広域強盗事件が起きるのは何故だ?:人生を棒に振ってもいい人間の増加

社会面で一気に注目を浴びた「東京都狛江市」。ここでも連続強盗事件の一つが発生し、90歳の高齢女性を殺害し、金品を奪った事件は一種の衝撃でありました。その後の捜査で奪われたものは時計3本、指輪1点で全部で60万円相当だったと判明しました。現金の盗難の可能性は低く物品で60万円相当しか奪えなかったのに殺害に及ぶのはそもそも窃盗のプロでもないし、実行側からしてもほとんど無益だったといえるでしょう。

beest/iStock

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その前に中野で起きた事件で現金3000万円を強奪したことで味をしめたこともあるかもしれません。その裏には多額の現金を持つ高齢者が多いことも事件に拍車をかけているように感じます。

日銀が発表する紙幣流通量は2000年代に入ってからだけで2倍の125兆円(2022年現在)を超えています。物価が目立って上がったわけでもなく、キャッシュレス決済が普及してきたのになぜ、紙幣流通量だけが増えるのか、その理由の一つにやはりタンス預金に目が向きます。

何故高齢者はタンス預金をするのでしょうか?いくつか理由があると思います。銀行預金利息がほとんどつかない、銀行からの引き出し費用など預けると様々な費用がかかる、物価は直近を除けば極端には上がっていない、銀行まで行くのが億劫など身近な生活上の理由はあると思います。しかし、紙幣の印刷は1万円札が圧倒的に多いことを考えるとタンス預金というより相続税対策で多額の現金を持つ人が増えている推測は成り立ちます。ある調査によるとタンス預金の金額は100兆円ぐらいあるのでは、とされます。

タンス預金は相続税を逃れられるか、という点について税のことを書いている出版物や情報サイトでは「逃れられない」とあります。そりゃ、当たり前です。そう書かざるを得ません。また、相続の際には当局はその方の過去の税務申告をチェックし、相続額と税務申告額の推移に疑義がある場合、タンス預金を疑う可能性があるとされます。

ただ、巨額の資産を持っている場合はともかく、小金持ちぐらいならそれを調べぬくのはいくら税務署でもかなり難しいと思います。理由はその人が何にお金を使ってきたかまで調べぬかねばならないからです。税務署もそこまでは時間が割けない訳ですし、彼らには「手柄」制度がありますからやはり大口を狙いたいというのが本音でしょう。これが逆にタンス預金を増やした理由ともいえます。

ところでタンス預金をもらう方(被相続人)も気をつけなくてはいけません。もしももらったお金を銀行口座に預ければ税務署から「お尋ね書」が送られてくるでしょう。「そのお金、どうされたのですか?」と。つまり、普段の収入に見合わない高額のお金が入った人も当然チェックされるということです。

日本は現金社会でキャッシュレス決済に強烈な拒否反応を示す方がかなり多いのが実態です。このブログで10年ぐらい前から時折現金は無くなる社会がやってくると主張したら強烈な批判がバンバン来ました。しかし、残念ながらそれは世代と共に廃れていく運命です。例えば北米では現金は悪なのです。アングラマネーなど不正なマネーというレッテルを張られているので海外からの持ち込みから銀行で現金の預け入れまで厳しくチェックされるのです。

また、今年後半あたりから一部の国で始まるかもしれないデジタル通貨制度は2030年ぐらいまでには多くの国で普及するとみています。特に新興国は政府紙幣の信用度維持、安全性、持ち運びやすさ、アングラ防止、銀行を介さない取引など、その必需性が高いため一気に展開するはずです。そういう中で日銀はいつまでたってもデジタルマネーに本気度を見せない、それが廻りまわって広域強盗やオレオレ詐欺など現金を目的とする強盗が後を絶たないともいえます。

もっと極端な話をすれば銀行に預けても金利がつかないから現金で持つ人が増えることもあるでしょう。そういう点では日本は世界的に見ても実に不思議で特異な社会が育まれているともいえます。そして今回の広域強盗事件もオレオレ詐欺も全部現金目当てと騙しやすい高齢者をターゲットにするという構図が浮かび上がるのです。

一方、犯人側の観点に立ってみるどうでしょうか?人生を棒に振っても痛くもかゆくもないと思う愚か者が増えた点でしょう。その主役の一つが半グレやそれを格好いいと思う社会不適合者であります。半グレが増えた一つの理由は日本でやくざ社会が警察の徹底的な監視と殲滅体制もあり、力が無くなったことがあります。やくざには警察も徹底取り締まりが出来ますが、半グレはやりにくいのです。かつてやくざと半グレの関係は良くない時期もありましたが、今ではある意味、双方が利用し合う関係にあるとされます。

今回の広域強盗事件も指示役に半グレがいて、その上に反社がいるのではないかとされます。馬鹿でもできないし、天才でもできないのが暴力団員です。一般の方のイメージは怖そうなおっさん達ですが、彼らには経済犯や知能犯チームのように黒の仕事をグレーに見せかけて仕事をします。多分、そういう連中が半グレをうまく使っているというのが私の想像です。

半グレは一度足を踏み入れると抜け出せないとされます。仲間内との関係、ヤクザとの関係がずぶずぶなのでしょう。ただ、半グレになる前の若者がなぜ、ぐれるのかという点も教育の観点から考えてみる必要があるでしょう。

世界一平和とされる日本でなぜ、ぐれるのは私見としては社会のルールについて行けないのだと思います。かつては学校の勉強で落ちこぼれる程度でした。今は社会の常識や規範、振る舞い方を「かったるい」と思うのです。そして躓く少年たちを救う仕組みがなく社会の無関心さも影響しているでしょう。皆さん、忙しいから見て見ぬふりをします。はじかれない社会を作ることは教育の最大の課題の一つでしょう。ここまで立ち戻らないと今の広域強盗の問題の本質は見えてこないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月31日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。