「結社の自由」を乱用して除名した共産党指導部

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長過ぎる共産党志位委員長の任期

日本共産党の元安保外交部長で現役共産党員の松竹伸幸氏(68)は1月19日都内で記者会見し、共産党の志位和夫委員長が2000年から23年間も党委員長を務めていることについて「国民の常識からかけ離れている」と批判した。そのうえで、「党の中にも政策の違いがあり、堂々と議論しあうことで、党の外にも見えるようにすべきだ」と述べ、すべての党員が投票して委員長を選ぶ「党首公選」を主張した。

共産党の安保外交政策にもかかわった現役共産党員が公の場で党中央を批判するのは極めて異例であり、同氏は上記の内容を盛り込んだ著書「シン・日本共産党宣言」(文春新書)を出版した。

確かに、志位委員長の任期は長過ぎる。その間に党勢拡大の実績があればともかく、党員数、赤旗読者数、国会議員数などは大幅に減少し党勢は明らかに衰退しているから、なおさら松竹氏の「党首公選」の主張には説得力がある。

「党首公選」主張の党員を直ちに除名処分

しかし、1月21日付の共産党機関紙「赤旗」は、藤田健編集局次長名で「党の内部問題は党内で解決するという党の規約を破るものであり、党首公選制は必然的に派閥や分派を作り組織原則である民主集中制と相いれない」などと松竹氏を批判した。

共産党の志位委員長も、1月23日松竹氏の主張について「規約と綱領からの逸脱は明らか」と批判した。そして、2月6日共産党は「出版は党員の同調を期待する分派活動に当たる」などと「民主集中制」(分派禁止)違反を理由に松竹氏を直ちに除名処分にした。

日本共産党規約3条で規定される、党内での派閥や分派を禁止する「民主集中制」とは、レーニンが確立した「前衛党論」であり、労働者階級を指導する中央集権化された職業革命家集団の戦闘的組織原則のことである。

レーニンは、「社会主義革命を遂行するために、革命党は組織の民主主義的原則よりも異論を許さぬ中央集権的な一枚岩の単一の意思と鉄の規律に基づく少数精鋭の秘密組織でなければならない」(1902年レーニン著「何をなすべきか?」レーニン全集第5巻483頁~486頁。512頁~518頁等。1954年大月書店)旨を述べている。

このように、「民主集中制」は日本共産党のような革命政党にとっては異論を許さぬ「鉄の規律」なのである。

朝日、毎日社説による正当な除名批判

今回の共産党指導部による除名処分に対し、朝日新聞は2月8日付社説で「共産党員の除名:国民遠ざける異論封じ」と題し「党の在り方を真剣に考えての問題提起を一方的に断罪するようなやり方は、異論を許さぬ強権体質としか映るまい」と批判した。

毎日新聞も2月10日付社説で「時代にそぐわぬ異論封じ」と題し「自由な議論ができる開かれた党に変わることができなければ幅広い国民からの支持は得られまい」と批判した。いずれも大多数の国民意識に基づく正当な批判と言えよう。

これに対し、志位委員長や田村政策委員長ら共産党指導部は、機関紙「赤旗」で「除名批判は1988年12月20日最高裁判決が認めた「結社の自由」を無視した乱暴な党攻撃である」と激しく反発した。

そして、「自由意思によって党規約や党綱領を認めて党に加入した以上は、党員は党の存立や秩序維持のために自己の自由や権利に一定の制限を受けるのは当然のことである」と反論し「結社の自由」を理由に除名処分を正当化した。

「結社の自由」を乱用して除名した共産党指導部

共産党指導部が除名処分を正当化するために援用した上記最高裁判決で判示された憲法21条「結社の自由」とは、国家が、議会制民主主義に基づく日本国憲法の目的に反しない民主主義義的な政党等の設立の自由と、民主主義的な政党内の自治を認め、これに干渉しない趣旨であり、国家において、反民主主義的な政党等の設立の自由や、反民主主義的な政党内の行為の自由までも一切無条件で容認する趣旨ではない。政党内の反民主主義的行為は政党自治の逸脱と破壊であり「結社の自由」の乱用として憲法上決して容認されない。

この観点から今回の除名処分を検討すると、共産党指導部はあくまでも「党内問題を党外から攻撃した」という党内手続き違反が除名理由であるかの如く主張するが、上記赤旗編集局次長名の論説によれば、根本的な除名理由は派閥と分派を生むという「党首公選」の主張自体にある。

しかし、松竹氏の「党首公選」の主張はまさに共産党における党内民主主義の実現と拡大を目的とするものであり憲法上の「結社の自由」の上記趣旨に合致こそすれ、これに反するものではないから、除名処分が理不尽であることは明らかである。

このような党内民主主義の実現と拡大を目的とする松竹氏の「党首公選」の主張を党規約違反として直ちに除名処分した共産党指導部の行為こそが、まさに反民主主義的であり「結社の自由」の上記憲法上の趣旨に反するものである。

その意味で、共産党指導部は「政党には高度の自主性と自律性が与えられ、自主的に組織運営をなしうる」との「結社の自由」に関する最高裁判決の趣旨を「乱用」して除名処分に及んだというほかない。憲法12条は自由及び権利の乱用を禁止しているのである。

極めて危険なのは、このような異論を許さぬ「民主集中制」を組織原則とする日本共産党が将来日本で政権を獲得した場合である。

その場合に懸念されるのは、旧ソ連や中国のように、共産党に反対する国民の意見が、異論を許さぬ一枚岩の単一の意思と鉄の規律による「民主集中制」の原則により、今回の松竹氏の場合と同様に絶対に許容されず圧殺される「共産党一党独裁」の危険性である。この問題については2月11日付アゴラ掲載拙稿「日本共産党の民主集中制は共産党一党独裁の危険性がある」で詳述したのでご参照されたい。