バチカンが独教会の「改革」を批判:世界のカトリック教会にも大きな影響

独ローマ・カトリック教会で進行中の教会刷新活動「シノドスの道」を巡って、カトリック教会総本山のバチカン教皇庁が一通の書簡を独教会司教会議宛てに送り、その改革案の見直しを要求していたことが明らかになった。

独カトリック教会司教会議のゲオルク・べッツィング議長(独カトリック教会司教会議公式サイトから)

独司教会議(DBX)は23日、バチカン高官が独教会司教会議ゲオルク・ベッツィング議長に宛てた書簡の内容を発表した。それによると、バチカンは、独司教会議が改革プロセスで最も重要な意思決定機関として「シノドス議会」の設置を決定したことに異議を唱えている。

フランクフルト・マインで昨年9月に開催されたシノドス議会は、司教、教会聖職者、および信徒たちが、教会の運営について将来も継続的に会合を持つことを決定し、そのために常設機関「シノドス委員会」が設置され、2026年までに「シノドス評議会」を発足することになった。同評議会は今後、聖職者と信徒が話し合い、教会の活動を決定することになる。

教会離れが進む現在、教会側の聖職者と信者たちが頻繁に話し合い、教会の活動を進めていく、という考えは取り立てて反対することではないはずだ。通常の民主社会では当然のことだが、バチカンは昨年夏、「ドイツ教会は新しい統治機関を創設する権限を与えられていない」と批判。今回の独司教会議議長宛ての書簡では「シノドスによって設立された組織や司教会議が『シノドス評議会』を設立する権限を持っていないことを明確にしたい」と重ねて指摘しているのだ。

この書簡は、バチカンのナンバー2のピエトロ・パロリン国務長官、カトリック教義の遵守を監視する教理省長官のルイス・フランシスコ・ラダリア・フェレール枢機卿、そして司教省長官のマーク・クエレット枢機卿の3人の高位聖職者によって署名されている。

バチカンが独教会司教会議の決定事項に介入することになった直接の契機は、独教会ケルン大司教区のライナー・マリア・ヴェルキ枢機卿とアイヒシュテット、アウグスブルク、パッサウ、レーゲンスブルクの司教たちからの手紙だ。彼らは司教会議の改革案に懐疑的な立場で、バチカンに「決定されたシノドス委員会に参加する必要があるか」と問い合わせたことから、バチカン側は独司教会議が実施中の教会改革案を知り、驚いたという次第だ。

ベッツィング司教は、プレスリリースでバチカンの懸念を否定し、「シノドス評議会が司教会議の上に立つとか、司教の権威を弱体化させるといった懸念はまったく根拠がない。司教の権威に疑問を呈する者は誰もいない」と断言している。

ドイツのカトリック教会の「シノドスの道」は、教会での女性の地位向上、カトリックの性的道徳、聖職者の独身制などの改革に取り組んでいる。それに対し、バチカンは、バチカンの現体制を無視し、各国の教会が独自の意思決定機関(「シノドス評議会」)で教会の運営を決定していく内容と判断し、「教会の分裂をもたらす危険性がある」と受け取っているわけだ。

バチカン教皇庁は昨年7月21日、独司教会議の「シノドスの道」に対し、「司教と信者に新しい形態の統治と教義と道徳の方向性を導入し、それを受け入れるように強いることは許されない」という趣旨の公式声明を発表し、「普遍的な教会のシステムを一方的に変更することを意味し、脅威となる」と警告を発した。

教会の改革を目指すフランシスコ教皇は昨年6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、独教会司教会議の改革案に異議を唱えている(「教皇『教会改革も行き過ぎはダメ』」2022年7月23日参考)。

独司教会議の司教たちは昨年11月、バチカンを5日間、「アドリミナ」訪問し、教皇らと会談したが、改革案では理解が深まらずに「成果なく終わった」(ベッツィング司教)という。ローマ教皇は既に何度か独教会の「シノドスの道」を批判している。それに対し、ベッツィング司教は「われわれはカトリックであり、今後もそうあり続けるが、別の方法でカトリックであることを望んでいる」と述べている。

ちなみに、ドイツのキリスト教信者数はローマ・カトリック教会(旧教)とプロテスタント教会(新教)ではほぼ均衡している。マルティン・ルター(1483~1546年)の宗教改革の発祥国ドイツでは歴史的に教会改革への機運が漂っている。そのドイツのカトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、その対応で教会指導部が混乱している現状に対し、信者からだけではなく、教会指導部内からも刷新を求める声が高まってきているわけだ。

独司教会議が提示した主要な改革案は、①ローマ・カトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。②聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。③女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。④聖職者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。

フランシスコ教皇でなくても、カトリック教会の“福音教会化”と揶揄されてもおかしくはない内容だ。バチカンの中から「それでは何のためにカトリック教会か」という疑問の声が出てくるのは頷ける。「シノドスの道」は教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきた。

独教会の改革案がバチカンや他の教会からの批判に直面して暗礁に乗るか、それとも支持を集めるか、その成り行きはドイツ教会の将来だけではなく、世界のカトリック教会にも大きな影響を及ぼすことは必至だ。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。