環境保護運動「最後の世代」の台頭:公共秩序を乱す活動家たちの実態

スウェ―デンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんが始めた運動「フライデーズ・フォー・フューチャー」は世界的な運動となり、金曜日には環境保護を訴えて抗議デモ集会が世界各地で開催されてきた。ところが、昨年後半に入ると、「グレタさんの運動では何も変わらない」として、ドイツやオーストリアで「Letzte Generation」(ラスト・ジェネレーション、最後の世代)が生まれてきた。彼らは交通道路に座り込み、手を接着剤で道路にくっつけて通行をボイコット、美術館の絵画にペンキをまき散らすなどの過激な行動を行ってきた。

道路を封鎖する環境保護活動グループ「最後の世代」(2023年1月13日、オーストリア通信(APA)のトビアス・シュタインマウアー氏撮影)

英国では「芸術が重要か、生命か」と叫び、美術館で絵画にペンキをかける環境保護活動家がいたが、ウイーンの博物館で恐竜の展示場で接着剤で手を固定して抗議、「われわれもこのままでは恐竜のように死滅していく」とアピール。同じように、美術館で有名な絵画にペンキをかけて抗議のデモンストレーション。ただし、活動家はペンキをかける場合はガラスで保存されていた絵画を選ぶ。歴史的で貴重な絵画が破損すればそれこそ大変だからだ。

ウィーンで朝の出勤時に主要な市内の道路に「最後の世代」の活動家が突然出現し、路上に座り、接着剤で手を道に固定して動かなくする。警察官が活動家を排除しようとしても動かないので接着剤を切り離して運ばなければならない。活動家たちは「気候と未来を保護すべき連邦政府は完全に失敗している」と批判し、アウトバーンで速度100km/h制限などを要求する。

環境保護活動家たちの活動に対して国内で賛否両論がある。「環境保護という目的は良くても、公共秩序を乱し、多くの人々に迷惑をかける活動は許されない」という声はやはり多い。朝のラッシュアワーの路上で環境保護を訴えるプラカードを掲げて動かない活動家に対し、1人の男性が車から降りてきて、「お前たちは何をしているのか。われわれは仕事に行くのだ」と叫び、足で活動家を蹴っ飛ばすといったシーンがニュースで放映された。環境破壊などは存在しないと日ごろ主張してきた極右政党「自由党」のウィーン市のドミニク・ネップ党首は、「道路を封鎖して動かないのならば、彼らに向かって放尿したらいい」と爆弾発言し、これまた議論を呼んだ。

ウィーンでは9日から13日の5日間で同グループの活動家たち51人が拘束された。集会法と道路交通規則、そして一部は治安警察法に基づいての対応だ。グループによると、過去1週間の活動で約1万ユーロの献金が集まったという。彼らは、「私たちは仕事に行かなければならない人々を妨害したくはない。ただ、文明が危機に瀕していることを理解してほしい。私たちは止められません」と訴えている。

ちなみに、オーストリアのネハンマー連立政権に加わる環境保護政党「緑の党」のヴェルナー・コグラー党首(副首相)とレオノーレ・ゲウェスラー環境相は「最後の世代」の活動目標には共感を持つ一方、抗議のやり方には懸念を有している。

独週刊誌シュピーゲル最新号(1月7日号)はドイツの「最後の世代」創設者の1人、ヘンニック・イェシュケ氏(22)とインタビューしていた。見出しは「われわれは今、政治的危機を生み出さなければならない」。イェシュケ氏は、「政府は環境保護を明記している憲法(ドイツの場合基本法)に違反している」と指摘、「平和的な革命を行うことが願いだ」という。

ただし、ドイツでは昨年クリスマスの時、環境保護活動家たちは不法な犯罪行為の疑いで家宅捜査を受けている。同氏によると、ドイツの「最後の世代」は50カ所の拠点を有している。ベルリンで過去、500人が警察によって一時拘束されたし、2000人弱のメンバーが不法活動をしたとして訴えられている。同氏は、「自分のような完全な献身的活動家は約80人だ」という。

ここ数年、コロナ・パンデミック、そしてウクライナ戦争と大きな問題が生じ、環境保護運動がその陰に隠れてしまった感があった。グレタさんの「フライデーズ・フォー・フューチャー」では2019年9月、100万人以上が路上で抗議デモをした。それを受け、世界各国で環境保護協定などが施行されてきた。ただ、エジプトのシャルム・エル・シェイクで昨年11月6日から開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)をみても分かるように、関係国間の利害の対立があって環境保護の進展は遅々たるものだ。それを見て「これでは何も改善されない」という危機感が環境保護グループの間に生まれ、「最後の世代」のようなメディア受けする過激な行動を展開するグループが出てきたのだろう。ただ、道路封鎖や美術館の絵画にペンキをまき散らす行動に対しては大多数の人々は批判的だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。