米下院議長、未だ選出できず4回目に臨む

米下院共和党主流派にとって、2023年の幕開けは悪夢も同然でしょう。

1月3日に3回の投票を経ても、共和党下院で院内総務を務めるケビン・マッカーシー氏を選出できず。共和党保守強硬派と主流派の深い溝を如実に表す結果となりました。3回目に至っては、2回目までマッカーシー氏に投票したバイロン・ドナルズ議員(フロリダ州)が共和党の別候補であるジム・ジョーダン議員(オハイオ州)に寝返るお粗末ぶりに、思わず目を背けたくなります。

チャート:1月3日、1回目の投票を経て共和党はマッカーシー氏とジョーダン氏に分裂、3回目ではマッカーシー氏が1人の共和党議員の支持を失う羽目に

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(作成:My Big Apple NY)

下院議長選出に向けた投票は1月4日の正午に、4回目を行う予定です。

ちなみに、1回目の投票後にジョーダン氏を推薦したのはマット・ゲーツ議員(フロリダ州)で、「下院議長の職を求めていない人物こそ、恐らくふさわしいのではないか・・・自分自身の株を十年以上もかけて売ったような人物ではなく」と説明していました。院内幹事で共和党下院ナンバー2のスティーブ・スカリス氏(ルイジアナ州)にも難色を示す保守強硬派の共和党議員が存在するだけに、暗中模索の状況が続きます。

こちらでお伝えしたように、下院議長が選出されなければ開会できないどころか、新人議員の就任宣誓も行えず下院は機能不全に陥ってしまいますが、現時点ではマッカーシー氏に収れんするよう、粘り強く交渉するしかないもようです。

共和党内の内部分裂をよそに、民主党下院はハキーム・ジェフリーズ院内総務の下、3回連続で212議席と同党全議員が投票し一枚岩での結束をみせつけました。ただし、共和党議員6名がジェフリーズ氏に投票する可能性は極めて低いと言えます。

振り返れば、僅差の多数派獲得は少数派が存在感をみせつける格好の機会となり、諸刃の剣です。2021~22年の米上院では議席数が50で拮抗するなか、中道派のジョー・マンチン議員(ウエストバージニア州)やキルスティン・シネマ議員(2022年12月9日に民主党から離党)などが大暴れしましたよね。バイデン政権肝煎りの景気刺激策の内容が修正され、子育て支援・気候変動対策支援などを盛り込んだ1.75兆ドル相当の”より良い再建法案”が葬られるなど、たった数人、特にマンチン議員の徹底抗戦により、財政調整措置を駆使しながら過半数の可決にすら交渉を強いられました。

党内対立の舞台は2023年、中間選挙で下院を共和党が奪回した後に同党に移ったと言えるでしょう。多くのメディアでは、2022年の中間選挙でトランプ前大統領の支持を受けた候補者、特に2020年の米大統領選の結果を否定した候補者ディナイアーが大敗したと伝えていましたが、蓋を開けてみると前者の勝率は83%、後者は62%。上院を中心に激戦州で大敗したものの、共和党地盤では確固たる勝利をつかんでいたのです。だからこそトランプ支持者や保守強硬派は下院での多数派奪回(共和党:222、民主党:212、過半数:218)につき自分達のお陰という自負があり、主流派に牙を剝いたわけですね。結果的に、無党派層の信頼を失うリスクと引き換えになるわけですが・・。

非常事態に、トランプ氏も介入しトゥルース・ソーシャルにて「共和党の偉大なる下院議員全員が、ケビン(マッカーシー氏)に投票する時だ」と呼び掛けますが、果たして一致団結できるのか。

少なくとも、2023年度予算(23年9月末まで)が米上下院で可決していたことは不幸中の幸いでした。

ケビン・マッカーシー氏(向かって左)Wikipediaより 編集部


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年1月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。