東工大入試の女子枠は悩ましい②

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東京工業大学が2024年度の学部入試から「女子枠」を導入する。女子入学者を積極的に増やしたいという東工大の意図は評価したいが、納得し難い点もある。前回に続いて、女子枠をめぐる課題を取り上げる。

(前回:東工大入試の女子枠は悩ましい①

女子枠の受験生には学力審査のほかに、志望理由書や推薦状の提出および面接が課せられる。同大の6つある学院(旧学部)のうち、工学院、物質工学院、情報工学院は、志望理由書に「女性活躍社会に貢献するために学びたいこと」を記述するよう求めている。この点がその一つである(東京工業大学「令和6年度及び令和7年度大学入学者選抜について(予告)」2022年11月10日)。

そもそも東工大の女子枠は、文科省が大学理工系分野の女子学生を増すよう推奨したことに端を発している。同省は「令和5年度大学入学者選抜実施要項について」(2022年6月3日)において、理工系分野では女子を始め多様性のある入学者を選抜するための工夫が望まれる旨を国公私立大学長等に通知し、「女子枠」のような積極策の導入を示唆した。

なお、名古屋大学工学部がこの通知以前に、2023年度入学者より学校推薦型選抜定員の半数を女子に割り当てるとの決定をしており、東工大はそれに続く動きであった(読売新聞オンライン、2022年8月13日)。

理工系学部に「女子枠」、文科省が創設促す…名古屋大工学部は学校推薦定員の半数を女子限定
【読売新聞】 文部科学省は2023年度入学の大学入試から、理工系分野に「女子枠」を創設するよう各大学などに促している。理工系専攻の女子学生が少ない現状を変えたい考えだ。 文科省によると、21年度は大学で女性が理工系を専攻する割合は7

2012年12月末に発足した第2次安倍政権が打ち出した「ウーマノミクス」以来、政府は女性活躍を推し進め、社会のさまざま領域における女性比率の上昇をめざす。文科省関連で焦点が当てられている領域の一つのが、女子の理工系大学・学部への進学率の向上である。

東工大が女子枠受験生に女性活躍に貢献する意向を求めたのも、こうした政府の方針を反映したためだと思われる。女性活躍の政府方針の下で設置された入試枠を受験するのであるから、その方針に沿った期待に応えよ、というわけだ。

とはいえ、女性なら女性活躍に貢献して当然という考え方は典型的なスレレオタイプ、すなわち女性を伝統的な女性の役割に縛りつけて、自由度を奪うものだ。女性が国家や世界を論じ、平和や発展に貢献するのはまるで想定外と言わんばかりだ。しかも、男性やトランスジェンダーの人が女性活躍に貢献することも大いにあり得るので、女性以外の人に対する偏見でもある。

ところで、女子高校生が進路選択において理工系分野を選ぶ場合、どのような要因が影響するのであろう。内閣府委託の『女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究』(令和4年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)が、全国の高校生4,594人にアンケート調査を行い、うち女子高校生2,485人の回答から、女性の理工系分野への進路選択に影響を及ぼす要因を明らかにしている。

そのポイントを3つ紹介すると、まず女子の理工系志望者は、幼少期に科学館・博物館、大学や自治体のイベントなどで、自然科学関連の学習体験をしたものが多く、こうした経験が理工系分野に興味を抱く契機になった可能性がある。

次に、理工系志望の女子には、志望理由に将来像が明確、就職・転職に有利、将来高い収入が得られるからなど、実利的な理由を挙げる傾向が高かった。そして、理工系志望女子の保護者も理工系出身であった割合が高かった点である。つまり、理工系出身者が身近にいることで、理工系職業のイメージが掴みやすく、また保護者に自分と同じ進路を進むように促される機会もある。

3点目の保護者の影響はともかくも、理工系への興味を動機づける学習や体験、就職先など理工系分野のキャリア設計については、政府、自治体、さらに大学が制度的に取組むことのできる事柄である。わけても理工系の大学/学部は、設備もスタッフも揃っているので、小中学校に出向いたり、あるいは児童/生徒をキャンパスに招いたりして、子どもたちに面白い実験や興味深い講義をし、さらに理工系卒業生のキャリア形成について紹介するなど、すぐにでも取り掛かることができるはずである。

こうした子どもたちの理科系への関心を喚起する取組みに即効性はない。そのため、早急に理工系の女子入学者を増やすには「女子枠」の導入も止むなしなのかもしれないが、同時に5年後、10年後の理工系女子志望者を増やすための地道な努力も忘れてはならないだろう。