日本国憲法の統治機構は、三権分立を採用している。
立法権は国会に、行政権は内閣に、そして司法権は裁判所に属するとしている。
三権分立が採用された目的は、強大な国家権力を一つに集中させると国民の権利が侵害される恐れが高くなり憲法の最高価値である「個人の尊重」が図られなくなるからだ。
絶対王政時代の国王のように、三権すべてを持っていれば、好き勝手に国民を逮捕し(行政権)、自分の好みで法律を定め(立法権)、処罰を下す(司法権)ができてしまう。
昔のドラマの大岡越前で登場する奉行所も、三権すべてを持っていたイメージがある。
また、日本の統治機構が、国会、内閣、裁判所に分けられているのは、民主主義というプロセスを実現し、憲法の三大原理である国民主権を実現する意味もある。
国民主権の「主権」とは「国政に対する最終的決定権」だ。
主権者である国民の権利義務に関する法律をつくることができるのは、主権者である国民の代表者で構成された国会だけだ。
憲法41条は「国会は唯一の立法機関」であると規定している。
主権者である国民から民主主義プロセスで選ばれた国会だけが法律をつくることができる。
極論だが、10キロのスピードオーバーをしたら懲役5年に処するという法律もつくることができる。
このように、国民の権利義務にダイレクトに影響を及ぼす法律は、主権者である国民が選んだ国会議員で構成される国会でしかつくることはできない。
憲法 65 条は「行政権は内閣に属する」と規定している。
行政権の定義としては、「国家作用から立法権と司法権を除いたものすべて」という行政控除説が通説だ。
しかし、行政の最も重要な役割は国会でつくられた法律を執行することだ。
行政権の主たる目的は国会で作られた法律を執行することだ。
しかも忠実に執行しなければならない。
「この法律は気に入らないから執行しない」という不作為は許されない。
先の例だと、「制限速度を10キロオーバーしたら5年以上の懲役に処する」という法律ができたらその法律を忠実に執行する義務がある。
警察も行政権のひとつなので、法律を忠実に執行して制限速度を10キロオーバーした人たちを逮捕しなければならない。
行政法の最高の理念が「法律による行政の原理」だというのは、このような趣旨だ。
憲法76条は「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定されている。
司法権の定義は「具体的争訟について法律を適用することによりこれを解決する国家作用」だ。
簡単に言ってしまえば、持ち込まれたトラブルを国会が作った法律で解決するというものと言える。
行政権と同様、法律に縛られるが、行政権との違いは、行政権が能動的に法律を執行するのに対し、司法権は持ち込まれたトラブルを受動的に解決するという点だ。
持ち込まれてもいない紛争に裁判所が能動的に解決することはできない。
ドラマでよくある刑事事件も、検察官が「被告人は殺人を犯したから死刑の判決を求める」というふうに裁判所に起訴するところから司法作用が始まる。
検察官が裁判所に持ち込まない、つまり不起訴処分にしてしまえば裁判は開始されない。
このように司法権は常に受動的な国家作用だ。
行政権は国会が作った法律を能動的に執行するのに対し、司法権は、持ち込まれたトラブルを国会が作った法律を用いて解決するという受動的なものだ。
重要なことは、行政権も司法権も国会が作った法律に縛られるということだ。
例外的に、司法権には法律が憲法に違反するかどうかを審査する権限があるが・・・。
要するに、以下の流れのようになる。
- 主権者である我々国民が選挙で代表者たる国会議員を選ぶ。
- 我々の代表者である国会議員で構成された国会だけが法律を作る。
- 行政権は作られた法律を忠実に執行する。
- 司法権は、持ち込まれたトラブルを法律を適用して解決する。
これが憲法上の「民主的プロセス」だ。
この「民主的プロセス」を通して、我々国民は「国政に対する最終的決定権」を行使することができる。
憲法の三大原理である「国民主権」が実現される。
とはいえ、憲法改正のような重大案件は代表者である国会議員に一任はできない。
最終的には国民の直接投票で決められます。
最高裁判所裁判官の国民審査も直接投票の一種だが、今まで国民審査で落とされた裁判官は一人もいない。
このように、憲法が規定する統治機構というのは「民主的プロセス」を実現することによって我々国民が主権を行使するようにできている。
「主権者である国民」→「代表である国会議員で構成された国家が法律を作る」→「法律を能動的に執行するのが内閣」「受動的に法律で解決するのが裁判所」という流れが理解できれば、統治機構はストンと腑に落ちるように理解できる。
編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2023年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。