イランが直面する「3つの問題」:制裁を強権で突破するイラン当局

イスラム聖職者支配体制のイランでは現在、3つの問題で国際社会の批判にさらされている。1)イランと国連常任理事国にドイツを加えた6カ国間の締結した「核合意」の再建交渉、2)イラン革命防衛隊(IRG)の「テロ組織」問題、3)そして昨年9月16日に死去した22歳の女性に関連したスカーフ着用問題だ。いずれも相互関連しているテーマだが、ロシアのウクライナ侵略で世界の関心がウクライナに集中している中、「イランの問題」は正念場を迎えている。以下、イランの「3つの問題」の近況をまとめた。

IRGを「テロ組織」に指定する動きを見せるEUに警告するイランのホセイン・アミール・アアブドゥラヒヤーン外相(2023年1月29日、IRNA通信から)

1)「イランの核合意」の再建問題

アントニー・ブリンケン米国務長官は29日、訪問中にアル・アラビヤ放送とのインタビューで、「イランには核合意に戻るチャンスがあったが、それを拒否した。イランの核問題では、全ての選択肢がテーブルの上にある」と語り、軍事的オプションをもはや排除しない考えを強調した。イランの核武装化を恐れるイスラエルは、「テヘランが核兵器を保有することは絶対に容認されない」と指摘、必要ならばイランの核関連施設を空爆すると警告してきたが、バイデン米政府はここにきてイスラエルの政策に同調してきたわけだ。

イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある。国営イラン放送によると、中部イスファハンの軍需工場で1月29日、爆発があった。イスラエル側の工作の可能性が囁かれている。イランでは過去、核開発計画に関与する数人の核物理学者が射殺されたり、爆死したりしている。イラン側は「イスラエルの仕業」と受け取っている。イスラエル側の情報では、イランの核兵器の製造は差し迫っているという。

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の「イラン核報告書」によると、イランの濃縮ウラン貯蔵量はイラン核合意で定められた上限202.8kgをはるかに超え、濃縮度20%の高濃縮ウランの量は238.4kg、60%以上は43.1kgと推定されている。核兵器用に必要な濃縮ウランは濃縮度90%だ。濃縮度20%を超えれば、90%までは技術的に大きな問題はないといわれている。イランの核開発計画は核拡散防止条約(NPT)など国際条約の違反であり、国連安全保障理事会決議2231と包括的共同行動計画(JCPOA)への明らかな違反だ。イランはまた、未申告の核関連施設から検証された核物質について、IAEA査察官のアクセスを拒否するなど、イランとの核合意の再建交渉は膠着状況だ。

2)「イラン革命防衛隊」(IRG)のテロ組織の指定問題

英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は29日、欧州連合(EU)がイランの精鋭部隊IRGのテロ組織指定を検討していると報じた。米国は2019年4月にIRGをテロ組織に指定している。イランはイラク、シリア、レバノン、イエメンなどでさまざまなテロ活動を支援したり、実行したりしてきている。その中核はIRGだ。

パレスチナのハマスはイスラエルにミサイルを発射するが、そのミサイルはイラン側の支援によるものだ。シリア内戦では守勢だったアサド政権をロシアと共に支え、反体制派勢力やイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)を駆逐。イエメンではイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」を支援し、親サウジ政権の打倒を図る一方、モザイク国家と呼ばれ、キリスト教マロン派、スンニ派、シーア派3宗派が共存してきたレバノンには、イランの軍事支援を受けたシーア派武装組織ヒズボラがいる、といった具合だ。

なお、イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配されており、純粋な民間企業はほとんど存在しない。看過できない事実は、IRGはイランでは大きな経済勢力であり、その影響力は過小評価できない。マフムード・アフマディネジャド前大統領の下で著しく成長した。ライシ大統領の下で、さらに多くの経済プロジェクトが彼らの所管に入ってきている。IRGは石油とガス産業、建設と銀行だけでなく、農業と重工業にも食い込んでいるコングロマリットを所有している。豊かな資金源を背景に、テロ活動を実施している。

3)「反体制抗議デモ」の動向

イラン各地で始まった抗議デモで少なくとも527人が死亡した。米国を拠点とする組織、人権活動家通信社(HRANA)の報告によると、その中には未成年者が71人、警察やその他の治安機関の職員が70人含まれている。合計で約2万人が逮捕され、そのうち100人以上が死刑判決を受けている。既に数人のデモ参加者が処刑された。

イスラム共和国での抗議行動は昨年9月中旬に始まった。引き金は、22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさんの死だ。宗教警察は、ヘッドスカーフ着用の強制規則に従わなかったとしてアメニさんを逮捕した。彼女は9月16日に警察の拘留中に死亡した。それ以来、政府の抑圧的な方針とイスラムの統治体制に反対するデモがイラン各地で続いている。

それに対し、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「わが国を混乱させている抗議デモの背後には、米国、イスラエル、そして海外居住の反体制派イラン人が暗躍している」と主張。革命防衛隊や警察当局は、「われわれは国内の抗議行動と戦う準備が出来ている」と戦闘意欲を誇示し、「イスラム共和国の敵の悪魔的な計画を破壊する」と檄を飛ばし、強権で抗議デモを鎮圧する姿勢を崩していない。

イラン各地で連日続く抗議デモは現在、女性の権利やスカーフ着用問題にとどまらず、イスラム革命以来続くイスラム聖職者による支配体制のチェンジを要求してきている。米国やEUはイラン当局に対し経済・金融制裁を実施しているが、イラン当局は強権でこの危機を突破する考えを変えていない。同時に、ウクライナ戦争ではロシアに軍事用ドローンを提供し、ロシアを軍事的に支援している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。