先日、カナダ人と不動産の話をしていた際、私が東京でやっているシェアハウスの賃料が衝撃的に安いことにショックを覚えたようです。光熱費WiFi込み、もちろん家具付きで山手線の駅から歩けて月8万円は眩暈すら感じる金額のようです。そりゃそうです。当地のアパートの賃料は60㎡で20万円相当で新築なら30円程度が相場。もちろん、家具も動力用水代も別です。シェアハウスは個室は小さいですが、逆に短期で借りられるメリットがあり、普通は割高になるべきものなのです。
私が東京で展開している事業はどうなっているのか、と言えば日本人の借り負けです。つまり、空きがあれば外国人がものすごい勢いで部屋を見ないで借りていきます。日本人の場合はいくつもあちらこちら見ていろいろ考えて…という方が多いのですが、その間にみんな成約してしまうのです。
物価が高い欧米の人から見れば日本の一般物価は地球の楽園、お財布にやさしい天国なのです。物価には国際水準があります。鎖国をしているわけではないのでどの国も貿易を通じてモノのやり取りが行われます。日本も当然資源から食糧まで輸入していますが、その価格が上昇しているのにその値上がり分がなかなか最終価格に転嫁できなかったのです。
その殻を破ったのが電気代でした。複数年に渡る資源高、円安で電力会社は火の車です。おまけに効率の良い原子力発電の稼働は困難です。東電には4000億円の緊急融資が実施されるほど切羽詰まっています。こうなれば値上げを申請するしかないのです。つまり、これは国民の選択でもあるのです。
1月の電気代をみて驚愕の思いだった方は多いでしょう。2月からは補助金が出るので下がるはずですが、東電管内は6月ぐらいから3割値上げが反映されるので、夏が怖いのです。かつて欧州でガス価格が高騰し、凍えるような話が席巻しましたが、23年日本の夏はサウナブームも吹っ飛ばすほどの暑い夏になるかもしれません。
ところで少し前、日経に気になる記事がありました。「高いロイヤルホスト、安いガストを圧倒の不思議」です。平均客単価2000円のロイホが800円台のガストを凌駕する、そのポイントは「量より質」とあります。私は量というよりむしろチープなものは食べたくないという人が増えてきたのだと思います。我慢疲れもあるでしょう。それにもともと日本人は舌が肥えています。
以前、私はラーメン価格の不思議という趣旨の話をしました。ラーメンは一杯、今や1000円にリーチしつつあり、長期右上がりで確実に価格は上昇しています。一方、牛丼チェーンが値上げの話をするとかつてはブーイングの上に客足が途絶えるという現象すらありました。私はあれは一種のマスコミが囃し立てたポジショントークだったと思うのです。つまり、左派的論調者が「庶民の牛丼が奪われる」的な書きぶりです。
実際にいるのです。そのようなライターさんは。私が昔やり取りしていたライターさんも10円、20円の価格上昇に血相変えて怒るのです。それが生活に影響するとかそういう話ではなく、値上げすることが反社会的行動であるがごとく、責め立て、それを記事にするのです。日本には左派的思想のメディア、マスコミは多いのでそういう記事は好んで取り上げられ、一般大衆がそれを目にして「そうだよな」と奇妙な同調をする風潮があったのです。
いま、そのようなライターさんが「値上げは悪だ!」と書けば「じゃあ、私たちの生活は出来なくなる!」と反論されるでしょう。実際、値上げを揶揄する報道は減ってきており、むしろ、受け入れようとする気配すらあるのです。
例えば昨年、銀座にダイソーが100均から脱却したアッパーな商品を売る店を出しました。私も行きましたが、ビルの上の方とは言え、有楽町からすぐの銀座の一等地です。100均の販売業者はこれまで「100円で売るための商品開発をしてください」と業者をなだめすかし、中国を含む諸外国ででどんな厳しい労働環境下で作られたかもしれない商品でも店先に並べていました。我々は新疆ウィグルにおける中国の蛮行を非難するけれど日本人が手にする100均商品がどのような人がどのようにして作ったのか全く興味を見せません。
もちろん、これらは正論でありすぎるわけで、「給与は少ないのよ」と反論されそうです。幸いにして大手企業は春闘で相当の大盤振る舞いとなる方向にあります。そりゃ全企業の0.3%の話だろう、と更なる反論がありそうですが、インフルエンサーが動けば世の中は着実に変わっていくのです。そして先日も書いたように賃上げできないところはそもそもゾンビ企業だったということであり、淘汰されかねないのです。
ではリタイア層はどうなるんだ、とご指摘があると思います。物価が上がれば日銀は何をするでしょうか?少なくとも今の大規模金融緩和を正当化する理由が無くなるのです。黒田総裁は値上がりは一時的だから欧米が沈静化すれば日本の物価も2%以下に再び下がる、と考えてきました。それはないかもしれません。よって、預金利息が上がって高齢者は一息、という幻想は申し上げません。経済が正常化すれば健全な企業がより成長しやすくなる、つまり、配当金やキャピタルゲインを取りやすくなるのです。幻の日経平均4万円の頭を押さえているのは今の日銀の金融政策が経済のマインドを温められなくしているからなのです。
安物好きだった日本が今、ようやく目覚める時なのです。地殻変動です。もやしが28円とか納豆が39円とかそういう時代は昔話になっていくのでしょう。マンガ喫茶で泊まり歩いているような若者が「真面目に働かなきゃ食っていけない」と思うようにならねばならないのです。日本は30年もさまよってしまったのです。世界一流の先進国という自負が大きすぎたようです。私がこのブログで15年かけて「まずいよ、このままじゃ」と言い続けたのを日本批判だと厳しいコメントも数多くありましたが、現実にそうなったことを受け止めなくてはいけないのです。
まずは価格競争をやめ、企業利益を確保し、給与を上げ、金利も正常化して、普通の国を目指すところからスタートです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月15日の記事より転載させていただきました。