読解力、ありますか?「本、読めるんですね、すごいです」と言われる時代

このブログのコメント欄を拝見していて時々思うことがあるのはコメントの主張と私の主張がずれていることです。私が「Aではないかと考える」と述べているのに「ブログ主はBだと考えているようだが…」といったものもあります。コメント欄を拝見していて「あれー?」と思うわけですが、私は皆さんのご主張にとやかく上からかぶせることはあまりしたくないので何も申し上げません。他の方が気がついているのだろうという期待をしております。

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ではなぜ、読み取れないのか、いくつか理由があると思います。私のブログが以前と比べて文章が長くなったこと、平易な言い回しをしているつもりですが、わかりにくい表現も多々あるのでしょう。これは書き手である私の問題です。

一方、読み手もどれだけ一字一句をしっかり読んでいるのかといえば極端な話、タイトルだけみたとか流し読みのうえでのコメントもあるように見受けられます。そうなるとコメントとは別の自己主張に近いものになります。長い文章の場合、読み飛ばしは当然起こります。これが誤解の種であることも多いと思います。

ユーチューブを見ていると比較的「聞き飛ばし」は少ない気がします。理由は画像と耳の両方からのインプットで、印象付けが強いからだと思います。一方、文章だけですと目のチカラだけですから、文脈を読み取る能力が求められます。これが全般的に落ちているのはほぼ確実だと思います。

なぜ、読めないのか、専門家にも聞いてみたいのですが、私の実感としては集中力が維持できないのだと思います。特に若い方は結論を急ぐ傾向が非常に強くなりました。いわゆるまとめサイトで3行ぐらいでポイントをまとめたものが多くなりました。確かに事実を瞬時に知るにはとても便利なのですが、知らぬ間に読解力が落ちて行っているのです。

ヤフーニュースなどニュースサイトに掲載されているものは二極化していて、フルサイズのニュースや寄稿、コラムがあると思えば、数行のリードの部分だけ掲載されているものもあります。つまりそこに並んでいるニュースや情報のリストやクオリティ、深さ、長さ、専門性はことごとくバラバラで読み手のことをほとんど考えていません。ニュースをアップする提供者側の立場に立ったプログラムです。だから私はあまり読まなくなったのです。

皆さんのコメント欄を拝見していると司馬遼太郎を読んだという方が多いようです。私も読み込んでいます。長編を中心にだいぶ読み進んでいますが、まだまだゴールは遠いです。では、氏の一冊4-500ページの文庫を読むのにどれぐらい時間がかかるでしょうか?私は6-7時間かかります。一般の小説の5割増しぐらいの時間です。しかし、それは難解だから突っかかっているのではなく、語間に見える奥深さにエネルギーを吸い取られるのです。なので読破した後は軽い疲れすら感じるのです。

山崎豊子の作品も司馬遼太郎ほどではないにせよ読破するのに比較的時間がかかります。理由はお二人とも取材能力に長けており、持ち合わせている知識量が深く「文章が濃い」のです。にもかかわらず、当時の文章(昭和40-50年代)を当時の人は普通に読解する能力を持っていたのではないかと思うのです。この高密度の文章を読み込むには相当の読解力が必要なのです。

岸田首相が正月休みの読み物をどっさり買い込んだという報道があり、その中に「カラマーゾフの兄弟」が入っていました。本気で読むつもりなのか、あの濃密な文章を知らないで購入したのかわかりませんが、首相のような多忙な方が読める小説ではありません。

読解力を養うには集中力が必要です。ところが1時間集中して読むと相当疲れるものです。カラマーゾフなんて1時間で50ページしか進みません。それが全部で1800ページですから単純計算で36時間かかるのです。こういう重い作品は今の人は嫌います。

宮部みゆきとか東野圭吾、今野敏の作品はすーっと読めるでしょう。一気読みも可能だと思います。これは映画を見るのと同じテンポを維持できて、文章がするする頭に入ってくるような軽快さと密度の薄さがポイントなのです。

つまり同じ400ページの本でも密度の濃い書籍なら4-5時間でも読めないし、軽いものなら3時間でクリアするのです。多分、もっと早く読む方もいらっしゃると思いますが、早ければよいものではありません。作品の背景や主張をしっかり受け止めてこそ本当の読解力になるのです。

もう一つ、読解力をつけるにはアウトプットをすることです。読後に一言感想をつけておくのは大変有効です。グーグルドックに「ブックス」というところがあり、「マイライブラリー」という項があります。私は読んだ後、ここに登録しており、その際、2-3行の簡単な読後コメントを入れています。

もう一つはノンフィクション作品の場合、読みながら気になるところは本の角を折っていくのです。ペンを入れたり、付箋をつけるのもアリですが、本はどこででも読める気安さがポイント、それに対してペンや付箋を探していたら読書のテンポを一旦止めなくてはいけません。それはしたくないのでどんどん折り目をつけていくのです。するとあとで「あれ、何処に書いてあったかな?」と思い返しても直ぐに引っ張り出せるのです。

そして二度読み、三度読みはそれ以上に読解力をつけます。これは驚くべき効果があります。1年経って同じ本を読んだら「あれー、こんなこと書いてあったかね?」と思うほど字間が見えてきます。

落ちた読解力は読む癖をつけること、集中すること、読み流さないこと、アウトプットすることで養えると思います。圧倒する読書量なんて今時、流行らないかもしれませんが、将来「本、読めるんですね、すごいです」と言われる時代が来るような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月22日の記事より転載させていただきました。