迷惑な飲食店利用客を追い払う一番効果的な方法

黒坂岳央です。

昨今、立て続けにチェーン店での迷惑行為がSNSで話題になっている。先日から回転寿司で起きている迷惑行為については、海外メディアでも「寿司テロリズム」とニュースで紹介され、牛丼チェーンなどでの迷惑行為も動画にアップされている。

昨今の迷惑行為に留まらず、SNSで動画にならない迷惑行為はあちこちで起きている。正直、店舗にとっては、食事代以上の損失を出してしまう「招かれざる客」でしかない。よりマクロに視点を移せば、訪日外国人にまで潜在的リスクを抱かせたり、株価下落の要因になるためその負の波及効果たるやすさまじいレベルでまさしく「経済的自爆テロ」である。結論的にこのような招かれざる客を遠ざける一番の方法は「価格を上げる」が効果的である。

本稿はあくまで思考実験の一つであり、「そんなことをすると店舗の採算が取れない云々」といった経営論は想定していない。その前提で考察したい。

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迷惑客は安い店を選ぶ

これをいうと猛烈な反発があることが推測されるが、薄々誰もが感じていることをあえて言語化することに挑戦したい。それは「価格と客層は正の相関がある」ということである。簡単にいえば、値段の高い店ほど利用する客層も高まるという事実だ。

これを裏打ちするエピソードはいくつもある。筆者の親族に旅館に勤務する人がいるが、激安キャンペーンや旅行割引キャンペーンなどで販売価格と下げると、目に見えて客層が下がるという。普段はそこそこ高い旅館なので、リピート客が中心で落ち着いた客層がほとんどを占める。

だが、価格と下げると普段は来ない属性の利用客が一気に増えるという。そして問題行動はそうした普段の価格では来ない人が起こすというのだ。食べ放題の料理をタッパーで大量に持ち帰る、部屋の時計を盗む、はては銭湯のシャンプーまで盗むといった具合である。それだけではなく、大量に酒を飲んで裸踊りを動画撮影しながら騒いだり、子供が他の利用客に迷惑をかけるようなことをしても放置するのだという。

翻って、価格の高い店にはそのような迷惑行為を働く利用客は相対的に少ない。一泊10万円以上の店で料理やシャンプーを盗んだり、騒いだり迷惑をかける行為を「楽しい」と感じる感性の持ち主は皆無なのである。完全にゼロではないかもしれないが、確実に少ないだろう。安い店舗が悪いといっているわけではないが、迷惑行為を働く彼らなりの経済学メカニズムに突き動かされて、合理的に店舗を選ぶ。

迷惑行為を働く人達の心理

ここからは迷惑行為を働く人たちの心理を考えたい。筆者は当事者ではないので推測部分も多いが、あながち的外れではないと思っている。

まず迷惑行為をしたり動画で仲間内でシェアしあうということは、こうした稚拙な行動を「楽しい」と感じる感性の持ち主であることがわかる。世の中の大多数の人は、迷惑行為を見せられたら「面白い・楽しい」とは感じず店舗側の苦労を想像して不愉快になるのが普通だ。つまり、この部分の回路がズレている。

彼らも迷惑行為という意味合いは理解していると思うのだが、それでもやってしまうのは「多少のイタズラくらいは許してくれるだろう」「店員さんは自分に文句をいってこない」という甘えによるものだ。

店舗で働く側はどうしても立場が弱い。特に接客をする立場の多くがパート・アルバイトである。たとえ眼前で迷惑行為を目撃しても、面と向かって「迷惑だからやめなさい」とは言いづらい。下手をすると利用客から恨みを買ったり、反撃を受けるリスクもあるためだ。つまり、迷惑行為者のほとんどは感性が幼稚であり、店舗側に甘えていることが想像できる。

また、食事やシャンプーを盗む者についていえば、「経済的な得をしたい」という心理に裏打ちされているのだろう。彼らの脳内を占め、行動を支配するのは「価格」であり、不当に持ち帰りをすることは自分でつけられている値札の価格を下げる感覚で、お得に感じているという推測が可能だ。

そうでなければ、見つかって叱責を受けるリスクを負ってまで、このような迷惑行為に及ぶ理由がつかない。仮に2000円のビュッフェなら、通常食べられる分量だけタッパーで持ち帰れば、実質半額で手に入ったようなものだ。その結果、提供者側に不利益が被ることまでは想像できないし、人によっては想像した上で「それでも構わない」というジャッジを下している可能性は否定できない。

こうした心理に基づいて彼らは迷惑行為に及び、自ら動画をSNSにアップ、そして自分と利用店舗の両方を地獄に落としてしまう。本質は自爆テロと何も変わらない。

一番の防衛策は価格を上げることで、彼らが利用したいというインセンティブをなくしてしまうことだ。難しいのは、99%の普通の利用者にまでその影響が及んでしまうことと、全国展開チェーンではビジネスの採算が取れなくなってしまうことである。結局、監視の目を光らせるなどでしかない。現場で働くワーカーの苦労を想像すると気の毒でならない。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。