金融変革の決め手はフィンテックよりも人間力だ

金融庁は、金融機関に対して、顧客本位の業務運営の徹底を求めているわけだが、金融機関として、顧客本位であるためには、金融庁のいうように、「顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握」しなければならない。しかし、それを直接的な顧客への質問によって達成することは困難である。

困難なのは、第一に、顧客の側に充てる実益がないこと、第二に、金融機関は、実は、それほど信頼されておらず、顧客は、答えることで営業攻勢を受けないか、警戒するからである。実際には、愚劣にも、顧客の資産状況等をあからさまに聞く金融機関があるが、嘘の答えを得るなり、顰蹙を買うなりしているだけなのである。

そこで、フィンテックが重要になる。金融機関が対面で能動的に質問すると、警戒して答えない顧客でも、金融機関が単にシステムを提供するだけで受動的な立場にとどまる限り、能動的に情報を入力する場合があると予想されるのである。

また、「顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ」は、別に入手可能な全く異なる多様で多量なデータを用いて、ある程度は推測推計できると予想される。例えば、消費が所得の関数なら、消費から所得が推計可能だろうというわけである。

しかし、金融のように生活に密着した領域では、人間にしかできないことが多い。フィンテックにできることを全てフィンテックにさせるとき、逆に、人間にしかできないことが明瞭になり、そこに人間の無限の成長の可能性が開かれてくる。

123RF

人間にしかできないことは何か、それは顧客の心を開かせることである。資産状況等を直接に聞くことは、顧客の心を閉ざさせる。別な話題や接客態度から顧客の心が開いてきて、資産状況等にたどり着く、その過程に、金融機関に働く人間の能力の発現がある。金融機関の経営者の仕事は、そうした人間力が育つ風土と文化を醸成することにつきるわけだ。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行