激戦地バフムトのカラスたち:戦場に適応したカラスが現れる?

ロシア軍がウクライナ東部、南部で攻勢をかけてきた。プーチン露大統領がウクライナ侵攻を命じて今月24日で1年目を迎えることから、プーチン大統領は戦争で成果を上げることに躍起となってきている。ウクライナ東部ドネツク州のバフムト近郊ではロシア民間軍事会社ワグネルの傭兵隊がクラスナヤゴラを制圧したという情報が流れている。

改築された国民議会の天井ガラスにひびが入った(2023年1月17日、ウィーン市「区報」サイトから)

ところで、独週刊誌シュピーゲル(2023年2月4日号)はウクライナ東部バフムトの情勢を報じていたが、その中で驚くような記事があった。ウクライナ東部を棲家にするカラスたちは近くで爆弾が炸裂しても飛び去らないというのだ。砲弾の音が市内で響き渡り、兵士たちの銃撃戦が行われている。普通の鳥たち、といっては変だが、鳥ならば1発の銃声を聞いただけでも直ぐに飛び去るのが普通だが、戦場地域バフムトに住むカラスたちは銃声や砲弾の音が炸裂したとしても、“ビジネス・アズ・ユージュアル”で、枯木に留まり続け、エサを探すことに忙しく、飛び立つカラスはほとんどいなかったのだ。シュピーゲル記者は「カラスたちは全く動かず、無反応だ」と記している。

詳細なことはカラスの専門学者に聞かなければ分からないが、戦場のカラスたちはひょっとして鼓膜が壊れて聞こえなくなったのだろうか、それとも本当に危機が差し迫った時以外はもはや動揺しないのだろうか。鳥を含め全ての存在は経験を通じて学習するから、戦場に適応したカラスが現れてきても不思議ではない。それとも、人間たちの蛮行を目撃し、カラスたちは自暴自棄になっているのだろうか。

欧州では人々は12月31日のシルベスター(大晦日)には大騒ぎをして新年を迎える。その日には花火が夜空に打ち上げられる。その花火の音を怖がる犬たちが少なくない。飼い主は「住宅地周辺では花火をしないで」と訴えるほどだ。犬や鳥たちは本来、音には非常に敏感だ。

「バフムトのカラスたち」といえば「ウィーンのハトたち」を思い出した。中国発新型コロナウイルスが欧州を襲撃した直後、ウィーンでもコロナ感染防止のためにロックダウン(都市封鎖)が実施された。人間社会の「異変」に気がついたのは街のハトたちだった。

街のハトたちは毎朝、年金生活を送る老人たちからパンくずや穀物をもらう生活に慣れてきたが、新型コロナウイルスが広がり、高齢者は感染の危険が高いため外出を控えるようになって、路上でハトたちにエサを与える人がいなくなった。その結果、街のハトたちは空腹に悩まされ、死んでいく。動物愛護グループは「街の衛生上にも良くないことだ」とし、市当局に街のハトたちのエサ場を作るべきだと主張していたほどだ。

ハトは本来、自由に空を飛び、エサを見つけて食べるが、駅前や路上で長い間、人間が与えるエサで生きてきたハトたちにとって野生の生活に戻れ、といっても簡単ではないのだ。老人のエサを待って、人気のない道の上で腹を空かして死んでしまうハトたちが出てきたわけだ(「人間社会の『異変』に戸惑う動物たち」2020年4月2日参考)。

最後に、「バフムトのカラスたち」のついでに「ウィーンのカラスたち」の最新情報を報告しておく。

オーストリアの国民議会議事堂が先月12日、改築後再オープンされた。新議会の特徴は屋根のドームがガラス張りということだ。直径は28メートルで、面積は約550平方メートルだ。天井がガラス張りだから議会内は明るい。国民議会の公式サイトにはガラス張りのドームについて、「わが国の政治の透明性を象徴するものだ」とその意義が説明されている。

ところが、オープンしたばかりの議会のドームのガラスにひびが入っていることが判明したのだ。巨額な資金を投入して建設されたオーストリア政治のシンボル、議事堂のドームのガラスを壊したのは誰か。議会関係者は犯人捜しを始めたが、幸い、犯人は直ぐに見つかった。議会建物周辺を棲家とする「ウィーンのカラスたち」が石を落としてガラスを壊したというのだ。

ウィーンのメトロ新聞「ホイテ」は早速、「民主主義の殿堂、国民議会のドームのガラスが壊された」と大げさに騒ぎ、犯人のカラスたちを「民主主義の敵」と報じた。一方、口の悪いウィーン子は、「カラスは国会議員たちの腐敗に抗議しただけだ」と、カラスたちを庇う。ドームのガラスにひびをつけた「ウィーンのカラスたち」はこれまでもよく知られてきた。議会に駐車していた議員の高級車が石などで傷つけられたことが過去、何度かあったが、犯人はカラスたちだったからだ。

ウクライナの戦場「バフムトのカラスたち」と音楽の都「ウィーンのカラスたち」ではその生活環境は大きく違う。どちらがカラスにとって幸せかは明らかだろう。ワルツの曲に乗って石ころ遊びしている「ウィーンのカラスたち」を「バフムトのカラスたち」はやはり羨ましいだろう。

ウクライナでの戦闘は激しさを増すばかり ゼレンスキー大統領Fbより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。