ひろのバトル大作戦:海外では性悪説で生きよ

2週間ほど前に「ここが嫌だよ、バンクーバー」をお届けしました。その際に予告した「ひろのバトル大作戦」を今日はご紹介しましょう。

ここで言う「バトル」とは普通では想定しないようなことで、もしかしたら見過ごしていたかもしれないような話もあります。海外では性悪説で生きよ、と言いますが、私は性悪説どころか、全ての事実は確認が必要だ、ぐらいに思っています。

ではご紹介しましょう。

metamorworks/iStock

1 固定資産評価額の怪

数週間ほど間に送られてきた固定資産評価通知書。弊社で所有するマリーナの評価額を何気で見ていたら海の部分は8%程度の上昇で妥当な範囲だったのですが、建物(施設)が昨年比45%も上昇しています。このマリーナの施設は2000年に建設以来、大掛かりな改修はありません。

おかしいと思い、固定資産評価の詳細が分かる情報ソースにウェブでアクセスすると物件の写真はマリーナに面した他人が所有するレストランの写真。そして評価コメントに2つの建物施設あり、と書いてあります。このマリーナには30㎡の管理棟兼事務所が1棟あるだけです。

クレームするとすぐに担当者から返事があり、「確かに写真は間違えた。だが、資産評定の対象物は間違っていないと反論。その上で、お宅には管理棟以外に100㎡の事務所棟もあると」。すぐわかりました。100㎡の事務所は実はバージ(はしけ)の上に乗せた船上事務所で固定資産税の対象外なのです。それを地上物に設置した固定資産だと勘違いして計算したのです。これを説明して先方は全部非を認めました。気をつけていないと何が起きるかわからない、典型例です。

2 払いたくない修理代金を巡るバトル

昨年夏、マリーナの汚水排水ポンプのホースに穴が開きました。めったにない修理なのでマネージャーは何か所か電話をしてすぐに来てくれる業者を見つけました。替えのホースはあるので業者にホースを付け替えてもらうだけです。その業者は出張費が25000円相当のカナダドル、修理が時間当たり25000円相当だがよいかと確認を求められたので高いけれど渋々了解し、業者はそのポンプを自分の施設に持ち帰りました。3日後、修理され、元通りに設置され、ひと段落です。

それから数週間後に目の玉が飛び出る請求書がきます。マネージャーはせいぜい10万円ぐらいだろうと思っていたら35万円です。うちのマネージャーは短気なので業者を責めます。挙句の果てにこの修理は同業他社でやれば15万円が最大だ、との第三者からのお墨付きをもらい相手に押し込みます。「15万円を払うことで決着した」と私に連絡をしてきたので「ご苦労様」といってすぐにその業者の気が変わらぬうちにと思い、支払いをします。

12月に州政府が運営する問題仲裁機関を通じて一種の訴状が来ます。「差額を払え」と。マネージャーに「今度は俺が戦うから情報を全部よこせ」と言って問題点を整理、相手方を調べ、戦略を考えながら仲裁機関に返答します。しばらくして調停員による聞き取りが行われます。電話越しに小一時間、主張点を漏れなく伝えます。その後、一気に交渉を展開し、数日後、あと10万円相当を払うことで折衷しました。

相手の非はウェブサイトに「見積もりをしてから作業します」と明記しているのにそれを怠った点です。一方、作業費は各社が決めることで高い安いは当然あり、たまたま高い会社に当たってしまったという点が妥協せざるを得なかった点です。

3 送金されなかった輸出代金の支払い

私は日本の書籍のカナダでの卸と小売り販売もしていますのでその輸入代金を毎月、日本に支払っています。送金は一定額を超えるので私が銀行の窓口に行って処理しなくてはいけません。

1月の初め、いつものように窓口に行くと初めて見る若い白人女性。慣れた手捌きでいつものように書類にサインを求められ、にっこり笑って「またねー」で終わりました。日本の銀行には送金の旨、連絡をします。(いま、日本側で一定額以上の海外送金の受け入れは面倒な手続きがあります。)ところが翌日、日本の銀行から「送金がなかった」と。

銀行口座をネットバンキングで確認すると口座から送金したはずの資金が引かれていません。とすれば送金が実行されなかったことで間違いありません。朝9時過ぎにクレームの電話をするとコールセンターが対応し、支店の担当者から必ず連絡をさせますと。が、電話はかかってきません。午後の2時ごろ、口座を再びネットバンキングで確認すると資金が引かれています、が、金額が指定額より多いのです。「そんなバナナ?」と思わず叫んでしまい、銀行に走ります。

こういう場合は受付で「マネージャーと話したいのだが」と申し出ます。マネージャーがポケットに手を突っ込んで「送金の件でなにか?」と歩み寄ります。昨日署名済みの送金依頼書のコピーを見せ、事情を説明します。ことの重大さが分かったのか、マネージャー氏は「おおっ!」と態度が変わり調べ始めます。30分待たせた後「これは起こりえない間違い。そもそも顧客の指定する金額と違う金額が送金される仕組みはあり得ないのでもう少し時間がかかるからわかり次第、事務所に電話する」と。

1時間後、銀行は送金指定額と銀行が実際に間違って送金した差額、及び海外送金手数料全額を私どもに全額補填、振込みし、詫びました。「なぜこれが起きた?」と聞いても「まだ調査中です」と。銀行は事情が判明し、100%銀行側に非があると分かったのでしょう。それで極めて早い損失の全額補填をしたのです。海外送金の場合、一度送金すると銀行でも戻せないので、間違ったら「はい、それまでよ」なのです。同僚から「補填してもらって得したんじゃない?」と言われましたが、そういう問題ではないでしょう。ちなみにこの銀行はカナダで最も大きなR銀行バンクーバー本店です。

このようなバトルは実はごく一部で大なり小なり毎日、何か起きています。海外で仕事をする場合、日本では考えられない事態は年中起きるのですが、最近、とみに増えてきたと思います。昨日、顧問弁護士と駄話をしていた際、「若い人の仕事の能力が異様に下がっているし、直ぐに辞める」と嘆いていました。それらのしわ寄せはベテランに来るのだと。全くその通りです。

もう一つは世の中の仕組みがあまりにも複雑になり、専門家ですらキャッチアップ出来ない事態が生じているのです。そうなれば新人さんにとっては余計に難しく、自己判断できる範疇も制限され、仕事は楽しくなくなります。かといって自営で何かやるにはもっとハードルが高くなった、それが現実です。

私はリタイアをするにはまだ早いのですが、ふと思ったのは「こりゃ、死ぬまで面倒見続けなくてはいけないのではないか」です。それだけならまだいいですが、そのうち、「すみませんが、あの世でも相談役として見てもらえませんか?」と笑い話にもならない時代がやってくる気すらしています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月29日の記事より転載させていただきました。