なぜ18歳成人になり、20歳だけの成人式が全国で行われたのか
今年も成人の日を終え、筆者の地元、市川市でも「二十歳の集い(成人式)」なるものが成人の日の前日1月8日に実施された。
市川市の公式サイトを見ると、民法の改正に伴い、2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられたが、市川市では、2022年度以降の成人式についても、現行どおり20歳を対象に開催することが説明されている。
こうした18歳成人になったにもかかわらず、実質的な成人式が20歳を対象として実施された事例は、市川市に限ったことではなく、全国に1,718市町村がある中、3つの自治体を除いたほとんどの自治体で同様に20歳を対象にして実施された。
確かに成人式はこれまで20歳で実施してきた。急に18歳からに変更と言われて戸惑う方々もいるのかもしれない。しかし、この問題、今年、20歳を対象にしてしまったことにより、新成人を祝ってもらえなかった18歳と19歳を発生させることになった。
今年3学年を一緒に成人式を実施しないことを決めた自治体は、今後どこかの年に複数学年で実施することは考えられないだろう。恐らく市川市と同様にずっと20歳を対象にやっていくことになる。つまり、このことで、来年からは「新成人が1人も出ない成人式」が全国中で実施されることになるのだが、皆さんは、このことに違和感は感じないのだろうか?
「新成人が1人も出ない成人式」が全国中で行われる理由とは
市川市では、この決定により、来年も20歳を対象に実施することになっているようだ。細かいところでは、次年度予算も確定しないうちから次年度実施することを決めているところには、単年度主義や予算編成権、議会の予算決定権をどう考えているのだろうか?などと疑問も残るが、そこの議論はまたの機会にしよう。
市川市教育委員会による20歳を対象とする理由を見ると、以下のようになっている。
- 18歳を対象とした場合、受験や就職準備の時期と重なり、式典に参加できない方が増えることが懸念される。また、同様の理由で、新成人を中心とした実行委員による式典の企画運営が困難となるため。
- 初年度は18歳、19歳、20歳の3年齢が対象となることから、参加者等に大きな混乱が生じる恐れがあるため。
とされている。
非常にお粗末な理由だとは思うが、それぞれの理由について考えてみる。
まず、1つ目の理由についてだが、成人式については、成人の日に行うことが一般的ではあるが、地域によっては、夏休みなどの帰省時期に合わせて実施されるような地域もある。
市川市の理由は、18歳を対象に成人式を行ったとしても、成人の日に合わせて実施することが前提に「できない理由」が示されているだけであり、できないので「新成人」でない世代を対象に行おうというのは、ちょっと一足飛びな気がしてならない。
ちなみに冒頭に書いたように、今年の市川市の「二十歳の集い(成人式)」は1月8日に実施されており、そもそも成人の日に行われていなかったりする。
後半の実行委員会の議論も的はずれである。なぜこれまで教育委員会が実施してきた実行委員会形式をこれまでと同様のスケジュールで実施することを前提とすることしか考えないのだろうか。
行政は本来、それぞれの政策・施策・事務事業の全てに政策目的があり、その目的に合わせて、それぞれをより政策目的が果たされる形で検討・実施されていかなければならない。しかし一方で、多くの自治体では、こうした政策形成が殆どできず、前例主義で昨年やったことを今年も同じようにと物事を考えようともせずに継続したりするものだが、そうした悪い意味での「お役所仕事」の象徴的な「できない理由」の羅列でしかない。
2つめの理由は、当然のことながら移行期の今年に限ったものであり、さらに言えば、来年からは新成人の対象でない人たちだけを対象にすることになる。「今年できない理由」を並べたことで、今後、説明もつかない会を継続して実施していかなければならなくなったように感じる。
その意味でも今年の検討の際には、今後長期的に実施しなければならない成人式を「2022年度以降の成人式についても、現行どおり20歳を対象に開催する」などと安易に決めていることには違和感しかない。
誰のための「成人の日」と、「成人式」なのだろうか
ここで念の為に言っておくが、私個人として、「新成人」を祝う気がないということではなく、個人的に振り袖を着ないでもいいのではないかと言っているわけでもない。むしろ今年も今後も、この国や地域のために、その未来を担う「新成人」をしっかりと祝い、むしろ祝うだけではない価値あるものにするべきだと思っている。
我が家でも昨年、長女が20歳で成人を迎え、振り袖を着せて写真撮影なども行った、来年には次女が18歳で成人を迎える。親として、どのタイミングで振り袖を着せたいや、成人をこのタイミングで祝いたいは、それぞれに考えがあることだと思う。
ただ、そのことと、行政が市民の税金でイベントを実施するということでは、意味が大きく異る。税金を使って実施するからには、政策目的と効果を明確に説明する責任があるからだ。
ちなみに市川市の公式サイトでは、「成人(大人)になるあなたへ」として、「成人の日」や「成人式」についての説明が書かれている。
「成人の日」は、1948年に制定された「国民の祝日に関する法律」に、「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます日」と規定されています。年の始まりとともに、全国各地で「成人式」が執り行われ、新成人の門出が祝われています。かつての「元服の儀」が正月に最も多く行われていたことや、松の内の日を選んで、当初1月15日に定められましたが、1998年の法改正により、一月の第二月曜日に改められました。この「成人式」は、終戦直後、多くの人が心に傷を負うなかで、未来を担う若者たちに希望を持ってもらうために埼玉県蕨町(現在の蕨市)で企画された「青年祭」が由来であるとされています。市川市では、「新成人の門出を祝い、大人の自覚を促す」という趣旨のもと、昭和31年より成人式「新成人の集い」を開催しています。
