若者が「ゆるすぎホワイト企業」から退職する理由

黒坂岳央です。

労働法令改正の影響を受け、直近の日本における職場環境は劇的に改善している。かつては「正社員で定時退社など都市伝説」のような雰囲気があったが、もはや昭和のモーレツ社員のような時代へ戻ることはないだろう。これは大局的に見て、労働人口減少で企業は労働力確保に奔走することになり、無闇にやたらに長時間労働をする企業は敬遠され生き残ることが出来ないためだ。パワハラ、セクハラなども厳しく取り締まられるようになり、最近では上司が「若手社員を指導して、相手からパワハラと騒がれたら…」と恐れるあまり有効な指導ができない状況が起こっている。

しかし、若者が求めるのはゆるすぎる職場ではないようだ。リクルートワークス研究所の調査によると、大手新入社員の3割以上が職場を「ゆるい」と感じており、またANNニュースによると叱られた経験がないという調査もあるようだ。ゆるすぎる職場を自らの意志で去る若者が増えているという。働く若者は何を求めているのだろうか?

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指導と叱責の違い

これには年配社員と若者の間に認識のギャップがあると推測できる。その1つが指導と叱責の違いだ。

年配社員の中には相手を頭ごなしに叱りつけたり、人格を否定するようなスタイルを「指導の一環」と勘違いする人が一定数存在する。これは自分自身が会社員をやっていた時にも問題になったことがある。職場で行き過ぎた指導が問題になり、全管理職を対象とした「パワハラ研修」が行われたり、パワハラの定義が通達された。感情的な叱責は指導とは質的に異なる。

その結果、パワハラ認定を過剰に恐れ、新人を指導をしなくなった一部の年配社員に若手が不満を感じているという状況が起こっている。しかし、仕事をする上で上司が若手をフォローする場合、「仕事のノウハウや技術」を教えることが必要になる。最初は誰しも分からないことだらけで、やった仕事が間違っていることも多い。だが、上司の仕事は若手の間違いを指摘し、あるべき道筋へ修正する指導。そうすることで仕事全体のパフォーマンスも高まり、指導を受けた若手も技術向上を感じて指導してくれた相手に感謝の気持ちも生まれるだろう。指導というより、むしろフィードバックとも置き換えて考える方がよいだろう。その際、教える側は一切の負の感情を排除し、あくまで冷静かつ相手に分かりやすく「ここはこうするともっとよくなるよ」といった、相手に有益性を提供する態度で接するのである。

企業も上司も成長が必要

だがもう1つの問題がある。それは若者が指導を通じて付加価値を感じ続けるような仕事が会社にある必要性だ。人は本質的に変化を嫌うから、経営者が意識的に有効なイノベーションや新たなビジネスへリスクテイクしていかなければ、思考を介さない旧態依然とした作業レベルの仕事ばかりが残るだろう。実際、そうなっている会社も多い。DX化による業務効率向上がなされないことにより、単なる人海戦術で仕事をこなすだけの付加価値の低い仕事で時間の多くを過ごすことになる。そうなれば、その職場で身につけられる技術も限定的になってしまう。つまり、若者が仕事を通じて労働市場を高められると感じるには、会社や上司がビジネス成長している必要がある。だがそのような会社は全体から見れば少数派ではないだろうか。

この状況が続くのはまずい。なぜなら、これが続けば競争力や変化への対応力に優れる海外企業へ人材が流れてしまい、日本企業の脆弱化、労働力不足、老化が懸念されるからである。筆者の親族もそうだ。定時退社で楽だが、ルーチンワークで労働集約的な作業が多い日系企業に見限りを付け、少々ハードワークだが先端のテクノロジーを仕事を通じて活用できる米国系企業へ転職してしまった。

この流れに歯止めをかけるには、日系企業とそこで若者を指導する立場のビジネス的な成長が必要になるのではないだろうか。

市場価値を意識する若者

誰からも指導されず放置され、自分の仕事が合っているかどうかが分からず、技術やノウハウが向上しないまま時がすぎれば誰しも先行き不安になる。入社した会社に一生涯かじりつくつもりでない若手社員にとっては、技術がつかないまま労働市場に放流されることは何よりも大きなリスクに感じるはずだ。上司の鬱憤晴らしのような叱責は論外だが、フィードバックを提供する指導は強く求められている。

自分は仕事柄、20代前半の若者にキャリア相談を受けることもよくあるが、みんなしっかりと自分の将来キャリアを意識していて驚かされる。自分が同じ年の頃はそこまで考えていなかったので余計にそう思える。彼ら/彼女らは今勤務している会社が永続するという前提で、社内政治力や上手な世渡り力を付けて長くしがみつこうなどとはまったく考えない。専門知識をつけ、技術を磨いて市場価値を高め、なんならグローバルに通用する人材を目指したいと考える人も多い。むしろ、中年期の人より意欲は高いと感じている。そうした向上意欲に溢れる人材を生暖かいが、何も得られない環境に閉じ込めておけば不安しかないだろう。若さが武器になる内に飛び出して大海を目指したいと思う気持ちはよく分かるのだ。

本稿では会社と社員の関係性について取り上げたが、これは人間関係の本質的な話に通じると思っている。すなわち、人間関係においても「この相手からは得られるものがない。」と思ったら自然に人は離れていくものである。ここでいう「得られるもの」とは必ずしも付加価値的な情報やスキルに留まらない。一緒にいて楽しいとか、安心するとか、気分が上向くといった人的魅力のパーソナリティも含まれる。会社と社員と言っても、その本質的な関係性はどこまでいっても人と人である。つまり、上司も会社も若者からみて惹きつける魅力を持つ必要性が問われているのではないだろうか。

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