2月9日の産経新聞の記事(「投資詐欺で「フリッチクエスト」の社長ら逮捕 警視庁」)より。
月利4%の高利率で金を運用できるとうたい、若者らから集めた現金を海外カジノなどにつぎ込んでいたなどとして、警視庁は、詐欺の疑いで、投資運営会社「フリッチクエスト」の社長、森野広太容疑者(38)ら男女8人を逮捕した。
被害総額は約200億円、被害は3300人、多くは20代、30代だという。最近、この手の若年層を狙った投資詐欺(まがいの)勧誘のケースをよく見聞きする。年利ではなく月利で4%というのは驚きという他ないが、通常の感覚からは乖離するこの種の誘惑になぜ人々は巻き込まれてしまうのか。
リターンとリスクは表裏一体だ。もちろん前者の可能性を上げ、後者の可能性を下げるのがその人のスキルなのであろうが、リターンばかりに目を奪われ、そこにどのようなリスクがあるのかを判断しなければ失敗する。裏を返せば、詐欺(的)集団は、そういった感覚を麻痺させる仕掛けを次々と駆使してくる。この手の事件でよく見る光景は以下のようなものだ。
「勝ち組」感の演出。私は「怪しさ」しか感じないが、ターゲット層には効果的らしい。経営者が高級マンションに住み、高級車を乗り回し、ブランド品を買い漁る、そんなシーンをSNSで見せつけられれば、自分もそうなりたいと思い(そこまでは分かる)、その勧誘に乗る(ここは分からない)。
「専門」感の演出。言葉巧みに専門用語を並べたくって、技術的に高度な話のように錯覚させる。
「特別」感の演出。この情報は限られた人々だけが共有できるものだ、あなただけにしか教えない、選ばれた人しか参加できない、という誘いは、人々の判断を麻痺させる。
「先行」感の演出。これが最近のトレンド、今しかない、みんなが知る前に、「バスに乗り遅れるな」という焦りを煽る。
そして「高揚」感。普段はSNSで繋がっているが、セミナーとかパーティーとかをしばしば開いて、有名人とかを呼ぶという。「すごい」という雰囲気、高揚感は、リスクの判断を歪める。
この種の手口では最初はリターンをきちんと支払うという。安心させるためだ。さらなるネットワークの拡大にもなる。そこにマルチ商法的な要素が加わる。
仮想通貨がブームになったとき、「億り人」という言葉が出てきた。この表現のインパクトは大きかったと思う。注目を浴びた途端、何十倍に膨れ上がり、「お小遣い」が「ひと財産」に変貌した。その後になって税金で苦しむことになるのだが、いずれにせよちょっとしたきっかけで、情報を少し早く手に入れていれば、他人よりも儲け話に先に手を出していれば「勝ち組になれる」と思わせるのに十分な材料だった。
「調子のいい話にはご用心」というのは普遍的な「生きる知恵」だとは思うが、それが情報産業の進展に伴って、この流れにもろに乗っかった世代、集団の用心の鍵を開ける詐欺集団のスキルが巧みになったのだろう。
原野商法のように昔から詐欺的勧誘は数多くあったので、何も新しい現象でもないだろうが、その背景や性格の変化が何かに注目すべきだ。もちろん、リテラシーの欠如、知識不足といってしまえばそれまでだが、中途半端な勉強はかえって危ない、ともいえるのではなかろうか。多少知識があるとかえってはまってしまう。そうだとするとこの問題は結構悩ましい。
「ご用心」ばかりでは何もできないが、やはり用心は重要だ。