作ったり、戦争時にも耐えられる頑丈さを備えることが必要だ。フランスもこの道を辿っているが、両国の協力関係は不可欠だ。

太陽光・風力は、エネルギーの元がタダだから最も安いと思われているが、日本の気候では、中国や北欧のようにコストは安くはならない。元々、韓国の電気料金は日本の半分と言われていたが、どうしてそんなに安いのか学んでみる必要がある。韓国は電源構成に占める原発の割合が27.4%(21年)だったが、尹錫悦政権の「10次電力需給基本計画」では、2030年までにその割合を32.8%に増やそうとしている。

私が「(エネルギー源のほとんど)全部を原発に」という理由は、原子力研究を積み重ねれば積み重ねる程、原発のコストが下がってくるはずだからだ。世界一安い状態を作り出せば工業国として優位な立場を維持できる。

太陽光や風力を推さないのは、これを使う限り日本が不利になると確信するからだ。東京都の年間降水量はパリの倍。私は欧州に6年近く居住したが、傘を買った記憶すらない。世界銀行のレポートでも、日本の太陽光資源活用の潜在的能力は210ヵ国中182位だ。中国の太陽光パネル製造業は、世界中から利益を上げている。これは中国での製造コストが低く有利だからだ。日本は利益の上がらない分野に頭を突っ込むことはない。

小池百合子東京都知事が提唱している、新築住宅に太陽光パネル設置を義務付ける特別条例案に誰がOKを出したのか。下手をすると日本国を潰すほどの下策だ。

岸田首相は「原発の推進」を決定し、現施設の60年間超の利用も可能とした。これまで原発“廃止派”に黙らせられてきた“推進派”は内心、救いを見出しただろう。

岸田内閣で一旦決めた以上、途中で変更とか中止せよということはあり得ない。「原発反対」を明言している河野太郎、小泉進次郎の両氏は、もし自民党総裁を狙うのなら原発問題をはぐらかす訳にはいかない。

(令和4年12月14日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。