金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」の第6原則のもとで、金融機関は、「顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握」しなければならないが、商業の常識として、金融機関が「顧客の資産状況」について直接的な質問をすることは、無礼の極みであって不可能である。
故に、金融機関の経営者は、顧客から必要な情報を上手に引き出す方法を工夫しなければならず、それが金融庁のいう顧客本位なビジネスモデルの構築である。金融も商業なのだから、商業の基本原則のなかで、顧客本位を実現すること、それがビジネスモデルの構築なのである。
しかし、残念ながら、金融界においては、この辺の理解が全くできておらず、愚劣にも、顧客の資産状況をあからさまに聞いて、嘘の答えを得るなり、顰蹙を買うなりしているわけである。もっとも、それは、それでいいのだ。金融庁の施策は、駄目な金融機関は淘汰され、顧客本位なビジネスモデルを構築できた金融機関だけが成長し、繁栄していくという前提になっているからである。
さて、顧客に関する情報を得るために、直接に聞くことができなければ、間接的に知る方法を工夫するほかない。そして、実は、これがフィンテックの一つの重要な領域なのである。金融機関が対面で能動的に質問すると、顧客は警戒して答えないわけだが、金融機関が単にシステムを提供するだけで受動的な立場にとどまるならば、顧客は能動的に情報を入力する場合があると予想されるのである。要は、機械は口をきかないし、手も出さないから安心というわけである。
つまり、この背後には、口をきき、手も出す金融機関は顧客から少しも信用されていないという前提がある。顧客本位なビジネスモデルの構築というのは、まさに、金融機関が顧客の視点で徹底した自己反省を行うことの先にしかないわけだ。
また、これもフィンテックの重要な要素だが、顧客の「資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ」は、別に入手可能な全く異なる多様で多量なデータを用いて、ある程度は推測推計できると予想される。例えば、消費が所得の関数なら、消費から所得が推計可能だろうというわけである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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