失われたパナソニックの30年:迷える子羊でありつづけるその理由

今週号の日経ビジネスの特集がパナソニックです。過去、何度か同社の特集を組んできた日経ビジネス誌ですが、今回はあまりしっくりこなかったのです。なぜ、このタイミングで、数ある日本企業の中から再びパナソニックの特集を打ったのだろうと。

パナソニックHPより

こういうと関係者の方にはお叱りを受けるかもしれませんが、楠見雄規氏が社長になってから1年半を超えてきています。若干の業績改善は見られるのですが、おおっ!という改善にはつながっていません。同誌によると8つの事業会社に大幅権限委譲し、持ち株会社のような体制を作り、責任の明白化を図ることを一つの柱としました。

このやり方はワークする場合とワークしない場合があります。それぞれの事業部隊の目的や目標ははっきりします。またリーダーたちの個性は活かせる一方、企業が縦割りになりやすい弊害があります。近年の経営では企業が持てるさまざまなアイディアやノウハウを各部署から寄せ集めてかつてない新たな切り口で勝負するのが主流となりつつある中で事業部制は狭い枠組みとなる障壁を作りかねないのです。

パナソニックそもそもの歴史は日本企業の苦悩を全て代弁しているようなところがあり、企業研究の課題としては確かに注目するに値します。同社は90年代の売り上げが6兆円台に対し、2022年の売り上げは8兆円少々、この30数年間、6兆円から9兆円の間を行ったり来たりでいわゆる右肩上がりの成長性とはほぼ無縁です。また営業利益で見ると1984年の最高益5700億円台に対して22年は3500億円台で、今だ40年近く前の利益を更新できないのです。

ある意味、これほど成長しない会社も珍しいのです。ではなぜ、同社はいまでも存在しうるのでしょうか?これは私の見解ですが、昔の名前のまま出ている総合家電会社はパナソニックしかないのです。故に「まぁ、安心か」で購入する顧客が多いのだと思います。テレビ一つとってもソニーも東芝もシャープもブランドはあるけれど違う会社で作っています。だけどパナソニックは変わらないのです。変わらない故の存在価値と言ったら怒られますが、でも最終的にはそんな状態なのです。

日経ビジネスに一部家電について「指定価格」制度を取り入れていると報じています。つまり、定価であって値引きを一切しない制度です。記事ではこの効果があり、利益率が改善していると報じられています。私は申し訳ないですが、これは失敗するとみています。理由はいくつかあります。

定価制度で思い浮かべるのが書籍の定価。これは再販売価格維持制度というのがあり、定価でしか販売できない仕組みです。書店の役割は出版社に代わり、販売代行をしてもらうだけで売れ残れば返品できるので書店のリスクはありませんが、儲けのうまみはほとんどないという事業形態です。パナソニックの指定価格も全く同じで売れ残れば同社が引き取ってくれるのです。これ、家電量販店にとっておいしい話でしょうか?同社の製品を売るモチベーションはありますか?それこそ、パナソニックオンラインストアで販売すればいいだけの話になるのです。

もう一つは定価販売にすると商品の価値を売り手が一方的に決定し、消費者にその選択権がないのです。つまり非常に良い製品が出れば「パナはいいよね」になりますが、他社と変わらないなら「値引きがある〇〇社の商品を買う」という消費行動になるのです。あるいは賞味期限を過ぎた製品の価値の減価はどう対応するのでしょうか?

この方式はパナはずっと消費者の期待値より高いものを売り続けなくてはいけないのです。新製品のヒットが6-7割の打者にならねばならないのです。今時、ヒットする新製品など千三つとまでは言わないまでも100出して数品目程度です。これではワークしない、これが私の直観です。

ではパナは再生の道がないのでしょうか?私はパナの家電部門は売却してよいのではないかと思うのです。確かに同社の5割の売り上げがある同部門を売却するのは驚愕の判断だと思うのですが、パナでないとダメな商品ってない気がするのです。売却が叶わないなら株式の一部を誰かに持ってもらい、違うブラッドを入れた方がよいと思います。つまり、パナソニックの純血主義が面白みに欠けるのではないでしょうか?

私はその売却資金でもって電池なり、ブルーヨンダーを介したBtoBに特化した方がよいと思うのです。私はGE(ジェネラルエレクトリック)の株主なので同社の動きを見ながら世の中のトレンドを探っていますが、コンスーマープロダクツは正直、競争が激しすぎ、中国のように巨大な消費者層をバックに抱える市場がないと厳しいのです。なぜなら数を出してなんぼ、だからです。

東芝は会社分割が否定されました。GEは今のところ成功しています。先日、GEの分割プランで第一弾のGEヘルスケアが上場、私にも一定株数の配分がありましたが、同社の株価は新値更新を続けています。来年早々にはエネルギー部門の分割もあり、その際もまた株式分配があります。そしてGE本体の株価も着実に上がっており、企業価値は改善の方向にあります。

パナソニックの弱点はコアビジネスがない、それゆえに何の会社だかわからない、これが私の答えです。その思想の背景は関西人独特の「掴んだら放さないがめつさ」を見たのかもしれません。もう少し言葉を選べば「ウェットすぎる」と言ったらよいでしょうか?

ただ、表題にある通り、パナソニックの失われた30年は日本の失われた30年の代表的事例であり、このようなビジネスをしているところは未だに無数、存在します。「先祖代々の…」「創業者の…」「今は苦しいけれどそのうちに…」という発想です。

先述のGEは創業者のトーマス エジソンの白熱電球を祖とする電気製品の事業すら売却しました。日本はそれを一斉に「GE帝国の崩壊」と報じたのですが、私は「Reborn(生まれ変わり)」だろうと思っているのです。日本はなんでも否定的に捉える一方、北米はポジティブに捉えるのです。この辺りの発想の違いもまたパナソニックが迷える子羊である理由かもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月24日の記事より転載させていただきました。