新型コロナ対策本部を解散して「平時」に戻すとき

池田 信夫

感染症法では、新型コロナは新型インフルエンザ等感染症という2類以上の厳重な扱いになっているが、これが医療の逼迫をまねき、かえって死者を増やしている疑いがある。日本のコロナ死亡率は欧米に比べて格段に低いので、インフルと同じ扱いにすべきだ、とわれわれは一昨年から主張してきたが、政府は「重症化率が高いのでインフルとは違う」と言ってきた。

コロナは特措法の要件を満たさない

しかし今年に入って、コロナとインフルの重症化率は逆転した。政府のアドバイザリーボードのメンバーである大竹文雄氏と小林慶一郎氏は、12月9日に新型コロナを特措法の対象からはずすよう求める意見書を出した。特措法の第15条は、

内閣総理大臣は、前条の報告があったときは、当該報告に係る新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、感染症法第六条第六項第一号に掲げるインフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下であると認められる場合を除き、臨時に内閣に新型インフルエンザ等対策本部を設置するものとする。

と定めているが、次の表のようにコロナの重症化率も致死率も季節性インフルより低いからだ。これに対して厚労省は、統計を「調整中」として対応を先送りしてきたが、21日にデータを提出した。それによるとコロナの重症化率も致死率も、インフルより低いことが確認された。

政府のアドバイザリーボード資料

これに対して厚労省は「感染力などを総合的にみる必要がある」と反論しているが、そういうことは特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)には書いてない。特措法では、季節性インフルに「かかった場合の病状」を基準として対策本部を設置することになっているのだ。

これは具体的な数値で反証可能な基準であり、感染力という基準はない。強硬派は「法律の条文になくても、法の趣旨にそってやるべきだ」などと言っているが、そういう超法規的な基準を認めたら切りがない。岩本康志氏もいうように、法令に従って対策本部を解散するのが当然である。

「コロナ死者」は過大にカウントされている

感染症法上の分類は、これとは別の問題である。特措法の対象から除外すると夜間営業禁止や水際対策などの行動制限はできなくなるが、原則入院や公費負担などの規定は残る。

上の表で奇妙なのは、コロナの重症化率と致死率がほとんど同じだということだ。「調整」前は致死率のほうが高かったが、コロナで重症にならないでいきなり死亡する患者が、そう多いとは思えない。コロナ肺炎に使われる人工呼吸器の実施率も、1割以下である。

これはコロナ以外の基礎疾患で死亡した人が(PCR陽性だというだけで)コロナ死者に過大にカウントされている疑いが強い。こういう患者にコロナ肺炎の治療をすることは無意味であり、医療資源の浪費である。

コロナ死者の統計は信用できないが、超過死亡は動かせない事実である。9月の超過死亡数は8874人で、今年の合計は10万人を超えて史上最多になる見通しだ。これがワクチンの影響かどうかは不明だが、インフルと同じように接種は本人の選択にまかせてもいいだろう。

3割負担で「平時」の対策に

ここで重要なのは2類か5類かではなく、検査や治療が公費負担かどうかである。エボラ出血熱のような「死の病」は、強制的に入院させて無料で治療することが合理的だが、ありふれた風邪を無料にすると、軽症患者が病床を占拠し、医療を逼迫させる。

だからコロナも3割負担にし、自分の症状に合う治療を自己選択させるべきだ。無料なら軽症でも救急車を呼ぶが、有料なら病院に行くかどうかを自分で判断するだろう。オミクロンでは自宅療養していた高齢者の基礎疾患が悪化したケースが多いので、開業医が日常的にみられるようにしたほうがいい。

「今でも現場は弾力的に運用しているので5類と同じだ」という人もいるが、それならなおさら2類にしておく理由がない。だが巨額の補助金が病院の既得権になったため、日本医師会が抵抗している。必要なら別の分類をつくり、ワクチン接種は無料にするなどの対応をとってもいい。大事なことは患者にコスト意識をもたせ、適度な治療を選択させることである。