年頭所感

明けましておめでとう御座います。

吉例に従い、今年の年相を干支により考察しましょう。

今年の干支は「癸(みずのと)卯(う)」、音読みでは「キボウ」です。

まず癸ですが、甲から始まる十干(じっかん)の十番目、つまり最後です。だから、この癸の字を含む年は、転換期となることが多い年であり、甲から始まる十年間の締め括りの年とも言えるのです。

字義としても「めぐる」「ひとまわりする」「回転する」「転換する」があります。

癸の甲骨・金文等の古代字形を見ると矢尻を四方に突き出したような形をしており、「兵(ぶき)なり。三鋒(ぽう)矛(ほこ)なり」といった解釈もあります。四つの刃がぐるっと一巡すれば周辺はなぎ倒されます。世の中が次の世に移るために前の十年の世を力ずくで終わらせるということです。

他の代表的な「癸」の字義の解釈として、例えば後漢の許慎は『説文』で「水四方より地中に流入する形」としています。つまり「癸」は冬枯れの季節に、それまで見えなかった四方の水路がはっきりと見えてくる様をかたどった文字であるとしています。さらに「冬時、水土平にして揆度(きたく)すべきなり」と説明しています。見通しがよくなり、測量に便利ということで、癸には「はかる」という意があります。測る時にはどうしても人の手が加わりますから、手偏をつけて「揆」という同一の義に用いられる字が生まれてきました。揆度(全体を推し量る)、揆策(計画)といった熟語も出来てきました。また「はかる」にははかる標準や原則がなければならないから「道」とか「則(のり)」とかいった意味が出てきます。

こうした「癸」の字義から今年は次の新しい十年の飛躍に向けた布石を打っていく年です。従って、万事筋道を立てて熟慮し、それに則って計画を立ててテキパキと処理していかなければなりません。筋道を逸脱し、方針が曖昧だと人々の不平・不満が爆発して、混乱をきたし、「一揆」が起きることもあります。

他方、「卯」の字義ですが『説文』によると音通で冒(ぼう)と読み「万物地を冒(おか)して出ず。門を開くに象(かたど)る」とあります。新しい世界が開けていく年と見ることが出来ます。また卯には『史記』律書によると茂る意があります。卯は茆(ぼう)で茅(かや)や薄(すすき)等の茂みを表しています。これは良い意味では繁茂・繁栄ですが、悪くすると紛糾し、動きがとれなくなります。だから「卯」の年には茅や雑草の茂った未開墾地を思い切って開拓していかねばならないのです。

次に古代中国の自然哲学である陰陽五行説で見ましょう。

「癸」は「水の陰」で冬の小寒といったことを表しています。「卯」は「木の陰」に分類され、春の兆しが訪れたことを表しています。「癸」と「卯」は「水生木」の「相生」で補完し生かす関係です。従って、冬の寒気が緩み、萌芽を促すといったことを表しているのです。

以上統合すると、癸卯の年は、原理・原則を弁えて、緻密な企画・政策を立てて万事正しく筋を通して同士と力を合わせどんどん実行して行くと繁栄に向うが、これを誤ると事柄が紛糾して動乱を招くという意味を含んでいます。そのため一旦やり方を間違うとなにもかもが壊れて、ご破算にもなりかねない年である。しかも、来年は、旧体制が破れて新たな激動が始まる「甲辰」の年へと移っていくことになります。日本内外の政治・経済情勢は現在すでに混迷を極め、実に難局にあるのです。

次に過去の癸卯の年にどんな事があったか史実から特徴的なものを拾ってみましょう。

四二〇年前(一六〇三年)徳川家康が征夷大将軍に任じられ、江戸に幕府を開く。
一八〇年前(一八四三年)水野忠邦の行った天保の改革も激しい反対にあって頓挫した。内外物情騒然たる年。
一二〇年前(一九〇三年)日露戦争前年で、緊迫した状況。
・六〇年前(一九六三年)
一月 手塚治虫原作の漫画『鉄腕アトム』がTVアニメとして放送を開始。毎週連続で放送するTVアニメの先駆けとなった。
三月 吉展ちゃん誘拐殺人事件。
四月 日本初の横断歩道橋設置。
七月 経済企画庁が発表した経済白書で「先進国への道」がタイトルとして掲げられた。
七月 OECD理事会、日本加盟を承認。
七月 日本初の高速道路「名神高速道路」が開通。
八月 人権差別撤廃を訴えワシントン大行進。
九月 米国の国際収支改善策の一つとした新税(金利平衡税)により日経平均暴落。
一〇月 日本で最初の原子力発電が成功。以後毎年一〇月二六日は原子力の日とされた。
一一月 大量のニセ千円札が見つかったのがもとで、伊藤博文肖像の新千円札発行。
一一月 三池炭鉱で爆発事故。死者四百五十八人。
一一月 ケネディ米大統領、テキサス州ダラスで暗殺される。
一二月 プロレスラーの力道山刺傷され一五日に三九歳で死去。

前記のように六〇年前の癸卯の年には痛ましい事件が次々と起こる中、翌年の東京オリンピックを控え戦後の高度成長期の真っただ中で相次ぐインフラの整備や施設の建設がなされました。日本は実に先進国への道に向け、国際的地位の向上と開放体制への移行を着々と推進したのです。

こうして癸卯の字義・五行・史実を見てきますと、前記したような今年の年相が浮かび上がってきます。つまり、干支学的には国内外の政治・経済への取組を一歩間違えると難局とも言える状況に陥る可能性が高いのです。

SBIグループはこうしたことに十分に留意し左記のような形で更なる事業の成長発展に向け挑戦して行かなければなりません。

第一に、一年単位で物を考えず、次の新たな十年の成長に向けた布石を打つといったような少し長めのスパンで事業を再構築する必要があります。

例えば、SBI証券での日本株オンライン取引の手数料ゼロ化により利益の減少をビジネスラインを多角化してきたし、顧客基盤が拡大するから大丈夫というのではなく、より具体的にどうやって失う部分を埋め、かつ新たな収益源の拡大でより大きなプラスを生み出すかを数字で表わした立案・計画を作り、それを各プロジェクトチームが果敢に断行し、その上で、目標を明確化し更にその達成度を明示しなければなりません。

そうやりながら計画を常にブラッシュアップしていくのです。混迷の時代にはそれに対応するべく、より具体的かつ緻密な計画とそれを踏まえた迅速な行動が不可欠なのです。

第二に、「卯」の字義にあるよう未開墾地を思い切って開拓していかなければならないということですが、経営戦略論に換言すればブルーオーシャン戦略を目指すということです。我々SBIグループはデジタル・スペースでのブランディングを強化する為の広報活動を今年からスタートすべく準備してきました。「金融を核に金融を超える」ですから、様々な分野に細心の注意を払いつつ挑戦しましょう。

最後に、原理・原則を踏まえつつ、筋を通すということでは、先ずやるべきは、SBIグループの創業時に制定した五つのコーポレートミッションに立ち返り、それらと自分の取り組んでいるプロジェクトとの一貫性や整合性に付き吟味することです。

以上、今年をこれからの十年の飛躍の年に向けた第一歩にしましょう。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2023年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。