コロナワクチン有害事象の統計解析の注意点についての論文公開

鈴村 泰

私は、これまでにネットにおいて、コロナワクチン有害事象の統計解析結果を解釈する際の注意点を 様々な観点より解説してきました。 今回、それらの論考を一つの論文にまとめました。想定以上の査読者の厳しいチェックがありましたが、何とか受理までたどりつきました。

wutwhanfoto/iStock

今回論文にまとめようと考えた契機となったのは、佐藤俊哉氏によるYouTubeの講義です。この講義では、ASA声明に基づいて、科学的推論をする際の注意点について解説されています。ASA声明は2016年にアメリカ統計協会が発表しています。

私の論文を読むにあたっては、まずYouTubeの講義を視聴し、次にASA声明の和訳を読み、最後に私の論文を読みますと内容が理解しやすいと思います。

ワクチンの安全性を検証する統計手法は、基本的に次の2つです。

  1. コホート研究:ワクチン接種群の死亡や発症の発生率とコントロール群のそれとを比較し検定する。
  2. 偶発性の検証:ワクチン接種群において死亡や発症が偶発的に起きているかどうかを検証する。

厚労省は、統計解析においては、接種群の発生率とコントロール群のそれとの比較をするコホート研究のみを重視しています。私はそれだけでは不十分であり、「偶発性の検証」をするべきと繰り返し主張してきました。厚労省は、因果関係のない有害事象を、偶発的事象と説明しています。しかし、偶発的であるとする根拠を何も示していません。したがって、本当に偶発的と言えるのかを検証することは極めて大切なことなのです。

接種後0~20日のリスク期間の発生率と接種後22~42日の比較期間(コントロール期間)のそれとを比較検定することの本質は、偶発性の検証です。事象が偶発的でなければ、接種後の発生数は「接種から発生までの日数」と逆相関して変動するはずであり、その場合は、リスク期間の発生率は比較期間のそれより高くなるはずだということが基本原理です。偶発的でないことが直ちに因果関係があることを示していると断定することはできませんが、何らかの関係があることを示しているとは言えます。

リスク期間の発生率と比較期間のそれとを比較する解析手法として比較的有名なものには、SCRI法(self-controlled risk interval design)とSCCS法(Self-controlled case series)があります。前者では接種者のみを対象とするのに対して、後者では接種者と未接種者を対象にしています。偶発性の検証する手法としては、接種者のみを対象とするSCRI法の方が優れていると私は考えます。コホート研究と比べますと、知名度は低い統計手法ですが、PubMedで調べますと、ワクチンの安全性をSCRI法で調べた論文は2013年以降で12編、SCCS法で調べた論文は2006年以降で67編公開されています。

接種群の発生率とコントロール群のそれと比較検定するコホート研究では、発生率が低い場合には、第二種の過誤が生じやすいという問題があります。コホート研究で有意差が認められないことは、因果関係がないことを意味しているわけではありません。有意差が認められるほど発生率が高くなかったことを意味しているだけです。厳密に言えば、因果関係がないために有意差が認められない場合と、発生率が低いために有意差が認められない場合があるのです。

また、偶発性の検証では、接種者のみを対象としているため、補正するべきバイアスが少ないという 利点があります。コロナワクチンのコホート研究では、「接種群には、全身状態が悪い人はほとんど含まれない」というバイアスが存在しており、その補正は極めて困難なのが現実です。何故ならば、未接種群において全身状態の悪い人の割合は調査されていないからです。

「コホート研究で有意差が認められなかったから、ワクチンは安全だ」とする考え方は、「因果関係があっても発生率の低かった有害事象は、存在しなかったことにする」という考え方につながります。 現実に副反応で苦しんでいる人がいる以上、私はこの考え方を容認することはできません。

第一戦の研究者では、ワクチンの安全性をコホート研究で推定するだけでは、高い信頼性が得られないと考える研究者が増加しているように思われます。ASA声明でも、科学的推論をする場合には、複数の手法で解析することが推奨されています。最近の論文では、2つの手法でワクチンの安全性を評価する論文が公開されています。

論文1:A post-marketing safety assessment of COVID-19 mRNA vaccination for serious adverse outcomes using administrative claims data linked with vaccination registry in a city of Japan

論文2:Assessment of Herpes Zoster Risk Among Recipients of COVID-19 Vaccine

論文1では、コホート研究とSCCS法が使用されています。論文2では、コホート研究とSCRI法が使用されています。なお、論文1は厚労省のWebサイトで紹介されています。

厚労省は、「SCRI法はワクチンの安全性を検証する世界的に認知された統計手法である」ことを、そろそろ学習するべきです。

【補足】
今回の私の論文内では、「偶発性の検証」という用語は一度も使用されておりません。これは、査読者がこの用語は統計学の用語として認知されたものではないため、削除するべきであると、私に指摘したためです。そのため、不本意ながらこの用語および偶発性に関する考察を削除して、論文を再構成しました。