フィデューシャリー・デューティーの確約が金融機関を変える

金融機関として、金融庁のいう顧客本位を徹底させるためには、例えば、資産運用の提案においては、顧客の資産状況、経験や知識、運用目的などを正確に把握する必要があるが、しかし、それを直接的な顧客への質問によって達成することは困難である。なぜなら、顧客は、実は、金融機関を少しも信頼しておらず、自分の利益になるような提案を期待することなく、逆に、質問に答えれば営業攻勢を受けると警戒する可能性が高いからである。

そこで、顧客本位を徹底させる前提として、金融機関は、顧客からの信頼と信用を得なければならないが、更に、その前提として、顧客から信頼され、信用されているとの錯覚から目覚めなくてはならない。なぜなら、信頼され、信用されているとの錯覚のもとでは、金融機関は、顧客に質問し続けて、正しくない情報を得て、正しくない提案をし続けることで、結局は、顧客の真の利益に反する結果を生み続けるからである。

123RF

では、どうすれば、錯覚から目覚めるか。金融庁は、「見える化」を進めることで、顧客からの評価が金融機関を変えると考えている。つまり、勘違いをしている金融機関が顧客から見放されることで、金融界全体としての変革が進むというわけである。

しかし、この金融庁の施策の前提には、真の顧客本位を徹底している金融機関の姿も「見える化」されていることがある。つまり、良いものも、悪いものも「見える化」されていれば、顧客は、悪いものを捨て、良いものを選べるが、良いものがなければ、「見える化」は意味をなさないのである。故に、金融庁は、ベストプラクティスの普及といって、良いものの周知を図ろうとしているが、良いものは出てきていないのが現状である。

実は、真の顧客本位は、考え方としては、簡単である。顧客に対して、正しい情報を提供すれば、より優れたサービスを受けられるという保証を行えばいいのである。最善で最適な治療を受けるために、患者が何ひとつ隠すことなく症状の全てを医師に申告するのと同じように、最善で最適なサービスの提供を金融機関が保証すれば、顧客は全ての情報を提供するのである。

この最善で最適なサービスを提供することの保証こそ、フィデューシャリー・デューティーの要諦なのである。フィデューシャリー・デューティーとは、煎じ詰めれば、専らに顧客の利益のために最善を尽くす高度な義務ということであって、顧客本位原則の主旨は、この義務の履行を金融機関が顧客に確約する旨を宣言することにあるわけだ。

顧客に確約したことは確実に履行されなければならない、それができない金融機関は、当然至極のこととして、顧客が離反していくことで淘汰される、いや、淘汰されなくてはならない、淘汰されないなら淘汰される環境を整備する、これが金融行政の真の課題なのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行