岸田首相の目玉プランである「資産所得倍増プラン」はなんとなく聞いたことがある人が多いと思いますが、行動に移した方はどれぐらいいらっしゃるのでしょうか?この資産所得倍増プラン、少し、時間が経ったので一歩下がって考えてみたいと思います。
まず、この言葉をもう一度よく考えてみましょう。「資産所得倍増」です。つまり我々が持っている資産=貯金/投資/不動産などからの所得である値上がり益/配当/金利を2倍にするということです。その背景は家計の貯蓄が2000兆円あるとされる中で有価証券は300兆円前後(統計によりバラツキあり)で欧米に比べてその比率が少なく、多くは金利がほぼつかない普通預金や定期預金に寝ているからそれを叩き起こす、というのが平たい説明だと思います。
もちろん、その背景には老後の生活に自助努力という発想を取り込むことがあるかと思います。今までは年金で悠々自適の暮らしなどという人もいました。しかし、余命が長くなる中でリタイア後の人生をどう過ごすか、という中で年金だけで30年も暮らすのは現実性が乏しくなってきたことはあるでしょう。またサラリーマンは給与天引きで2階建て3階建ての年金システムがありますが、自営業者はそれがほぼありません。国民年金なら満額で月々65000円程度で、これではどうにもならないという現実もあるのです。
そこで政府は様々なプランを提示しているわけです。NISAの恒久化とか、iDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)の拡充などがプランされ、更にマネーの教育も進める計画になっています。マネーの教育の背景は国民の7割が投資に否定的でその理由は、損をするかもしれない(4割)、仕組みややり方がわからない(3割)などとなっています。
さて、これについてどう考えるか、です。個人的意見を先に述べるとこのプランは低調な成果に終わると思います。理由は少子化対策と同じで本質をついていないのです。損をするかもしれないと思わせる人たちを逆転させる動機に乏しいのです。いくらNISAが恒久化されようがiDeCoが拡充しようがそれで損するかもしれないという心理が逆転するわけじゃないのです。
ズバリ、一言。
投資をして儲かれば誰もがやるようになる!
それだけの話です。別に仕組みの問題じゃないのです。ご記憶にあるかと思いますが、ビットコイン狂騒曲の際には多くの「億り人」が生まれ20代の若い会社員の女性がクレジットカードでビットコインを一生懸命買っていたという逸話もありました。今から見れば1929年のNY株式市場の大暴落直前や1989年の日本のバブル崩壊前夜の街中が踊り狂っていた時と同じで、儲かるとなればマネーは勝手に投資にシフトするのです。
投資にネガティブな高齢者の方々の多くはバブル期の投資が塩漬けになったことがトラウマになったとされます。しかし、安倍政権時代に株価が上昇し、塩漬け株の流動化が出来て高級時計など高額商品が飛ぶように売れたという報道も記憶にあるかと思います。これも結局、儲けが出ればマネーはそちらに必然的に引っ張られるのです。
言い換えれば普通預金や利息がほとんどつかない定期預金にお金を入れている人たちは「そういうチャンスを待っている」という意味も当然あり、そのタイミングがいつまでたってもやってこないとも言えるのでしょう。
ではタイミングは来るのか、そしてそこにうまく乗れるのか、です。
あくまでも日本の株式市場に限定した話をします。日本企業の株価は上がるのでしょうか?バブルの頃はどの銘柄も上がったのです。だから何を選んでもさほど外さなかったのです。今、日本は成熟しています。となればどの業種でもどの銘柄でも大丈夫という訳がないのです。
次に仮に素晴らしい銘柄を見つけた場合のケースです。わかりやすく一例を出しましょう。2022年に最も熱かった銘柄と言えば半導体関連のレーザーテック社で異論はないはずです。2019年年初の頃は株価は1300円程度、2020年年初が5500円程度、2021年年初が14000円程度、2022年初は35000円になります。3年で27倍です。が、2022年は崩れるのです。10月には14000円台と大暴落、その後、ひと月半で29000円と2倍になり、現在は再び下落し、23000円程度となっています。
半導体製造メーカーは確かに日本のお家芸的なところがありますが、それにしてもこの株価の変動では初心者は惑わされるだけなのです。私の想像では70%の方は投資をしてもよいけれどある程度安定的に儲かってくれればよいと考えています。この意味は配当金が2-3%/年つき、元本割れせず、株価がゆっくりでも右肩上がりの成長をする会社です。
そんな会社があるのでしょうか?例えば36年間増収増益のニトリの株価は2018年まで業績と連動し、右肩上がりだったのですが、それ以降は激しく上下しています。そして現在も2018年の水準を回復できません。22年連続増益のGMOも株価は近年、3-40%の幅で振れています。つまり、どれだけ良い会社でも株価は素直ではないのです。では一般投資家がそんなじゃじゃ馬を乗りこなせるのか、これが疑問なのです。
一昨年、日本の取引先銀行の営業攻勢に負けて法人を通じて投資信託を購入しました。元本割れしない仕組みでした。初めの数か月は担当から「育っています、今、〇〇円です」といちいちメールが来ていたのにしばらくしたら来なくなります。気にもしていなかった昨年のある時、「すみません。元本割れになりそうなので清算となりました」と。1年で500万円に対して9000円だけリターンがありました。利回りにして0.2%以下。それぐらい日本の株式市場は難しいのです。儲かりにくい、と言ったらよいでしょう。
いや、儲ける方法はあります。十分勉強して、どん欲にならず、機械のように売買を繰り返せば爆笑できなくてもかなり笑えるぐらいのリターンはほぼ確実に取れます。が、そんなことできる人は1000人に1人ぐらいなのです。国家が成長し、人口が増え、優秀な従業員が確保でき、企業が開発に勤しむ土壌がない限り、国民に資産所得倍増プランなんてぶち上げても無理なのです。
一番簡単な方法は日銀が政策金利を上げたらいいと思います。利息が2倍になればそれでも資産所得倍増達成です。考え方一つですけどね。
日本の株式市場が長期的に光が当たると考えている海外投資家や海外ファンドマネージャーはほとんどいないと思います。個別銘柄はありますが、日本全体や産業全体でみればその魅力はどんより曇っています。当地でアジア株の投資信託の目論見を見ても日本株の組み入れは少ないのです。プロの目はシビアなのです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月10日の記事より転載させていただきました。