「お金の悩み」がなくなった後に来る「新たな悩み」とは?

黒坂岳央です。

「お金の不安さえなくなれば絶対に幸せになれるのに」

かつて、筆者はこの言葉を数え切れないほど脳内で反芻していた時期があった。人生の前半はとにかくお金がなかったし、人一倍経済的不安が強烈だった。特にリーマンショック直後の就職難を経験したことで、一時期はトラウマレベルに「お金のない恐怖」が刷り込まれ、「お金さえあれば…」という気持ちが強かった。

だが状況は変わり、とりあえず今はお金の不安はない(決して大富豪というわけではないし、稚拙な自慢のつもりもないが…)。そしてその結果「お金の不安」がなくなった先にある「新しき不安」に直面することを理解した。ここからが人生で最も難しくなる局面の1つだと思っている。

この悩みはおそらく筆者だけでなく、同じような悩みを抱えている人もいると思っている。何らかの気付きになればと思い、記録しておきたい。

AaronAmat/iStock

「お金のため」じゃない仕事の難しさ

「仕事はお金を稼ぐためにするもの」という時期はある意味、精神的に楽だったかもしれない。若い頃、派遣やアルバイトをする上では、とりあえずボーっとしていても拘束時間中は時給が出た。そのため、「ただ待機しているこの時間も給与が出ている」と実感出来たからだ。仕事の段取りが多少悪くとも、そのせいで少々残業が発生しようともそこまで気にならなかった。むしろ、残業代は割増になるので嬉しいと感じていた時期もあった。

だが、今はそうではない。もちろん、慈善事業ではなくビジネスなので、会社を存続させるためにお客様から代金を受け取って仕事をしている。しかし、「お金を稼ぐために仕事をする」というより「空き時間を有意義に過ごすために仕事をし、ビジネスリソースの制約下においてどれだけパフォーマンスを高められるか?」というゲーム感覚に近い。

そうなると仕事選びの軸は「自分がやりたいと思えるか?楽しいと感じるか?」ということになる。これはお金に困っていた時期には感じなかった悩みだ。「稼げるビジネス」という観点で探すなら、明確な答えがググって出てくるし、それを目指す道のりは分かりやすい。しかし、「自分がやりたいと思える仕事」は自分以外、誰にも分からない。否、自分自身ですら見えないことがほとんどだ。

だから面白そうだと感じたら、とりあえず手を付けてみて、思うようなものでなかったら次の仕事へスイッチする。これを繰り返しながら、自分が楽しめる仕事を自力で見つけていくしかないのである。

お金という分かりやすいリターンではなく、真に心からやりたいと思える仕事を見つけるのが、とても大変なのだ。

ヒマを持て余す

これは自分自身だけでなく、付き合いのあったビジネスマンを見てきて感じることだが、ある程度仕事が軌道に乗り安定的に流れるようになったらヒマを持て余すようになる。会社をそこそこ育てた知人の経営者はしょっちゅう遊びに行ってばかりで、面白そうな話を聞けばいきなり翌日から宿泊込みで出かけていく。楽しい活動に飢えており、きっとヒマなのだと思う。

自分は二人の子供を育てているので今は忙しくしているが、一人目を保育園に入れて二人目が生まれるまでの間はかなりヒマになってしまったことがあった。絶対にやらなければいけない仕事は、朝9時とか10時には終わってしまうので、残りの時間はヒマを持て余してしまっていた。

マンガやゲームは大好きだが、365日ヒマだとすぐにやり尽くしてしまう。娯楽は仕事を頑張った余暇時間にやるからこそ、楽しいのである。毎日、余暇時間しかなければ受動的な娯楽はすぐに飽きる。最初は「この生活はストレスもなく、気楽で嬉しい」と思っていたが、すぐにつまらなく感じてストレスがないことにストレスを感じていた。

今は状況が変わり、意識的に忙しくする術を得てなんとかなっているが、今いる子供が二人とも学校に行ってしまえばまたヒマが戻ってきてしまうだろう。

「お金があれば人生の99%の悩みは解消できる」などと言う人がいるが、お金はそんなに万能なものではない。お金はしょせん、単なる価値交換券にすぎず、値段がついているものしか買うことはできない。更に本を買うことはできても、それを買って読んで面白がれるかどうかは自分自身の感受性次第である。その感受性もビビッドに過ごさなければ衰えて何も感じなくなる。

欲しいものは大体買ってしまい、もう買いたい物があまりない残されていない世界は、ゲームRPGにたとえるとあらゆるアイテムをたくさん持っている状態に近い。もう攻略が残されていないため、そこからは自分で創意工夫して楽しめる人生にするという新しい問題が生まれるのだ。

残りの人生は長くもないが、短すぎることもない。創意工夫で自分で人生を盛り上げていくという、新たな課題に直面するのである。

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