とされている。
このどれを読んでも成人の日は新成人を祝うものであり、それ以外を祝うとすることの説明はまったく成り立たない。
憤りを感じるのは大きく4つの点
個人的に、今回の問題で憤りを感じているのは大きく4つだ。
1つ目は、18歳選挙権から18歳成人まで、自分たちは15年から20年かけて、この国の未来を大きく変えていこうと働きかけてきた。このことから考えれば、今回の「成人の日」、この国で記念すべき「18歳成人」による初めての成人である「18歳の新成人」や「19歳の新成人」は、むしろ、これまでの新成人以上に盛大に祝ってもらっても良かったのではないでだろうか。
にもかかわらず、成人式を20歳だけでの実施をし、多くの自治体は他の形でさえこの「18歳の新成人」や「19歳の新成人」を祝おうとはしなかったようにさえ見える。
今回、「18歳成人下における20歳だけの成人式問題」とも言えるこの課題を家族と話した際、末っ子の中学生は「だったらなぜ18歳を成人にしたのか」と言った。まさにそれを伝えることが、国の役割であり、自治体の役割だったのではないだろうか。
2つ目は、この成人式の対象を18歳からにするのか20歳からにするのか、移行期の今年の成人式はどのような形で実施するのかを決める際、どれだけ当事者の話が聞けたのだろうか。
例えば、市川市がこだわる実行委員会形式の成人式。当事者である新成人の意見を入れて企画するというコンセプトが、どれだけ空虚で単なるパフォーマンスでしかないことが分かる。大人たちが自分たちに都合のいい範囲でしか、新成人の若者たちの意見を効く気がないことの象徴だと感じる。
3つ目は、今回の民法等の改正により、一連の18歳成人により社会の仕組みは大きく変わった。法令改正や施行までの期間で官民で検討して準備してきたことではあるが、消費者問題など様々な問題が発生しないかと懸念する方などもいる状況である。
「成人(大人)になるあなたへ」と題した市川市の公式サイトでも、消費者庁や千葉県、消費者センター、銀行、国民生活センターなどからの注意冊子が添付されている。こうしたことから考えれば、むしろ注意を伝えたり啓発しなければならなかったのは、従来通りの20歳の方々ではなく、むしろ制度改正によって影響の出る18歳と19歳だったのではないだろうか。
4つ目が、EBPM(Evidence Based Policy Making =証拠に基づく政策立案)の必要性などが求められる時代において、これからの行政は、アウトカム(政策の成果・目的)に基づいての実施が大前提になり、これまで実施してきた政策・施策・事務事業についても、その必要性と効果によって見直していく必要性があるにもかかわらず、この転換期に自らの役割と考えることを放棄し、「できない理由」だけをならべ、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と護送船団方式で前例踏襲を決め、意味のない政策を全国で今後継続して実施することを決めたことだ。
18・19歳の成人式にも挑戦した国東市・伊賀市・美郷町を称えたい
NHKやFNNなどのメディアの調べでは、今回、成人式に18歳を対象とするとした自治体は、大分県国東市と三重県伊賀市、宮崎県美郷町の3自治体体だと言われる。
いずれも時期をずらして式典を行う予定とのことで、国東市は、「成人としての自覚と責任を早めに促すため」として18歳での実施を決め、5月に式典を行う予定で、従来はスポーツ選手などによる講演だったが、18歳になれば親の同意なく契約ができるようになったことを踏まえ、消費者トラブルなどへの注意を促すものにするとのことだ。
伊賀市では、1月8日に「20歳の成人式」が開かれ、3月に「19歳の成人式」、5月に「18歳の成人式」を実施するそうだ。
これらの自治体を見れば、実施しようと思えば、色んな選択肢が考えられたことが分かる。
どれが正解かは、それぞれの自治体が決めることだと思うが、思考を諦めた自治体に未来はない。
今回、ほとんどの自治体が20歳の成人式を決めた中、結果的になのかもしれないが、こうして「18歳成人」を受けて18歳と19歳の新成人に対しても祝おうと、工夫をこらして実施しようとしていることを素直に称えたいと思う。
是非これをキッカケに、若者参画を進めるリーディング自治体をめざし、今後さらに工夫と努力を続けていってもらいたいと思う。
「18歳, 19歳の若者の自己決定権を尊重するものであり, その積極的な社会参加を促すこと」はどこへ・・・
民法の改正に伴い、成年年齢を18歳に引き下げた理由について、法務省は、
近年,憲法改正国民投票の投票権年齢や,公職選挙法の選挙権年齢などが18歳と定められ,国政上の重要な事項の判断に関して,18歳,19歳の方を大人として扱うという政策が進められてきました。こうした政策を踏まえ,市民生活に関する基本法である民法においても,18歳以上の人を大人として取り扱うのが適当ではないかという議論がされるようになりました。世界的にも,成年年齢を18歳とするのが主流です。成年年齢を18歳に引き下げることは,18歳,19歳の若者の自己決定権を尊重するものであり,その積極的な社会参加を促すことになると考えられます。
と書かれている。
各自治体は今一度、何のために成人年齢を18歳としたのか、成人の日とは何のための日だったのか、成人式は何のために実施されていたのかという視点に立って、何をどうすべきかを考える必要があるのではないだろうか。
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